50.王都渦巻く
「わぁ! あれが王都ですか? とても大きいですね!」
ついに王都へ引っ越す日となり、ヴィオラはシオンとともに馬車に乗って移動している。窓から遠くに見える王都は元いたアナト王国の王都よりも建物も多く、栄えているのが見てとれる。
建物には色とりどりの塗料が使われているようで、遠目でもその色鮮やかさに圧倒される。
「王都も1年ぶりか……」
「楽しみですね」
「そうだな、ヴィオラと行くところならばどこだって楽しい」
「ふふっ、またそんなこと言って、王都には殿下のお父さまもお母さまもお待ちでしょう? それにご友人だって」
「…………それで気が重いのだ……ヴィオラに迷惑をかけてしまうのでは、と……母上なんて随分とうるさかっただろう?」
「そんなことないですよ。とても明るくて、それに愛情深い方ですし……でも、あの、わたし失礼なことを考えてしまって……」
「なんだ? ヴィオラが失礼なことをするとも思えないが……」
「殿下と結婚したら……その、お母義さまとお父義さまとお呼びしてもいいのかなって、楽しみになってしまって」
ヴィオラが恥ずかしそうに頬を染めて、指をもじもじさせながら言うものだから、シオンはヴィオラのかわいさに引き寄せられるようにヴィオラの額にキスをしてからハッと我に返った。
ヴィオラにとって父と母という存在が特別なものになっていると思うと、この発言に感慨深さを感じた。
「そんなことを言われたら、きっと父上も母上も喜びで泣いてしまうぞ。特に母上は僕に番ができたらいろいろとやりたいことがあると常々夢を膨らませていたからな……大変なことになりそうだ……」
「ふふっ、泣いてしまうのですか? それは大変ですね」
(冗談ではないのだが……)
シオンはこれからヴィオラの取り合いが始まってしまうかもしれないと思うと心配でならず、せめて今だけでもヴィオラの近くにいようと彼女を膝にのせて抱えて頬を摺り寄せた。
ヴィオラはシオンの冗談だと思っているようで、これからの生活に期待で胸を膨らませながら、抱きしめてくれるシオンに寄り掛かった。
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シオンとヴィオラは外壁の門を通り王都に入る際には屋根のない馬車に乗り換えた。
国民に王子の姿を見せることで本当に呪いは解けたことを示し安心させるためであると同時に、シオンにとっては隣に座るヴィオラが自分の番であることを知らしめるためでもあった。
門をくぐると多くの国民が王子の帰還を祝い、魔法で作られたきらめく花吹雪が空を舞う。これほど多くの人々の歓声を浴びると、これほどまで空気の震えを感じるものなのかとヴィオラは驚いた。
『殿下ー! 殿下ー!』
『きゃー! バシレウス殿下ー!』
『あの方が噂の殿下の番のヴィオラ様? まぁ、なんてお綺麗なの!?』
シオンが国民向けの微笑みを見せながら国民にゆったりと手を振っている。
横に座るヴィオラをみると緊張しているのだろう、顔が引きつってしまっている。無理もない、このように多くの人から注目を浴びることなど彼女の人生で一度もなかったのだから。
「ヴィオラ、こっちをむいて」
「あ、はい」
ヴィオラがこわばった表情のままシオンの方を向くと、シオンがごく自然に唇を重ねた。
その様子を見ていた国民たちの歓声がどっと大きくなった。
ヴィオラは恥ずかしさで頬が赤くなって、言葉がでずに口をぱくぱくさせている。
シオンは先ほどの国民に向けた微笑みとは違う妖艶な笑みをヴィオラに見せた。
「ふふっ、我が国の民にも君が僕の番であると知らしめないとな……もう一度しよう」
「も、もう恥ずかしいので!」
「はは、さぁ、いつものヴィオラだ。緊張するだろうが、大丈夫だぞ、なんたって僕が傍にいるからな。少しだけ国民に手を振ってやるといい、喜ぶぞ」
「あ……はい、ありがとうございます、殿下」
カチコチになっていたヴィオラはおかげで少しだけ緊張がほどけた。シオンが片手を握ってくれて、そこから力を分けてくれているように感じる。
ヴィオラが国民に向かって手を振ると、嬉しそうに手を振り返してくれて『きゃー! ヴィオラ様―!』という声が聞こえてきた。
ヴィオラに笑顔が戻り、城に着くまでヴィオラは笑顔で手を振り続けた。
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王子の帰還パレードの喧騒とは離れた、どこかの場所の薄暗い部屋の中で二人の話声がする。
一人は切羽詰まった焦りと苛立ちの混じった男性の声で、もう一人は落ち着いた艶のある女性の声。ただ、女性にはその男性をあざける態度が混じっている。
「む、息子は無事なのだろうな!?」
「ふふっ、そんなに声を荒らげないで、あの子は無事ですよ。時折『パパ~、ママ~』って泣くのが鬱陶しいのですけれど」
「くっ……頼む、なんでもする。息子を返してくれ」
哀れな男性は、床にひれ伏して頭を下げる。
女性はそれを見降ろして満足げな笑みを浮かべる。
「では、簡単な依頼をこなしてください。王城に出入り出来て、仕事も真面目にこなしてきた、周りから信頼されているあなたなら……いえ、あなたにしかできないことです」
「ま、まさかっ、王族を害するつもりか!?」
「あら、害する、なんて人聞きが悪い。ただちょっとしたお願いを聞いてくださるだけでいいのよ?」
「で、できるわけがない! 今まで私たち一族がどれだけ王族から恩を受けたか……それを仇で返せと!? それにそんなことをしたと知られれば我が一族は……」
「なら、あなたの愛おしい息子とは永遠にお別れですわねぇ……とても悲しいわ、大好きなパパに裏切られて、失意の中あの子は死ぬの……でも、むごたらしくて、私そういうの大好き」
「このっ……!!」
「さぁ、決めて……愛おしい我が子の命か? 私のちょっとした依頼をこなすか……」
男性はうなだれてその場に泣き崩れる。
彼に選択肢などなかった。




