33.掃きだめに咲く
連れてこられた教会で、ヴィオラは用意された純白のドレスを着せられた。
顔には化粧が施され、ヴィオラの美しさをより引き立たせる。
ヴィオラに着替えをさせたり、化粧をしたりしたのは黒いローブを被った女性たちだったのだが、彼女たちには表情というものがなく、話しかけても人形の様だった。
ヴィオラは隙を見て何度も逃げ出そうと考えたが、女たちは人とは思えないほど力が強く、扉も鍵がかけられてびくともしなかった。
抵抗虚しくヴィオラの結婚式のための準備は整ってしまった。
「あぁ、ヴィオラ、綺麗だよ。この世の何よりも綺麗だ……」
デルフィスがうっとりとして頭の先からつま先までねっとりとした視線を向ける。
ヴィオラはぞわりと悪寒がして顔をデルフィスから背けるがデルフィスに無理やり頬を掴まれて前を向かされた。
「ヴィオラ、俺と結婚した後に逃げ出せばいいなんて考えていないよな?」
「……………」
「そんなこと、俺が許すはずがないだろう? これが終わった後はすぐに俺の用意した屋敷に行くんだ。それからはずっと子作りしよう。孕むまでずっとだ」
「……っ!」
「あぁ、またそんなそそるような顔をしないでくれ、かなり我慢しているんだよ。本当だったら今すぐにでもヴィオラを愛したいというのに、この結婚式はあの老婆との約束なんだ」
「……どういうこと?」
「さぁ? してみればわかるだろうな……」
デルフィスは意味ありげな不敵な笑みを浮かべる。
ヴィオラはデルフィスに対して嫌悪と疑問ばかりがわいてくる。
「デルフィス……どうしてあなたはそこまでしてわたしを……わたしがあなたに何をしたというの? 何があなたをそれほど狂わせてしまったの?」
「そうだな、俺にとって周りの奴らは馬鹿ばかりで、この世の中はクソの掃きだめの様だった。けれど、君の瞳だけは美しく輝いて見えた。俺はそれが欲しくてたまらない」
「……わからない………あなたのこと」
「理解するための時間はこれからたくさんある、二人きりのね。さぁ、行こうか」
腕を掴まれて無理やり立たされた。「行こうか」という言葉は、誘うために通常使われるのに今の状況ではヴィオラにとって命令にしか聞こえない。
デルフィスの強い力に抵抗は意味を持たず、教会の聖堂へと引きずられながら連れていかれた。
聖堂に向かう途中、窓の外の暗がりに松明を持つ大柄の男たちの姿が見えた。
彼らの手には明らかに他者を傷つける目的にしか使われない剣やクロスボウといった武器が握られている。
「デルフィス! わたしが大人しくさえすれば彼を傷つけないと言ったじゃない!」
「狂暴な怪物が攻撃をしてきてそれを殺したとして一体何の罪になるんだい?」
「あなたは彼のことを狂暴な怪物だというけれど違う! 彼は優しい人よ……本当の怪物はあなたよ、デルフィス……!」
ヴィオラが睨む先のデルフィス目が暗く冷たくなった。
乱暴に頬を掴まれて、あごの骨が折れてしまうかというほどに痛い。
「ヴィオラ、俺は寛大だから今までの多くのことを赦してきた。だが、今日からお前は俺の妻になるんだ! いい加減に他の男のことを口にだすな……わかったか!」
「うっ……」
頬は放されたが、まだじんじんとした痛みが残る。
そして、再び腕を掴まれて歩くことを強要される。
(こんな痛みなんてどうってことはない。でも、もし彼が傷つけられて、殺されでもしたら……お願い、来てはだめ。来ないで……)




