49.夢見るお姫さま✿
2章ですっ!途中挿絵がありますので、見たくない方注意です
時は遡り、ヴィオラとシオンが屋敷を訪れていた時。
屋敷に引きこもっていたマデルは人の気配を感じて、そっと部屋の扉を開いた。
そして、廊下の先にこの世のものとは思えないほど、デルフィスなどそこらの小石に見えてしまうほど美しい男性がいるのが見えた。
マデルは夢ではないかと頬をつねったが、確かな痛みを感じ、この現実に高揚したのもつかの間、マデルにとって不幸であったのは、その男性は怪物のもとに行ったはずの義理の妹をとても大事そうに見つめ、優しく肩を引き寄せて歩いていたことだった。
(な、な、なんであいつが!? だって、怪物のところに行ったはずじゃ……どうしてあいつがいつもマデルの欲しいものを盗っていくの!? デルフィスさまよりずっとかっこいい人……絶対マデルの方がお似合いなのに!!)
マデルはヴィオラに対する憎しみがわき、ガジガジと自分の親指の爪を噛む。
今すぐ飛び出してヴィオラを問い詰めてやりたいし、自分の魅力をあの素敵な男性に伝えたくてたまらなかったが、引きこもってからというもの、みなしだみを整えていないことを思い出し、ぐっととどまった。
いつも世話をさせていたヴィオラがいないので、髪はぼさぼさで化粧も上手くできず肌もあれている、とても人前には出られそうにない。
(どうしよう……彼が行っちゃう。ママはあんなだし、パパは役に立たないし……どうしよう、どうしよう)
迷っているうちに二人の姿は見えなくなってしまった。
自分の不幸な運命にマデルは恨みで歪んだ形相になり、指から血が出るほど再び激しく爪を噛む。
「もう、これも全部あいつのせいよ! マデルからデルフィスさまを奪っただけじゃなく、あんな素敵な人までマデルから奪おうっていうの!? ひどいっひどい! こんなのあんまりよ! どうしてっ、いつもあいつばっかり!? マデルの方が可愛いし、綺麗なのに!」
ぶつぶつと恨みをつぶやく。
マデルは気がふれてしまったように、ヴィオラへの恨みと素敵な男性との素敵な日々の妄想を募らせて時間を過ごしていた。
しかし、その次の日、マデルの運命はがらりと変わる。
「あら、お困りですねぇ、素敵なお嬢様」
突然部屋に艶のある女性の声が聞こえ、マデルは驚いて飛び跳ねた。
見ると、紺色の髪に金色の瞳を持つ、美しい女性が掃きだめのようなマデルの部屋に佇んでいる。
彼女の美しさはこの汚い部屋には場違いで、まるで彼女の周りだけ別の世界の様だ。
「きゃー!? だっだれよあんた!? 泥棒!?」
「うふふ、確かに泥棒かもしれません。お可哀そうな貴女様をこの屋敷から連れ出しに参りましたから。ふふ、貴女様がご覧になったあの素敵な殿方とお近づきなりたくはありませんか?」
「え? で、できるの?」
マデルはこの女性がどこの誰かという疑問よりも、先ほどの男性と親しくなれるかもという期待に飛びついた。
「できますとも、かつて深海の魔女が陸に住まう人に恋をした人魚の姫を助けたように、私が貴女様の助けとなりましょう……ただし、幸せな結末が待つか、泡となって消えるかどうかは、貴女様の頑張り次第にございます」
「が、頑張り……ってどうするの?」
自分が努力するのには抵抗があるマデルは少しだけ後ろに引き下がった。
その怠惰な心の揺らめきに女性はすぐに気づいた。女性が指をならすとぼろぼろだったマデルの服は豪華で派手なドレスに代わり、指には大きな宝石が付いた指輪がついていて、ぐちゃぐちゃの部屋にいたはずなのに豪華な城のダンスホールに立っていた。
そして、傍らには先ほど見た素敵な男性が優しく微笑んで手を差し出してきた。
マデルはぽーっとしながらその人の手を取ろうとするが、その手は不思議なことに通り過ぎてしまった。
「な、なにこれ!? どうして触れないのよ!?」
「これは貴女様がほんのすこし頑張った後におとずれる未来でございます。大丈夫、私が手助けいたしますわ。そうすればあの素敵な殿方も豪華な服や宝石も全てあなたのものとなります。まずは貴女様のご覚悟を聞かせてください。やりますの? やりませんの?」
「や、やるわよ! それであの方と結ばれるなら、なんだって!」
「その言葉、お待ちしておりましたわ……ふふ、幸せのために頑張りましょうね」
マデルは輝かしい未来に瞳を輝かせていて、女性の瞳が暗い闇を映していたことに気づいていなかった。




