46.心の準備
文化と種族の違いかな?(´・ω・`)
パーティが終わり、夜が深くなりもう眠るころになったとき、ヴィオラは連戦を強いられていた。
ロージーに湯あみを勧められてお風呂につかったあと、用意されていた服がいつもの可愛らしいネグリジェではなく、大人っぽいのもが用意され、下着も大人っぽいものだった。
ヴィオラはその大人っぽいネグリジェを前にして頭を抱えてロージーをちょっとむすっとした顔で見る。
「ロージー様、いつものネグリジェと違うようなのですが……」
「ア、アハハ、たまにはこういうのも、いーかなーと……」
「言っておきますが、殿下とわたしはまだ、婚前! ですからね!」
「そそ、それは存じ上げておりますわ、オホホホ……ささ、風邪をひいてしまわないうちに着てくださいまし」
「もう!」
他に着るものはなく、今は目の前のものを着るしかないようなので諦めた。幸いに上にすっぽりと着る上着を用意してくれてはいたので、部屋までは我慢することにした。
初めてロージーに対して怒っていますよ!というのをヴィオラは示しているのだが、こんな風にぷりぷりと怒るヴィオラを見てロージーは心の中で(あらまぁ、かわいい)と思ってしまって、あまり効果がなかった。
「もう、殿下とも結婚するまでは、と決めたのですから……」
「そ、そうなのですか……ですが、それには殿下はどうお考えに?」
「殿下も理解してくださっているので!」
「殿下が?ですか? そうでしたか……?(でも、竜族が番に手を出さないなんてできるのかしら?)」
ヴィオラは今だぷりぷりと怒りつつも、部屋まで送り届けてくれたロージーにきちんとお礼とおやすみなさいを言って、寝室に入ると、第2回戦が始まった。
寝室のベッドにはすでにバスローブ姿のシオンが待っていて、ヴィオラを見ると大型犬が飼い主を見つけた時のような笑顔を浮かべ、両手を広げてヴィオラを呼んでいた。
ヴィオラはシオンの可愛らしさとまぶしさにめまいがしたが、しかし、ここで折れてはいけないのだとヴィオラは決心が崩れてしまわないように胸で拳をぎゅっと握る。
「殿下、どうしてここにいるのですか?」
「夫婦になるのだから、おかしくはないだろう?」
「ロージー様といい殿下といい……もうっ、怒りますよ!」
「な、なぜ怒るのだ? それに、昨日までは隣の部屋で寝るのはいいと言ってくれていたではないか?」
「ここは隣の部屋ではありませんし、言いましたよね? 結婚するまでは……その……口づけまでだって!」
「……………………それは、わかっている」
(ちょっと今、間が長かった)
「だが、添い寝は駄目だとは言われておらぬ! 僕はヴィオラと添い寝がしたい! 添い寝は恋人同士ではごく当たり前だろう? そうだろう? しない方がおかしいのだ!」
真剣なまなざしでじっと見つめられると、こちらの言っていることが間違っているのだろうかという錯覚に陥る。
ふと、シオンが着ている服の胸元がはだけて鎖骨が見えると彼の色香をより感じてしまって、さっと視線を外した。
その視線の移動をシオンは見逃さず、ここぞとばかりに距離を詰める。
「別に単なる添い寝だぞ? 隣で眠るだけだ。その間手はださない……それでもだめか? ヴィオラが傍にいないと、とても寂しいのだが……」
「……っ!! わ、わかりました……」
無事に添い寝する権利を勝ち取ったシオンは心の中で勝どきをあげた。
シオンはもちろんヴィオラの意思を尊重したいという気持ちはあったが、それと同時に本能からくる番が失われてしまったらという恐怖におびえていた。
そのため、少しでも近くにいて自分の匂いをつけていたいし、他の者に狙われないように常に傍にいたいという行動にでてしまうのだが、シオンはその自覚がない。
ベッドに座り、ヴィオラが上着を脱ごうとしたところで思い出す。
(そ、そうだった……この下は……ど、どうしよう……)
振り向くと、ベッドですでに寝っ転がって、両手を伸ばしてヴィオラにこいこいと合図しているシオンが見える。
「殿下、その……後ろ向いてください」
「なっ、ぐぬぬ……我慢することが多すぎやしないか?」
「ご、ごめんなさい……でも、その、今着ているのが……ちょっと恥ずかしくて」
「…………見たい」
「もうっ、後ろ向いてください!」
(もうっ……って、かわいいすぎか!)
