39.贄
ヴィオラとシオンが去った後の教会は、デルフィスのうめき声のみが残る。
そこに一人、背の曲がったローブを被った老婆が現れる。
「ずいぶんなお姿ですのぅ、デルフィスさま」
「う、ううううぅ! そ、その声は老婆かぁ、くそっ、どこに行っていたんだ!? おかげでヴィオラも奪われ俺の目がっ」
「申し訳ございませんなぁ、邪魔が入りまして、これでもワタクシも立っているのでやっとなのですよ、ひっひっひ。ですが、あともう少しでしたのに惜しかったですなぁ、ひひっ」
真っ暗な世界で不気味な笑い声が頭に響き、苛立ちは再びつのっていく。
しかし、頼るものが他におらず、プライドはどぶに捨てて、老婆の声の方へとはいつくばっていく。
「お、お前、俺の目をその怪しげな術で治せるか?」
「まぁ、可能でしょうな」
「なら治せ! 今度こそあいつの首を獲り、ヴィオラを今度こそ俺のモノとする!! アハハハハ……!」
彼の狂気はどす黒く、未だに衰えない。
老婆はそれを満足そうに眺めてまた口角を上げる。
「そうそう、ワタクシの呪術というのは強力なのですが、贄がいるのですよ。その贄にも質というものがありまして、悲劇を呑み込んだ魂やとびきり醜悪で惨めな魂は特にワタクシの力を強くしてくれるのです」
「なっ、なにを言っているんだ……?」
「あぁ、醜くて惨めなデルフィスさま、ワタクシの目的のために、どうかワタクシの糧となって下さい」
「あ、あ、あああああああ!!」
デルフィスの悲痛な叫びが教会に響き渡ると、教会の空気は冷たい静寂に包まれた。
静まり返った教会には一人、背の高い女性が佇んでいる。
深い紺色の髪と金色で水晶のような輝く瞳、整った顔立ちに、微笑は人の心を惹きつける。
「ふふ、うふふふ、なんて濃厚な魂なのかしら。ありがとうね、デルフィス。ふふ、ここに来てよかった。あれの魂も手に入れられた。馬鹿な女、ワタクシからあの人を奪い、あっけなく命を落とすなんて、でも忌々しい、あぁ、忌々しい!」
「でも……それも、もうおしまい。復讐を果たし、あとは、あの人と、ふふ、ワタクシ……ふふ、私、の穏やかな日々が始まるのよ。ふふふ、あはははは!!」
女性は顔立ちとは全くあわない復讐心と憎悪に満ちた笑い声を高らかにあげた。




