124.幸せな日々をおくる
「ヴィオラ!」
「ヴィオラ様!」
「ヴィオラちゃん!」
(皆さまの……声?)
ヴィオラが目を覚ますとシオン、ロージー、ペイアーの心配そうな顔が見えた。
まだ意識がぼーっとして、本物かどうかもわかっていないシオンの顔を優しくなでる。シオンの瞳から大粒の涙が流れ、それがヴィオラの頬に落ちる感触でヴィオラの意識がハッキリとしていく。
(シ、オン……本当に? わたしのこと思い出して……)
「ヴィオラ……あ、あぁ、やっと……」
ヴィオラは目の前にいるシオンに思いを伝えようと声を絞り出す。
「し……おん……」
「ヴィオラ……よかった、声が……」
「う、うううぅ……うあああああああん! ぎゅっと、して……」
「……するとも! いくらでもするぞ! 怖かったな……怖い思いをさせて本当にすまない……頑張ったな……」
ヴィオラは今までの不安や恐怖からやっと解放されたためか、子供の様に泣きじゃくって、抱擁を求めてきた。
シオンはしっかりとヴィオラを抱き締めて、落ち着けるように頭と背中を何度もなでる。ヴィオラはぽろぽろと涙を流して、数日ぶりのシオンの体温を一身に受けた。
ヴィオラが無事であることにロージーもペイアーもほっとして、涙が流れた。
泣いていたヴィオラが二人に向かって手を伸ばす。
「ううぅううぅ……ロージー様、ペイアー様……ぎゅっとしてください……」
「よ、よろしいのですか……あたしたちヴィオラ様にあんなこと」
「というか、オレも!?」
「してぇ……」
「今日だけ特別だぞ……」
シオンからも許可が出たので3人でヴィオラのことをぎゅっとする。
「あぁ、ヴィオラ様……頑張りましたね……帰ってこられて本当によかったです」
「誘拐されたときはどうなるかと思ったけど、本当によかったよ。おかえり、ヴィオラちゃん」
「ぐす……こわ、かったですけど……それよりも……ぐず、ざみじ、くて……うううぅ、きおくがもどって……ほんとうによかったです」
「ヴィオラ様……」
しばらくぎゅうぎゅうのお団子状態で抱きしめられると、寂しさが少しだけほどけたのかヴィオラは小さく「あり、がとうございました」と言ってお団子は解散となった。
それでもヴィオラは涙も鼻水も止まる様子がなく、顔がぐしょぐしょになっていて、シオンがハンカチできれいに拭ってくれた。
シオンはやっとヴィオラと再会することができた喜びで口づけをしようかと思ったのが、いくら不可抗力とはいえ、あの夜にヴィオラに怖い思いをさせてしまったことを思い出し、我に返ってぐっとこらえる。
しかし、近づいたシオンの顔をヴィオラは両手でぎゅっと掴んで少し勢いが強いくらい口づけをする。
突然のヴィオラの行動に、シオンは頬を赤くして目をぱちぱちとさせて驚く。
「ううううぅ……キスもいっぱいしてくださいぃ……もっと、ぐず、いっぱいなでなでしてくださいぃ……うううぅ」
「う、うむ……」
「あはは~、ヴィオラちゃんも大胆になったものだねぇ、殿下の顔が真っ赤になってら」
「もう茶化さないのペイアー、さぁ、ヴィオラ様お城に帰りましょう、皆がヴィオラ様のお帰りを待っていますわ」
ヴィオラはこくこくと頷いて、シオンの服の裾をぎゅっと掴んだ。
シオンはこの可愛すぎる愛おしい行動をされては我慢できるはずがなく、ヴィオラを抱っこしてぎゅっと抱きしめた。
抱っこされると視線が高くなり、シオンの角の片方がぽっきり折れていることにヴィオラが気が付いた。
「あっ、あああ! シオンの角がない!」
「そ、それはだな……」
「ボクが角を治すよ」
ルルディが作り出した女神の手から解放されたペロージアがゆったりと歩いてきて、シオンの角に手をかざす。
すると、シオンの角のかけている部分が抜け落ちて、新しい角が生えてきた。
ヴィオラはペロージアの魔法のすごさに目を輝かせる。
「わぁ、すごい! あっという間に生え変わりました! ありがとうございます、ペロージア様」
「ヴィオラ、お礼を言う必要などない。僕の角を折ったのもこいつだぞ! しかも無断で! 僕たちにかけた魔封じをといたのも、僕たちがルルディがアリィを殺そうとするのを止めると踏んでいたのだろう? 抜け目のない奴め……」
「それに関してはお礼を言うよ、おかげでルルディにアリィを殺させずに済んだ……本当にありがとう」
ペロージアは穏やかに微笑んでお礼の言葉を述べた。
あまりにも素直な言葉にシオンは少したじろいだ。
「それと……」
ペロージアの後ろに隠れていたアリィが顔を出した。
不安そうに手を絡ませて握り、視線がうろうろとしていたがペロージアに背中をさすられるとおずおずとヴィオラに視線を向ける。
「ヴィオラ……さん」
「アリィ様ですよね?」
「様、なんてつけなくても……本当にあなたには酷いことをしたから……ごめんなさい、今回だけじゃなくて、あの……デルフィスの時もあたしがあいつに力を貸してた。たくさん痛い思いも辛い思いも悲しい思いもさせて、本当にごめんなさい……」
