61.なり替わる
ヴィオラは気絶するように眠ってしまっていたが、朝の陽ざしを感じ、目が覚めた。
辺りを見渡すがシオンは戻っていないようで、ベッドには一人きりだった。
首にはくっきりとシオンの噛み痕が、腕は赤くなっていて、昨日の出来事が悪い夢ではないのだと思い知る。
眠ったおかげで頭が冷静さを取り戻していて、昨日の夜は普段のシオンとは違いすぎることに大きな違和感を覚えた。
(殿下どうしてあんなことを? 明らかにいつもの殿下とは違った。それとも、それほど殿下を不安にさせてしまったということ? わたしのせいで殿下をとても不安にさせてしまった……謝らないと、それで……)
昨日の夜、シオンが「ごめん」と謝ったことを思い出す。
どうしてあのような行動に出てしまったのかわからず、さまざまな疑問が浮かぶが、結局はシオンと話し合わなければ解決するものではない。
(殿下と話がしたい……探さないと……それでお話して、ちゃんと謝って……でも、お話してくれるかな、こんなに傷つけてしまったのに……)
身支度をしようと隣の部屋に行く、時計を見ると思っていたよりも深く長い時間眠ってしまっていたようで、時計の針はだいぶ回っていた。
ヴィオラは首をかしげる。さすがにこの時間になってしまえば、ロージーか誰かが起こしにきてもおかしくないというのに、誰も部屋にはいない。
(ロージー様、訓練に出て、まだこちらには戻っていないのかな? でも、他の人もいないだなんて……)
身支度は一人で終えて誰かいないかと廊下にでた。
しかし、廊下にでたところで、思いもよらない人物に出会った。
「きゃぁあん! どうして、あなたがここに~?」
ヴィオラのトラウマを引き戻す、この猫をも逃げ出すような甘ったるい声には聞き覚えがあった。
「マデル……お姉義さま……?」
そこにいたのは継母であったハイドラの連れ子のマデルであった。
ごてごてに宝石をつけた豪華なピンクのドレスを身に着けて、鼻を膨らまし、勝ち誇った笑みでヴィオラを見下す。
そして、何より信じられないのは、マデルの側にはシオンの姿があることだ。
「どうして、あなたがここに……だって、ここって……殿下、これはいったい?」
「いやぁ~ん、たすけてぇんシオンさまぁ、またいじめられでもしたらって思うと、マデル怖くて怖くて」
「まさか、あれがマデルが言っていた、君をひどく虐めていたという義理の妹か?」
「そぉでぇす」
あまりにも頭がついていかない会話に、ヴィオラはめまいがした。
マデルがシオンにべったりとくっついていて、シオンはヴィオラに対して敵意のこもった目で睨んでいる。
マデルがシオンに触れているのをみると胸の奥がかきむしられるようだった。
「やめてお姉義さま! その人に近づかないで!」
「きゃあ、こわ~い」
「マデル、離れておけ。衛兵! この者を捕らえて牢へ!」
「殿下? どうして? わたしです、ヴィオラです! どうしてしまったのですか!?」
ヴィオラはマデルがべったりとシオンにくっつくことも耐えられないが、このようにシオンに睨まれるのはより耐えがたく、心がえぐられるようだった。
ヴィオラが放心していると、すぐに兵士が集まってきて、その中にはロージーの姿もあった。
彼女の姿を見てほっとしたのに、彼女もシオンと同じで、見たことのないほど冷たい目をヴィオラに対して向けている。
「ロ、ロージー様……?」
「捕らえよ!」
ヴィオラはあっけなく兵士に拘束され、押さえつけられた拍子に膝が崩れ落ちた。
見上げるとマデルの優越感に浸った笑う顔が見えた。
「マデル、君はこの者をどうしたい?」
「うぇ~ん、とぉっても嫌な思いさせられたからぁ、殺しちゃって♡」
「っ……お、義姉さま……!?」
マデルが甘ったるい声をだしているというのに、その内容は悪意に満ち満ちていて、ヴィオラの命がなくなることに躊躇がない。この人はいつもそうだった。自分以外の人がどうなろうと、関係ないのだ。
しかし、「どうしたい?」と尋ねたはずのシオンが首をかしげて不思議そうな顔をし始めた。
「……? 殺して、いいのか? 君はあのデルフィスにさえ、慈悲を与えていたというのに…………?」
「あっ、あぁ! そう、そうだったわ! そう、牢屋にいれてくれたらいいから! とにかく見えないところにやって!」
「そう、か……わかった」
シオンが不思議そうな顔をすると、マデルは慌ててヴィオラの処刑を撤回した。
ヴィオラはいくら訴えても誰にも取り合ってもらえず、虚しくも城の地下の牢屋にいれられてしまった。




