57.あなたの騎士に
次の日の朝、ヴィオラのもとには大量の手紙と贈り物が届いていた。
使用人があらかじめ内容を見て説明をしてくれるのだが、贈り物はヴィオラへの結婚祝いで、手紙はいずれもお茶の招待であった。
ヴィオラはその手紙の多さとまだ貴族たち全員を把握できているわけはないので、どうしたものかと悩んでいると、シオンがテキパキと「要らぬ、要らぬ、要らぬ」と仕訳?を始めた。
「殿下、今のところ全部要らないに振り分けていますよね?」
「ヴィオラに会わせてよいほどの者が少ないのが悪い。この手紙は昨日の貴族の集団にいたやつらだ。大方、ヴィオラを懐柔しようと考えているのだろう。ふん、ヴィオラのことを舐めていたことが文章から見てとれるし贈り物もそうだ。昨日、ヴィオラの重要性をようやく認識して急いで用意したのだろう。どれもこれもセンスが悪い……それも要らぬ、てきとうに処分しておけ」
「そ、そうですか……難しいですね。あ、それは……」
「これも要らん」
「い、要ります! お詫びのお手紙ですよ……昨日のご令嬢ですね」
ヴィオラが手紙にゆっくりと目を通し始めると、シオンは(いらんだろう……)と不満げにジトっと見てきていたが、ヴィオラは気づかないふりをした。
「悪い方ではなさそうでよかったです……もしも……お、お友達になってしまったらどうしましょう……えへへ」
「えっ、可愛い……ではなくて! そんな性格の悪いものなどヴィオラの近くに置く必要があるか? 要らぬ要らぬ!」
「良いか悪いかはもう一度お会いしてから決めることにします。もし、うまくいかなかったらその時はその時です」
「肝が据わっているな……好きだ……まぁ、どうせ会うとしたら式の後だろう。ゆっくり決めるといい。仕訳はあとは使用人に任せて、僕たちのことを考えよう」
「はい、わたしたちの結婚式……ふふっ、楽しみです」
間もなくに迫った結婚式に向けての準備は最終段階に入る。
これからの二人の未来に向けて期待と幸せで胸がいっぱいに満たされ、ヴィオラは幸せすぎてどうにかなってしまうのではと考えてしまう。
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少し時間ができ、騎士団に顔を出しているロージーや別荘の城で仲良くなった他の花の使用人たちにヴィオラは会いに行くことにした。
彼女たちはもともと騎士団員であり、シオンの護衛兼世話役という粒ぞろいであったらしく、ヴィオラはそれを聞いた時は驚いた。
ロージーたちに会いに行くと告げるとシオンも行くと言い出した。
騎士団員はほとんどが男性であるからシオンは気が気でなく、ヴィオラにぴたりとくっついている。
ヴィオラはシオンにぴたりとくっつかれているのがなんだかとても大きい犬に抱き着かれているように感じた。
「殿下、少し歩きにくいです……」
「僕は今日ヴィオラが足りていない。もっと密着するべきだと思う。抱っこしてよいか?」
「抱っこは恥ずかしいのでダメです……訓練場はあちらですか?」
「うむ……(今日も可愛い)」
訓練場は城の西にあり、日々多くの騎士団員が訓練に明け暮れている。
騎士団員は城の警備はもちろん、平和ではあるこの国でも時折魔物という、ヴィオラのいた世界の動物よりもずっと大きな生き物が出没した時には討伐に駆り出される。
休憩中のようで、座ってかいた汗をタオルで拭っているロージーの姿が見えた。
髪の毛を上で一つにくくっていて、普段見ていたワンピース姿とは違ってズボン型の訓練着を着ているのでなんだか別人のようだ。
他の花族の使用人たちも同様で、かっこよさに少しヴィオラはドキドキした。
「皆さま!」
「あれ? ヴィオラ様!に殿下、わざわざこちらにいらしたのですか!?」
「ロージー様たちに会いに来ました。わぁ、皆さまとてもかっこいいです!」
ヴィオラは純粋に思ったことを口に出したのだが、シオンが後ろでじとりとヴィオラを見いている。
(ありゃー、これはヴィオラ様あとで大変だわ……)
ヴィオラとロージーたちはしばらく談笑し、シオンはその間随分と大人しくしてた。
この大人しさが後々に響いてくるのがロージーら使用人たちは想像できたのだが、ヴィオラ本人はまだ気づいていないようだった。
「そうだヴィオラ様、あたしの兄たちをご紹介いたしますわ」
「お兄さまたち! たしか、6人兄妹でしたよね?」
「はい、あたしが末の妹で、その他兄たち全員騎士団に所属しておりますの。まぁ、家は騎士の家系なので、自然と言えば自然ですけれど」
「ぜひご挨拶したいです」
ロージーはシオンの視線が痛いが、まぁ放っておくことにした。
きっとシオンはこれで怒るのではなく、もっと別の方向に感情が向くだろうから、刺激しても二人の仲がぎくしゃくすることはないだろう。
若い騎士団員たちに指導する人物とその傍らにいる人、それと訓練している何人かに向かってロージーが手招きするとすぐに彼らは走ってロージーのもとに駆け付けた。