「ボクからも謝らせて欲しい。本当に迷惑をかけた、申し訳ない……」
アリィとペロージアが頭を深く下げた。
シオンはペロージアまで謝罪しているのに驚きつつ、アリィの命をとるつもりはないようだが、気持ちは収まっておらず憎々しげにアリィのことを睨んでいる。
ただ、ヴィオラにとってのアリィに対する気持ちはルルディが見せた幸せな夢の中の印象が強く残ってしまっていて、怒りどうしてもわいてこなかった。
ヴィオラはゆっくりと目を閉じ、落ち着いて気持ちを整理する。
そして、ある決断をし、抱っこしているシオンに一度下ろしてもらった。
「お二人とも顔を上げてください」
アリィの手をヴィオラはぐっと握りしめて、笑顔になる。
「アリィ様、わたしの騎士になってください!」
「……………………え? ど、どど、どういうこと?」
「といっても、まだ騎士団をわたしは持てませんので、もう少し後のお話ですし、団といってもロージー様とアリィ様のお二人だけなのですが……」
「いや、そうじゃなくて……いや、どういうこと!?」
「アリィ様にはわたしの騎士として、たくさん働いていただきます! 国民の皆さまのために頑張りましょうね」
「いや、あのなんで!? あたし、あなたを誘拐したよね!? しかも、お城の人にも……」
「はい、なのでその分頑張って働いていただきますよ! ルルディ様から教えていただきました、アリィ様は魔法も剣術もできて、とっても頑張り屋さんなんだって……」
「ルル………………あたしが、騎士……」
ヴィオラの提案にさすがにぎょっとして驚いていたシオンが、空を仰ぎ、頭を抱えた。
「ヴィオラ、さすがにそれはダメだ。なにより、『誘拐犯を騎士として従える』だなんて、そんなことをしては君に負担がかかるのだぞ? 異例すぎてもはや何が起こるかわからないくらいだが……」
「騎士団員というのが大変なお仕事ですから、それくらいの負担はわたしも負わなければなりません」
「それは君が負うべき負担ではないだろう……」
「ですが彼女は優秀な人材ですよ、逃す手はありません!」
「な、何故ヴィオラがアリィを売り込もうとしているのだ……はぁ……あぁ、もうわかったよ」
ヴィオラの熱意に負けてしまい、シオンは諦めのため息をついた。
シオンが重たく、真剣なまなざしでアリィに向き直る。
「お前が誘拐犯であること、それを隠して騎士団員として働かせること自体は、僕が働きかければ簡単に叶うだろうが、それはしない。お前には他の者と同じく騎士団の入団試験を受けてもらうし、見習いから始めてもらう。試験を手配はするが僕は一切関与しない。そして、今回の誘拐犯であることも公表する。お前の立場は心地の良いものではないだろう、だが、それが条件だ」
アリィは生唾をごくりと飲み込んだ。
罪人であることを隠さずにいるということは、当然周りからの視線は優しくないものとなるのは明白だ。
「そして、万が一にお前が騎士に……ヴィオラの騎士になることになれば、お前の失敗や悪評はそのままヴィオラの悪評につながる……しかし、お前の手柄はヴィオラの評判を上げることもできる。つまり、だ……」
シオンがアリィの額を痛いくらい人差し指でぐりぐりとする。
「ヴィオラのために死ぬ気で働け! わかったか!」
「ぐっ……い、痛い……もうっわかった! わかったよ! それで償いになるのならやる! ちょ……爪痛い!」
「これくらいで済ましてやるのだから、ヴィオラと僕に感謝するがいい!」
シオンはぐりぐりするのをやめると、アリィの額は真っ赤になっていた。
シオンがフンっとそっぽを向くと、ヴィオラがどうしてか口を結んでシオンの手をじっと見つめている。
何かと思えば無言で手を掴み、アリィをぐりぐりしていた人差し指を自分の額にもぐりぐりとさせた。
そして満足したのかうん、と深く頷いた。
それがヴィオラの嫉妬であるということに気が付くのにシオンはやっとかかった。
「み、みたかロージー! ペイアー! ヴィオラが可愛いぞ! 世界一であるぞ!」
「はいっ、もう可愛らしくて気絶しそうでしたわ!」
「はいはい、お二人さん、興奮するのはそれくらいにして、そろそろ城に帰ろうぜ。みんな疲れてんだから」
「それもそうだな……ルコウ、そっちは終わったか?」
シオンが呼びかけた先にはおじいちゃんなルコウと、独特な縛り方で縛られ魔法で逆さに宙づりにされたフランメだった。
「まだ説教したりありませんが……そうですな、そろそろ戻りましょう」
「父上……これはさすがに血が頭に上ります……」
「まだ反省が足りんか! まったく……自分の憎しみに負け、殿下に歯向かうなどなんと馬鹿なことを……」
「……………………すみません」
「じゃが、ワシもお前の抱えた気持ちに気づいてやれんかった………父親失格じゃ」