ヴィオラの可愛らしさにぐぬぬ、となっていたシオンだったが、ヴィオラの耳をみると赤くなっていたので、本当に恥ずかしがっているのだろうとわかる。
またその恥ずかしがっている姿を見るのもシオンは好きなのは自覚がある。
シオンが後ろを向く様子はなく、むしろ距離が近づいてきたのがヴィオラにはわかり、鼓動が早くなっていき、その音が外に飛び出してしまっていないかと心配になる。
シオンが耳元で甘くささやく。
「僕にこれほど我慢させるとは……結婚式の日の夜、楽しみにしておくといい」
シオンの吐息が耳をくすぐり、ヴィオラの頭がじんと甘くしびれる。
ヴィオラが固まって動けないのをいいことに耳たぶを軽くかじると、ヴィオラのいつもとは違う声が漏れて、肩が震える。
シオンはぐっと唇をかんで堪えて、そっとヴィオラから離れた。
「じゃあ、僕は寝るぞ……疲れたしな。ヴィオラも早く寝るのだぞ」
「あ……お、おやすみなさい、殿下」
「おやすみ、ヴィオラ」
まだヴィオラの心臓はどくどくしていて、しばらく収まりそうにない。
振り返ると大人しくシオンは背を向けて横になっていて、シオンは自分の意思や考えを尊重してくれていることに感謝したが、同時に申し訳なさも生まれてくる。
(わたし、すごく殿下に我慢させてる……)
ヴィオラは上着を脱いで、シオンと同じ布団にもぐる。
背中をぴたりとくっつけるとシオンの温かい体温が心地良かった。
ヴィオラはシオンの背中に安心感を憶えていたが、一方シオンはヴィオラを近くに感じて気が気でなかった。
「殿下……起きています?」
「う、うむ」
「ありがとうございます。わたしが言い出したことを尊重してくれて……わたし、殿下に我慢をさせてしまっていますよね?」
「ゔ……ううむ、だが、勘違いするな、僕はヴィオラとただ傍にいるだけでもとても幸せだ。僕の……欲……なんかよりヴィオラの心の方が優先順位がずっと高いのだ。ヴィオラが嫌だということはしたくない」
「あのっ、嫌ではないです! ただ、その……」
シオンがくるりと寝返りをしてヴィオラの方を向く、ヴィオラもおずおずとくるりと回ってシオンに向かい合った。
シオンは話を聞く体勢になっていてヴィオラの言葉を待っている。
ヴィオラはシオンがこうやって話を聞いてくれる姿を見ると自分がどれほど幸せ者だろうといつも思う。
「いろいろ理由をつけていましたが……一番は、わたしの心の準備ができていなくて……」
「うむ、そうか」
「殿下が受け入れてくださるのはわかっているのです。でも、やっぱり……傷痕を見ると……怖くなってしまって……」
「そうか……」
「ごめんなさい、こんな嘘つきで、臆病で……ごめんなさい」
「ふふ、こんなことで嘘つきになるのなら、僕なんて大噓つきになるじゃないか? 草笛に興味がないように言っていたが本当はやってみたくてたまらなかったし、ヴィオラが誘ってくれるたびに本当は楽しみでたまらなかったのに、そっけないふりをして……」
「ふふっ、口ではいつも嫌だと言っていましたが、殿下はわかりやすかったですよ?」
「なっ、まさかばれていたのか……」
「ばればれです……ふふっ」
シオンが優しく微笑みヴィオラを抱き寄せ背中を撫でる。
彼の温かな胸の中で彼の安心する匂いに包まれて、ヴィオラはゆっくりと目を閉じた。
「ヴィオラの心の準備ができるまで、僕は待てる、どれだけでも……できなくたっていい、ヴィオラが傍にいるのなら、何だって……」
「ありがとう、シオン……大好き……愛してる」
「僕もだ」
二人は優しく抱きしめあって、幸せな夢を見た。
シオンは結局朝にヴィオラのネグリジェ姿をしっかりと目に焼き付けましたとさ(。-`ω-)




