52.どうぞよろしく
「……それでその時のしーちゃんってば、泣いて暴れて大変だったのよぉ、ホントに魔力が強くて抑えるのはいつもあたしとスィラの二人がかりになるの」
「ふふ、そうなのですね」
ラナンに連れ去られたヴィオラは美味しい茶菓子とお茶でもてなされて、ラナンとスィラの話すシオンの幼い時の話を聞いていた。
自分の知らない幼いころのシオンの話を聞くと、ヴィオラの心の奥底から愛おしさがこみあげてくる。
「あ、そうよ、ヴィオラちゃんのこと聞くのだったわ! ヴィオラちゃんは、どう過ごしていたの? ご家族は? お父さまは別荘で会ったけれど、お母さまはどんな方? 人間の国で過ごしてきたのでしょう? どんな感じなの?」
「えと……その……」
ヴィオラの表情が曇る。
自分の家族との思い出の大半はあまり思い出して心地の良いものではない。
ただ、もっと奥深く、大好きな父と母の思い出までさかのぼると、曇った表情に光が差す。
「母は自然が好きな人で、幼い時は一緒に散歩をして、草花のことを教えてもらいました。他にもお料理や刺繍、作法まで、本当にたくさんのことを知っている人でした」
「そう、今のヴィオラちゃんはお母さまが作り上げたのね……ヴィオラちゃんを通してお母さまが見えてくるようよ」
「ありがとうございます……雰囲気だけでも似ているなら嬉しいです。父がわたしは母に似ているといってくれますが、わたしは見た目にはどうしてか父にも母にもよく似てはいなくて……そういえば、見た目ですとペロージア様が母とよく似ています」
そういえば、ペロージアに不思議と母の面影を感じたことを思い出す。
母は背が高く髪色は暗く、瞳も金色で自分とは似ても似つかない。それを不思議に思ったが父も母も性格や行動で似ている部分がたくさんあるのだから気にすることではないよ、と言い聞かせられたものだった。
「ぺ、ペロージア!? ヴィオラちゃん、もしかして、彼女と話した?」
「はい、お城の敷地にある小屋で少しお話ししました」
「そ、そう、あの子が他人と話すなんて珍しい……」
よほど珍しいことなのだろう、ラナンは不思議そうに首をかしげてうーんとうなっている。
ヴィオラは出会ってからずっと思っていたがラナンのこうやってくるくる変わる表情はシオンと似ている。けれど、ラナンの隣に座り、ラナンを愛おし気に見つめているスィラの瞳もシオンととても似ている。
二人を見ているとシオンを思い出し、心が寂しくなってしまった。
(ちょっとの間だけなのに、もう寂しくなっちゃった。だめだよね、殿下はお仕事を頑張っているのだから……)
寂しさを隠して、ヴィオラは微笑みを浮かべる。今は新しく家族となった二人との時間に集中したい。
「殿下はお父義さまにもお母義さまにも似ていますね。表情や話し方とか……」
「うふふ、でしょ? でも、あたしたちを飛び越しちゃうくらい、とびきり綺麗な顔で生まれたのよね……ただでさえ王子というだけで誘拐の原因になるけれど、美しさを目当てに誘拐しようとする輩も現れて、本当に大変だったわ……おかげでこの城の警備はとっても厳重になったのよ。魔法壁を何重にもかけて、誰が出入りしたかも記録に残して……はぁ……」
「そ、それは……本当にご苦労されたのですね」
ラナンもスィラも誘拐犯との闘いの日々を思い出しているのだろう、少しげんなりとしていた。確かにあのシオンの美しさを考えると幼い時もさぞ美少年だったろうから、狙う人が現れてもおかしくないと思った。
「ヴィオラちゃんもとっても可愛いし美人だし、気を付けるのよ! さすがに城内は人を厳選しているし、侵入も難しいから大丈夫だけれど……」
「は、はい! (そうだ、わたしも立場ができてしまったのだから、ちゃんと気を付けないと!)」
「まぁ、でも万が一、本当にそんなことが起きたらシオンが暴れて大変なことになっちゃうわね、あははは…………えぇ、本当に……あの子、魔力が強いからその気になれば国一つ消滅させられそう……」
「えぇ!? さ、さすがにそこまではしませんよ」
「……ヴィオラちゃん、竜族にとって番というのはとても重要な存在なのよ。それこそ、自分の命よりも、ね」
ラナンの真剣な声色に、ヴィオラは背筋がすっと伸びた。
『自分の命よりも』という言葉に、ふとデルフィスに攫われたときに教会で深く傷を負ったシオンの姿を思い出すと心が重たく、そして冷たくなる。
「番がいることで竜族は心が安定してさらには魔力が大幅に増大するの。だから、王族の竜族にとって番を見つけることはとても大事なことだったの。だから、シオンにヴィオラちゃんという番が見つかって本当に心の底から感謝しているわ。けれど、番はもろ刃の剣でもあるの、番を失ってしまった竜族はその後独身を貫いて余生を過ごすものがほとんどだけれど、時々、自害したり狂い果ててしまう竜族もいるの……」
「……そんな」
「ごめんなさい、脅したいわけではないの、ただ、まずは自分の命を大切にして、それが相手を、シオンを大切にすることにつながるから……どうか、シオンをよろしくお願いします」
「……はい!」
ラナンとスィラの真剣な瞳にしっかりとした声でヴィオラは返事をすると、ラナンもスィラも温かな微笑みを返した。