「そんなことはないです! でも……やっぱり、ぼくに話してほしかった………頼ってほしかった、です……」
「そう、じゃの………帰ったらいろいろと話そうか……お互いにのぅ」
「はい……………父さん」
ヴィオラが「よくはわかりませんが、ルコウ様とフランメ様、仲直りしたのですね」とほろりとしていたのだが、あまりにも絵面が悪すぎるのでシオンがそっとヴィオラの目をふさいだ。
ルコウはフランメを解放し、人の世界に戻るための入り口を開いた。
シオンに手を差し出され、ヴィオラが自身の手を重ねる。
そして、振り返り、アリィたちに笑顔で手を振った。
「また会いましょう!」
当たり前のように再会の言葉を告げて、ヴィオラは帰ってしまった。
残ったアリィはぽかんとして、ヴィオラたちが去った後を見つめていた。
「『また会いましょう』って……それに騎士になってって……ヴィオラって、ルルディ以上にお人好しなのかも………」
妖精界に流れる風は仄かに温かい。
胸に手をあてると確かに自分の心臓の鼓動を感じる。
「あたし、本当に生きてていいのかな」
ペロージアがアリィの頭にこつりと拳をあてた。
「ボクがいいと言っているのだから、いい」
「なにそのペロージア理論………相変わらずだなぁ…………あれ?」
「どうした?」
「誰かの魂がまだあたしの中にいる……!」
「なに?」
ペロージアの表情が険しくなり、アリィの胸を押さえる手を睨む。
その魂が何者かを知るとアリィもペロージアも驚いた。
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ヴィオラとシオンたちが城に戻ると皆が泣いて無事の帰還を喜んだ。
なんだか呪いが解けた日のことを思い出す。
シオンの父と母のスィラとラナンも出迎えてくれて、ラナンには泣きながら苦しいほどぎゅっと抱きしめられた。
そして、とてもせわしないことに、シオンとヴィオラには二人の結婚式が迫っていた。
さすがにこれほど大変な目にあったヴィオラを休ませたいとシオンは思ったが、結婚式を延期すると国民に不安が広がってしまうだろう、とヴィオラは結婚式をする意思を見せたので、結婚式は予定通り実行となった。
結婚式、当日。
シオンは婚礼の衣装を身にまとう。
白を基調とした服には花の刺繍と小さな宝石がちりばめられていて美しい。しかし、それ以上に化粧を施されたシオン自身の美しさは留まるところを知らない。
シオン本人は自分の準備が終わってから、いや終わる前からずっとそわそわして仕方がなかった。
(落ち着かぬ……美しいことは確実だ……心を落ち着かせねば……心の準備を……)
「殿下、ヴィオラ様の準備ができました」
「う、うむ……」
ロージーに呼ばれてヴィオラの待つ部屋へと向かう。
楽しみが足に現れて、少し早足になっているのを、後ろを歩くロージーが微笑ましく見ていた。
ヴィオラの待つ部屋の扉が開かれる。
ドレスは裾に向かって広がり流れるような意匠で、シオンとお揃いの花の刺繍がドレスの裾にかけて施され、流れるようにちりばめられた宝石が控えめながらも美しい。
髪はふんわりと編み込まれて、ヴィオラの母、リリィからもらったスミレの髪飾りをつけている。
普段からヴィオラは可愛らしく美しい人であると常々思っているシオンではあったが、婚礼の衣装を身にまとったヴィオラはいっとう美しく、シオンは言葉を失ってしまった。
ヴィオラもシオンの美しさに見とれつつ、惚けているシオンに近づく。
「あ、あの……とてもきれいです、殿下」
「……それはこちらの台詞だ。だ、大丈夫だろうか? これほど美しいヴィオラを見せてしまっては、皆気絶してしまわないか?」
「ふふっ、もうなんですかそれは」
「だが本当に美しすぎる……やはり男子禁制にすべきだった、いや性別関係なくこれでは全員がヴィオラに魅了されて……!」
「ふふっ、そんなわけはないですから、さぁ、行きましょうよ」
「冗談ではないのだが……しかしそうだな、行こう」
シオンが優しく微笑みかけ、それにヴィオラも微笑みで返し、シオンの腕に手を添える。
そして、結婚式場へと共に足を踏み出した。
(たくさん大変なこともあったけれど……諦めなくてよかった。こうして大好きな人と大切な人たちと生きていける……)
「ねぇ、シオン」
「ん?」
「大好き」
ヴィオラはとびきりの笑顔で今日も大好きな人に愛を伝える。
うおおおお!ここまで読んでくださった読者のみなさま本当にありがとうございます!
癖たっぷりの物語を読んでくださって、感謝、感謝です…( ;∀;)
長かった、今までで一番長かった…でも楽しかった!!そして、作者が言うのもなんですが、キャラをみんな好きになった…デルフィス、お前も愛してるぜ
この後は番外編を流していきたいと思いますが、ここでいったん完結です
これからも今作は続けていきますので、よろしくお願いしまーす!




