44.負債
蝋の身体の妖精ルコウが部屋で一人、ソファに腰かけて、どこというわけでもなく眺めている。人の形の影が静かに表れて、その人影が揺らめき、美しい女性の姿になった。
「ずいぶんジジ臭い姿だな、ルコウ。それに蝋って白くてつまらない」
「ワシは年相応の姿をしておるだけじゃ、それに、もう肉体を持てるほどの力は失ってしまったのは知っておろう」
「それでも昔の姿の方がボクは好きだ」
「殿下に人を見かけで判断したことにケチをつけたくせになんという言い草だ……」
「ボクは、昔のルコウの姿が、好き、と言っている」
ルコウはあきれた深いため息をついて、ペロージアをジトっと見る。
しかし、ペロージアは譲らないようで、じっとルコウのことを見つめている。
ルコウの蝋でできた身体がどろりと融けて、再び人の形を作ると少年の姿になった。
白い蝋でできた身体ではあるが、そのあどけなさははっきりと表されている。
「これでまともに話す気になったか?」
「なった」
「これだから、ワシはおぬしのことが嫌いなんじゃ……まったく、殿下に呪いをかけるわ、探そうにもどこにいるかわからんわ……毎度何を考えているのかワシにはさっぱりじゃ」
「ボクはルコウが好きだよ」
「おぬしに好かれても良いことがない! まったくこちらが探して居るときには全く姿を見せなんだくせに……」
「ボクはわりとお城で過ごしていたんだよ、姿を変えてね。くふふ、ボクの魔力でこのお城が満ちていたからわからなかったでしょ? それにルコウは魔力を探るのは相変わらずへたくそだ。魔法はからっきし、くふふ」
「なっ……やはりワシはおぬしのことが好かん……」
「ボクはルコウが好きだよ。お気に入りの弟だ」
ルコウはペロージアにずっと調子を狂わされて、頭がごたごたして仕方がなかった。いくらルコウが鬱陶しそうな顔をしてもペロージアには全く響いていない。
ルコウは遥か昔からこのペロージアのことを知っていた。
ルコウとペロージアは妖精界の同じ魔法の花から生まれた、いわば姉弟のような関係だった。
しかし、ペロージアは昔からこういった身勝手で人の話を聞かない性格であって、昔からその悪癖にルコウは振り回され続けてきたので姉とはいえ好きになれないでいた。
「ルコウも気づいたでしょ、ヴィオラのこと」
「そうじゃの……あまりにも瓜二つじゃ、ワシらが愛したあの子と……声も、雰囲気も、何もかも……偶然とはとても思えぬ」
「偶然じゃないよ、だからあいつが現れたんだ」
「あいつとは……まさか!?」
「ルコウが想像している人間だよ。あの戦いで殺せたかと思っていたのに、しぶとく生きのびて力をたくわえていたんだ。せっかくルコウが身体を引きかえにまでしたのにね。残念だ」
「あの時感じた邪悪な気配はあいつの力だったのか……あやつめ、これほど時がたってもあの子を狙っているというのか!?」
「そうみたい、だからだいぶ痛めつけてやった。しばらくは満足に動けないだろうけど、念のためヴィオラにボクの加護をあげたよ。おかげでとても眠い……ボクはしばらく眠る。きっとあいつは力のもとを分散させて隠している、昔みたいに……ルコウは頑張ってそれを壊してきてね。じゃあ、ヴィオラとラナンの子をよろしく……」
「おい待て! 何故ヴィオラ様があの子の……」
ルコウの言葉の途中でペロージアは影となってすぅっと消えてしまった。
ルコウは姿を老人に戻し、深いため息とともにソファに身体を沈める。
「自身の欲望のために戦争を起こした人間……あの時、あれを受け入れたことが誤りだったのだろうか……それとも、あの時甘さをだしてしまったことが……ふぅ、けじめはつけなければならぬな、これから長い旅になるのぅ……」
※ルコウも大概感覚が人と違います(; ・`д・´)




