64.頭から離れない
ちょっと短いですが……
(どうしてだろう、昨日まではあれほど傍にいたいと思っていたのに、今日は全くそんな気が起きない。それに何故だ……牢に捕らえたあの女の顔がちらつく……憎い相手だからか……?)
シオンは、ヴィオラを牢屋へ捕らえた後はずっと執務室にこもって仕事をしていた。
昨日までは感じていた番である人の傍に常にいたいという気持ちが、マデルに対して全くと言っていいほどわいてこない。
しかし、記憶の中の彼女を想うと、好きであるという気持ちは消えていないことはわかる。この不可思議な状態に疑問を感じ、気持ちの整理がつかずにいた。
(しかし、まさか彼女を苦しめていた義理の妹が現れるとは……この城の警備は万全であるはずなのに、いったいどこから? フランメの報告を待つしかないか……)
仕事が終わり、夕食をマデルはとっくに一人で終えているらしかったので、シオンも一人で食べ終えた。その時に酷く疲れた顔をしたロージーが来て、今日のマデルについて、ペイアーや騎士たちにベタベタしたことまで報告を受けた。
正直、嫉妬という感情がどうしてかわかず、なんならそのマデルの行動に終始引いてしまった。今までとの行動の乖離に困惑し、ロージーには何も言えず、お互い黙り込んでしまった。
「そういえば、あの女はどうだった? 聞き出せたか?」
「捕らえたあの者ですか……その……」
「?」
「も、申し訳ございません、尋問はお二人の式の後に延期いたしました……」
「何故?」
「その……正直、あたしにもわかりません……ただ、あの子が……涙を流す姿を見ると……できなくなって……誠に申し訳ございません!」
ロージーは本当に困惑している様子で、自分でも何故延期をしてしまったのかわからない様だった。
しかし、どうしてかシオンは心の中でほっとしてしまっていて、あれほど憎んでいた対象にこのような気持ちを抱いてしまい、心がばらばらになったような感覚がした。
そして、何故か捕らえた女の顔が目をつむる度に浮かび、頭にこびりついて離れなかった。
「わかった……そのまま延期しておいてくれ……マデルとは、今日話してみる」
「はっ……あの、殿下……捕らえた女は最終的にどうなさるのですか?」
「…………後ほど改めてマデルにも意見を聞いてから決めることにする」
「……承知いたしました」
シオンはどうしてか後ろ髪を引かれる感覚がしつつもマデルと話すために寝室に向かった。途中、気分が悪くなってきたので、誕生日の贈り物としてもらった刺繍の入ったサシェをポケットから取り出して香りを嗅ぐと、とても心が落ち着いた。




