55.不適切です!
キャラは一瞬で崩壊する(´・ω・`)
シオンは時折、肌身離さず持っているヴィオラからもらったサシェの香りに癒されてなんとか気を保っていられたものの、心が落ち着かず仕方がなかった。
せっかくヴィオラが自分に会いに来てくれたと思ったのに、なんとフランメは彼女を部屋にも入れず、一目見ることもかなわなかった。
そして、そのあげく書類をどっかりと机に置いて「これからヴィオラ様に王妃としての教育をさせていただきます。その間、こちらを終わらせておいてください」と冷淡に言い放って、ヴィオラと一緒に行ってしまったようだ。
(ヴィオラが男と同じ部屋!? わかっている、ルコウの息子であるし、僕も昔から知っているから、そんなことには絶対ならない。ただ、あいつの、悪い癖が! ヴィオラにまで及んでいたら………うあああああ!!)
「おわった! ヴィオラ!!」
仕事を素早く終わらせて、ヴィオラのもとに急ぎ足で向かう。
(いやいやいや、出会って初日であいつがあの悪癖を他人にさらすとは思えない。ただでさえ他人とは距離をとる奴だし……だよな? だよな!? いやいやいや、真面目に授業を受けているはずだ。これは彼女にも必要なことだから……駄目だ! 気が狂いそうだ!)
「ヴィオラ!」
シオンがノックする余裕もなく扉を開くと、予想の中で一番最悪な状態だった。
「ヴィオラ様いいです! その調子でございます!!」
「黙りなさい。今、あなたは椅子ですよね。椅子は話しませんよ?」
「はいいいい! 申し訳ございませんっ女王様ー!」
なんということだろう、フランメの悪癖が爆発している。
現在フランメは床に四つん這いになっていて、その背中にヴィオラが座り、ゆったりと本を読んでいる。さらに、ヴィオラはフランメに話しかけられてもそれを冷たい目と口調で一蹴する。
「うわああああ!? フランメ! 僕のヴィオラに何をさせている!!??」
「あっ、殿下! お仕事が終わったのですね。お疲れ様です。ちょうど今フランメ様から女王様の雰囲気というのをご指導していただいていました」
ヴィオラはシオンをみとめるととびきりの笑顔を見せてシオンに駆け寄った。
シオンはヴィオラの無邪気な笑顔が可愛くて抱きしめると同時に、フランメに接していた部分を触って匂いの上書きをしようと試みたが、それはお尻の部分であるので、さすがにヴィオラに止められた。
後ほど人目のないところで上書きするしかないと、ぐっとこらえる。
フランメがふらふらと立ち上がる。
息が荒く、眼鏡が曇っているが、表情はいつものあの無表情に戻っている。
「殿下、お疲れさまでした。書類は後ほど確認させていただきます」
「おい、何を普通に話しかけているっ!? なんでだ、なんで、短時間でお前の悪癖がもうでているのだ!?」
「ヴィオラ様には素質がございましたので、最大限その素質を引き出したい。そう考えましたので、さっそく行動を……まだまだ改善点はありますが、素晴らしかったですよ。より上を目指せます」
「本当ですか? ありがとうございます、フランメ様」
「ヴィオラ、やめなさい! こいつの『女王像』は偏り過ぎているのだ!」
「偏り?」
「ちくしょう、僕だってヴィオラにあんなことされたことないのに……」
シオンがめそめそとし始めて、ヴィオラはどうしてそんな気持ちにさせてしまったのかと驚きと申し訳なさでいっぱいになる。
「ご、ごめんなさい、殿下……わたし、将来お母義さまのように凛とした雰囲気がだせるようになれたらと思って……嫌だった?」
「ヴィオラが一生懸命になっているのはわかっている、僕がそれを強いてしまっていることも……僕が嫌なのは、君の身体がこいつに触れたことだよ……ううぅ」
「そ、そうなのですね……あのフランメ様、別の方法で学ぶことはできますか?」
「もちろんです」
「いいや、訂正する! この教育はヴィオラに悪影響すぎる! やめろ、今すぐ!」
シオンが慌ててヴィオラを抱き寄せて、フランメからより遠ざける。
フランメは眼鏡をくいっと上げながら「チッ」と舌打ちしたのが聞こえて(こいつっ!)とシオンが憎々し気に睨みつけた。
本当ならこれ以上悪影響を与える可能性大のフランメをヴィオラの教育係などにし続けるわけにはいかなかったが、ヴィオラにフランメの授業はわかりやすいし、言いにくいことも遠慮せずに言ってくれてありがたいから続けさせてほしいといわれた。
シオンは悩みに悩んで、ロージーを同席させるならいいと折衷案をだして、ヴィオラは受け入れたが、フランメは渋い顔をしていた。
(ふんっ、ロージーならばフランメの悪癖を撥ね退けられるからな。見張られるといい!)
ヴィオラが笑顔でシオンの手を引いて耳元で「本当は今日殿下と離れていてとても寂しかったです」とささやかれると、シオンの苛立たしい気持ちはどこかに吹飛んでしまった。




