122.心交わる
鎖でぐるぐる巻きにされているうちにいろいろと丸く収まったようで、シオンはほっと息をついた。
しかし、ペロージアはアリィに夢中で、シオンとロージーを拘束する魔封じを解くのを忘れているようで、そこにはじわじわ腹が立っている。
「まったく、えらく巻き込まれたものだ……ペロージア! 僕たちにかけた魔封じを解け!……どうした、フランメ?」
「少し、やることがありますので……眼鏡、見ていてください」
フランメがかけていた眼鏡をシオンの傍に置いて、スタスタとペロージアやアリィの方へと向かっていく。
ペロージアに魔封じを解いてもらうように頼みに行くのかと思ったが、何か胸の奥がぞわぞわとする。
「フランメ? おい、フランメ!?」
シオンの呼びかけにフランメは振り向かない。
彼の紺から赤へと変わる髪からじりじりと火の粉が舞っている。
魔道具の鳥かごからアリィはペロージアに手を引かれて出る。
すると、外で待っていたルルディと対面した。
「ルル……? ルル、だよね……?」
『……そう』
「あ、あぁ、あの、あたし……」
『わかってる。ちゃんと、終わらせよう……』
ルルディが両手を上げ、握る。
すると、突然地面から大きな女性の手がペロージアとルコウを掴み、握り包み込んだ。
二人は完全に身動きが取れなくなり「おい! ルルディ! ルルディやめろ!!」とルコウが必死に叫ぶがルルディは二人を解放しない。
ただ、身動きが取れなくなる直前の刹那、ペロージアは女神の手に包まれる前にフイと手首をひねり、ある魔法を解いた。
アリィが怯えた様子でルルディのことを見つめる。
「こ、これ……女神の……」
『……わかってる……あなたは魂が引き離されてもなお、わたしの魂を欲しがっている。きっとヴィオラの魂も欲しがってしまう。どちらかが消滅するまで終わらない。わたしが消滅してしまう前にあなたを……殺す』
「ルル…………ごめん、そうだね……うん……殺して……ルルになら殺されてもいい……」
『……痛くしないから』
ルルディが手をアリィに向ける。
光線がアリィに向かって放たれる直前、ダチュラがアリィを抱えてルルディの攻撃からアリィを避けさせた。勢いがありすぎてこけてしまったが、アリィに覆いかぶさって、アリィは無傷であった。
『また、あなた……』
「ダチュラ! なんで……」
「無断で触れてしまって申し訳ございません! ですが、ワタクシはまだあなた様にお仕えしたいのです!」
「ルルディ! やめるんだ!」
女神の手に拘束される直前、ペロージアはシオンとロージーの魔封じを解いていた。
シオンとロージーはルルディを止めようと駆け寄るが目の前に炎の壁が立ち上り、二人の行く手を阻んだ。
「フランメ・ブージ……なんのつもりだ」
「申し訳ございません、殿下……ぼくはアリィさんに死んでいただきたい」
「な、何言ってるの……どうしたのフランメ!?」
「どうしたの……そうですね、どうにかなっています。初めての感情です……これは『憎しみ』というそうです。ルルディさんが教えてくださいました」
フランメの髪が炎のように燃え上がり、そしてその炎は身体を包み、より大きく燃え上がる。フランメの姿は巨大な炎の巨人となった。
「ぼくはアリィさんが憎いです! 父さんの身体を奪った! 母さんを泣かせた! 人間族を追放するきっかけまで……何もかも! 憎い、憎い、憎い!!」
あまりの熱気にシオンもロージーも肌がじりじりと焼ける。
「フランメのこんな姿初めて見ますわ……!」
「フランメ……ずっと抱えていたのか……だが、こんなことをしてもなにも良い方になど変わらない! 通してくれ!」
「変わる、変わらないはぼくが決めます! 殿下たちはぼくとルルディさんの邪魔をしないでください!!」
「仕方ない。ロージー、先にフランメを大人しくさせる」
「はっ」
シオンとロージーは炎の巨人となったフランメに向かって走る。
近づくとより身体が焼けてしまいそうなほど熱く、痛みを感じる。
「これ以上近づけば火傷程度ではすみませんよ!!」
「心配するなら大人しくしてくれ! 全く……手間をかけさせるな! ぐぬぬぬ、雪ではなく……雨、雨!!」
シオンが魔力を込め、空に集中する。
するとフランメの真上に重たく暗い雨雲ができ、スコールのように強い雨がフランメに降り注ぐ。
「うっううぅ……」
多少はフランメの炎の勢いがそがれ、動きが鈍る。
「殿下! もっと水を流してくださいまし!」
「つ、角が折れて天候が操りにくいのだ」
「気合です!」
「ぐぬおおおお!!」
シオンが力をより込めると滝のように水がドバっとフランメの頭上から流れ、フランメの炎は消化され、水蒸気であたりが真っ白になる。
それと同時にルルディとシオンたちを隔てていた炎の壁が消火された。
「あっあそこ!」
ロージーが真っ白な中人影を見つけ、ツタで拘束して縛り上げる。
近づくと、ツタで縛り上げられたフランメの姿が見えた。
「はぁ……お見事です」
「もう、馬鹿なことして……」
「ぼくの役目はお二人をほんの少しだけ足止めする事です……」
ロージーがアリィの方へと視線を向けると、すでにシオンはルルディのもとへと駆けていた。
しかし、アリィを助けていたダチュラはすでに倒れていて、座り込むアリィをルルディが見下ろしている姿が水蒸気の切れ間に見える。
「ルル……もう、終わりにして……」
『うん……』
ルルディがアリィの命を終わらせようと手をかざすが……
バチン!!
ルルディの手は、何故かルルディ自身の頬を思い切りはたいた。
『な、なに? あっ!』
頬をはたいたかと思えば次に自身の髪の毛をぐっと掴んで、勢いのまま草地にルルディは倒れた。
『な、なに!?』
シオンが駆け寄り、不審な行動を起こすルルディをじっと見る。
「ヴィオラ……?」
ルルディはのたうち回って、苦しみだした。
『ヴィオラ……幸せな夢に眠らせていたのに……目が覚めたの!?』
(もう、これ以上やめてください!! あなたがしたいことはそんなことじゃない!)
『あなたになにがわかるの! それに、あなたが幸せになるためのことなの! アリィはきっとあなたの魂も欲してしまう! また同じことを繰り返す! ここで終わらせるの!』
(そんなのわからないじゃないですか!!)
ルルディはしばらく身体がのたうちまわった後、ぴくりとも動かなくなってしまった。
シオンが急いでヴィオラの身体を抱き起す。
アリィも傍に寄って、呼びかける。
「ヴィオラ! ヴィオラ!」
「ルル! ルルディ!」
ヴィオラとルルディの意識は心の中で交わった。