兄というので、皆ロージーのようなバラに似た花が咲いているのかと思ったが、それぞれ別の花が頭から咲いていて、ヴィオラは血が繋がっていてもこうも違うのだなぁ、と関心した。
そのうち一番大柄で近づくだけで熱気を感じるが、頭に咲いている可愛らしいピンクと本当に小さな白色の花にギャップを感じる男性が大きな声で挨拶をする。
「おおおおっ! バシレウス殿下、それにヴィオラ様ですな! 銀竜騎士団長のブーゲン・アフェクシオンと申します!!」
「ブーゲン兄さん、声が大きい……」
「そうか? 元気が良いのはいいことではないか! ガハハハッ!」
「ヴィオラ様、すみません騒がしくて……えと、数が多いので……こっちが副団長で次男のホスタ、三男のダンデ、四男のシンス、五男のガーベです。覚えるのも大変なので、『おい』とでも呼びかけていただければと思いますわ」
「そんな、ちゃんと覚えます! ブーゲン様、ホスタ様、ダンデ様……シンス様……ガーベ様」
「おおお! 殿下の番になられた方は記憶力が素晴らしい! 何よりも、ワタシたちに寄り添う態度が尊くあられる! なんと素晴らしいことか! 妹から話は聞いておりましたが、うむ、良い方ですな!!」
ブーゲンが快活に笑い素直にヴィオラを褒めるものだから、ヴィオラは照れて俯いてもじもじとしていたが、隣に立つシオンがどうしてかヴィオラの分まで自慢げにしている。
「ブーゲン兄さんうるさいってば……申し訳ございません、兄は昔からこうで……」
「いえ、先ほどおっしゃられた通り、元気なことはよいことですよ」
「うむうむ、安心しましたぞ殿下! 素晴らしい方を見つけられましたな!」
「ふふっ、ふふふそうだろう。僕のヴィオラは全てが素晴らしいのだ!」
「ちょっと、殿下そんな大きな声で言わないでください……」
「ロージー! 殿下がこんなに良い方を見つけたのだ! お前はどうだ? ペイアー以外で!!」
そのほか兄たちもうんうんと頷いて、ロージーに迫る。
想像していなかった方向に話がとび、ヴィオラは驚いたが、実は少し興味がある。
ずっと自分の世話に勤しんでいたロージーから色恋の話を聞いたことがなかった。
少し、ブーゲンが強調していた「ペイアー以外で!!」というのは気になるが、もし彼女に気になる人がいるのならば聞きたいし、なにより応援したい。
ロージーは兄たちのいつもの問いには慣れていたが、ヴィオラのそんな気持ちが駄々洩れのきらきらとした瞳には少したじろいだ。
「いつもいっているでしょう。あたしはそういうの興味ないって! それにあたしはヴィオラ様に一生を捧げるって決めたの!」
「えぇ!?」
一番に声を上げたのはヴィオラだった。思ったより大きな声が出てしまい、恥ずかしくなって、頬を赤くしていた。
「こほん……す、すみません………いえ、ロージー様がそう決めたのでしたら、わたしは応援! あれでも、どう応援すれば……??」
困惑しているヴィオラにロージーが吹きだして笑いだした。
「アハッアハハハ、もう、そういうところが可愛らしいし、好きなのですよ。兄たちの言っていることは気にしないでくださいまし、いつもこうなのです。あたしが結婚しようがしまいが家には影響なんてないですし、あたしは一人で生きていけるだけの仕事を持っているし、それになにより目標もできて充実しているんですよ。なので、そういう意味で結婚は必要ないという考えに至りました」
「目標?」
ロージーがヴィオラの前に跪き、ヴィオラを見上げる。
彼女のバラ色の瞳は希望の光に輝いていて綺麗だ。
「ヴィオラ様の正式な騎士になることですよ」
にこりと優しく微笑みかけられ、彼女の誠実な気持ちをまっすぐに向けられると、ヴィオラは心臓がせわしなく鼓動する。
「わ、わたしの騎士ですか!?」
「はい、王族はそれぞれ騎士団を持つことが成人になると許されるのです。もとは殿下の騎士になろうと考えておりましたが、殿下すみません、心変わりしました」
「おい、本人の目の前でいうのか……まぁ、ヴィオラの騎士ならばいいが……」
「ヴィオラ様が騎士団を持つとすれば殿下と婚姻を結んでからになりますが……その時、あたしは一番近くで貴女様をお守りしたい」
「ほ、本当によいのですか……その、わたしで……」
「はい、ヴィオラ様だからです。どうか、あたしの一生に一度のお願いを聞き届けていただけると嬉しいのですが」
「あの……はい、もちろんです。どうかこれからもよろしくお願いいたします」
ヴィオラが嬉しさの詰まった笑顔でしっかりと返事をするとロージーはパッと花が咲いたように笑ってぎゅっとヴィオラを抱き締めた。
周りで見守っていたロージーの兄たちは「そうかそうか、ロージーも大人になったんだなぁ」と感慨深そうに盛大に男泣きをし始めていた。
シオンは少し寂しさを感じながらも姉のように慕っている彼女が今一番幸せそうな姿を見て、安心と心からの喜びを感じていた。




