54.特訓しましょうか
「では、第56問。4代目国王が行った孤児を保護するために施行された法を答えてください」
「はい、孤児生活保護法です」
「正解です。では第57問、4代目国王統制時代に輸出入、未許可の生産が禁止された植物の……」
ヴィオラの教育係をすると言い出したフランメとともに、城の一室でヴィオラは勉強に励んでいた。
フランメが問題形式で今までの知識がどれだけ培われたかを判断するそうで、淡々と問題をだす。
途中間違えても、フランメはわかりやすくその問題の周辺の出来事まであわせて丁寧に説明してくれた。
フランメは、口調は冷たく感じるが、説明はわかりやすいし、決して知らないことを貶したりはしない。
人を馬鹿にするような人ではないのに、どうして先ほどはあきれたため息をつかれたのかヴィオラはわからないが、今はそれを考えられる余裕はなかった。
「歴史はまぁまぁ、ですね……ロージーさんにしては短期間で詰め込みましたね」
「ご指導ありがとうございます、フランメ様」
ヴィオラがお礼を言うと、またあの深いため息をつく。
ヴィオラは何故またそのため息をついているのかがわからず、きょとんとしてしまう。
「さて、知識、基礎作法に関してヴィオラ様がどこまでできるか把握いたしました。これからお伝えするのは、王族となるのに最も大切なことです」
「はい……っ」
ヴィオラが生唾を呑み込み真剣にフランメを見つめる。
フランメはかけている眼鏡をくいと上げた。
「謝らず、感謝の言葉を軽々しく言わないことです」
「え? でも、それって……」
「もっと言えば下々の者に対して自分を卑下するような言動は慎んで……いいえ、しないでいただきたいのです。ヴィオラ様、正直に申し上げますと、貴女様の使用人に対して礼儀正しすぎるその態度でいつか必ず貴女様は足元をすくわれるでしょう。失礼ながら、こちらにいらしたときの貴族方とのやりとりを拝見しておりました。あれでは見下されてもしかたありません。貴族は上げ足をとることに長けておりますし、下々の者には舐められますよ」
「……」
「威厳を維持することはとても難しいのです。作り上げるまでには時間がかかり、崩れるのは一瞬です。殿下が今まで積み上げてきた『王』としての威厳、強さ、畏怖、尊敬……貴女様の言動で、一瞬で崩れてしまうのです。貴女様は平民ですよね。正直貴女様にはこの世界は肌に合わないかと思われますので、早々にご退出された方がよいかと進言いたします」
フランメの口調は冷たくはあるが、芯を通した強さがある。彼には彼なりの正義があり、それをもってラナンやスィラ、シオンを支えてきたのだろう。
しばらく、冷たくしんとした空気が流れた。
フランメは少し強く言い過ぎた思う自覚はあったが引き下がる気はさらさらない。
(この人もダメか……)
フランメがそう思ったその時、ヴィオラはどうしてか優しく微笑んでいて、礼儀正しくお辞儀をし、フランメは面を食らった。
「ありがとうございます、フランメ様。ご心配してくださったのですね」
「なっ……あの、人の話を聞いていらっしゃいましたか!?」
「確かに、フランメ様がおっしゃる通りだと思います。きっと……いえ必ずわたしのこの言動は今まで殿下が積み上げてきたものを壊してしまうと思います」
「なら、どうして?」
「わたし、実はそれを壊しに来たのです。殿下が今まで力や権力や容姿で周りの人に感じさせてきたそれは、殿下の心を追い詰めていました。ですので、殿下を苦しめるものはわたしは壊さなくてはいけないのです」
「…………」
「それに、壊れてしまったのならまた作り直します。でも、今度は殿下が息をしやすくなるように、心が潰れてしまわないように、一緒に積み重ねていきます。心配してくださったのに、こんな返答になってしまい、申し訳ございません。でも、決めましたので、わたしも引き下がりません」
フランメは眉間に皺を寄せて、じっと考えている。
ヴィオラはフランメのこの冷たい口調の内にシオンを想う心があるように感じて、決してこの人を嫌いにはなれないと思った。
しばらく、考え込んでいたフランメはまた無表情に戻り、ヴィオラをまっすぐに見つめる。
「そちらの道の方がずっと険しいとご理解されていますか?」
「はい、もちろん。それでもです」
「なるほど……残念です」
「あ、でも、フランメ様のおっしゃることもわかります。女王陛下の凛とした雰囲気を感じた時、あのようになれたらとも、思いましたし……」
「………そうですね。ずっとそのようになよなよされていては舐めくさられるでしょうから、あくまで武器のひとつとしてお持ちになられてはいかがでしょうか? よろしければ、練習をしてみますか?」
「練習できるものなのですか? 頑張ります! よろしくお願いいたします!」
フランメは無表情なので何を考えているかまではわからないが、ヴィオラを追い出そうとすることはなく、最大限にヴィオラに寄り添ってくれていると考えるとヴィオラは嬉しくてたまらなかった。
こうしてフランメとヴィオラの女王特訓が始まった。




