121.ずっと一緒に
リリィの姿をしたアリィとルコウ、トトララの戦いは続いている。
ルコウの強さはさることながら、トトララもルコウの邪魔になることなく、アリィに攻撃を加えている。
トトララがアリィに距離を詰めて懐まで入り込み、脳を揺らすために顎に拳を入れようと振り上げる。
しかし、トトララの拳が入るが手ごたえがない。
(ありゃ?)
リリィの身体は泥のように崩れ、本体のアリィの姿が現れる。
アリィは姿勢を低くし、トトララに足払いをかけトトララの体制を崩した。
(おれ体幹には自信あったのに!)
アリィは異空間から短剣を取り出し、素早くトトララの両足に突き刺した。
ルコウが駆け寄り、蝋の剣で切りかかるとアリィは身体を翻して、距離をとる。
「トトララ動けるかの……?」
「戦うのは無理っす、足が両方いかれた……たはー殺さないように気ぃ遣うのも大変なのに、アリィちゃん激強なんすけどぉ」
「すまぬ、アリィを強くしすぎたのぉ……飛べはするだろう、下がっておってくれ」
アリィは持っていた短剣を異空間に戻し、手ぶらになる。
何の武器を使うかわからなくし、相手に距離感を悟られないようにするためだ。
「アリィ、もうやめにせぬか……疲れただろう? 別にワシらはお前のことを殺しはせん、大人しく捕まってくれ」
「うるさいっ! ペロージアもルコウも……あたしはあんたたちのこと殺したくてたまんない!」
「そんなに……そんなにオレらのこと憎んでいるのか? 殺したいほど……結局、オレは妖精だから、人間族のお前を全部理解してやれない。言葉で言ってくんなきゃわからないよ。どうして、そんなにオレやペロージアを憎んでいるんだ?」
「どうしてって……そんなのきまってるっ! あたしのこと邪魔するからだ! あたしはルルの魂が欲しいだけなのに! ペロージアもルコウもリリィも! あたしのこと家族みたいに扱ったクセにあたしのこと邪魔して!!」
「……家族だからだよ。勝手だけど、お前のこと妹のように想ってたよ、オレもリリィも……」
「黙れっ……だまれっだまれっ!!」
叫ぶアリィをルコウは静かに見つめて、細く息を吐き、再び深く息を吸い固い蝋の奥底から叫ぶ。
「リリィ!! いつまでアリィにいいように使われるつもりだ! 意地見せろ!!」
「!?」
ルコウが叫んだ瞬間アリィの身体が何かに縛られたように固まる。
アリィは何が起こっているのかわからないようで困惑し、うめき声を漏らす。
ルコウがアリィに向かって走り、思い切りみぞおちに拳を打ち込んだ。
「くっ……は……」
アリィはルコウの一撃をもろに受けた。気絶して重たくなった身体をルコウが支える。
「ありがとう、リリィ……」
ルコウはアリィを担いで、魔道具の鳥かごの中にそっとアリィを座らせた。
「頼む、姉貴……」
「ルコウ……………ありがとう、協力してくれて」
「ひっ、ペロージアにお礼を言われるとか、妖精界に雪でも降るんじゃないのか!?」
「ボクだってお礼くらい言う。ボク一人では少し難しかった」
「できなかった、とは言わねぇんだよなぁ……」
ペロージアが魔道具を操作し起動する。
青い光がアリィを包み込むと、アリィの身体からいくつもの魂がきらきらとした光となり空へと消えていった。
光が消え、アリィの姿だけが残る。
ペロージアとルコウ、そして陰に隠れていたダチュラがおずおずと二人の後ろからアリィの様子をうかがう。
ペロージアが優しくアリィの頬を撫でる。
「アリィ……」
「……ん……」
アリィはゆっくりと瞳を開いた。
揺らぐ視界には心配そうに覗くペロージアとルコウの姿が見えた。
「ペロージア? ルコウ? あたし……あれ、ルルは……?」
「あぁ……成功した……よかった……」
「わっ! ちょ、ちょっと! ペロージアに抱き着かれるとか妖精界に雪でも降るんじゃない!?」
「は、はは……あはははは! そうだな! 雪だ! きっと雪が降るよな!」
「もう、ルコウもなに? 二人ともどうしたの?……………………あ」
ペロージアに抱きしめられ、困惑していたアリィの顔色が次第に青白くなり、唇が震えだす。
頭を抱えて、ペロージアを引きはがしてカゴの奥へ奥へと後ずさる。
「あ、あたし……あたし……今まで…………たくさん人を傷つけて、殺した………! ルルディの大切な人も、ルルディも殺した!! いや、いやいや………!」
「落ち着けアリィ、大丈夫だから、もう大丈夫だから」
「落ち着けるわけない! 大丈夫なわけない! 許されるわけない!! いやあああああ!!」
アリィが自分の罪に耐え切れず首をかき切ろうとしたので、ペロージアがアリィの両手を掴み押し倒す。
アリィは涙を流して抵抗するが、ペロージアは決してアリィの手を放さなかった。
「もうやだああ! あたしルルを殺した! 助けたかったのに! 大好きなのに!! 愛してるのに!!」
「アリィ……」
「たくさん殺して……もうやだ、もうやだよぉ……」
「アリィ!!」
ペロージアに呼びかけられて、やっとアリィの視線がペロージアに向いた。
ペロージアも泣き出してしましそうなほど苦し気な顔をしている。
「ボクは……正直人を殺しても何とも思わない。だからアリィの罪の意識を理解しきることはできない。でも、アリィが苦しいのなら……ボクもこれから一緒に背負う。お前の罪を」
「ペロージア?」
「だから、お願いだから……ボクの傍にいて……嫌なこと今まで言ってごめん、本当は大好きなんだ……お願いだから、一緒にいてよ……」
ペロージアはぽろぽろと泣きながら、アリィに被さって抱きしめた。
アリィは、あのペロージアがこんなこと言うとも泣くとも思わず、思考が止まる。
「あ、あの……ペロージア……」
「ぐず……ひっく……ボクと一緒にいると言って……それまで放さない」
「え、でも……あたしは……ルルのこともあんたたちのことも」
「もう赦す! もう、いいから……アリィがいなくなる方がずっと嫌だ……」
「……………………」
アリィはお腹にしがみついたペロージアを引きはがすこともできず、ルコウに視線で助けを求めるが、ルコウは肩をすくめて笑う。
「もう諦めろ。妖精はしつこいぞ」
「ミモザを誘拐婚したルコウが言うと説得力がある……」
「なにっ!?」
「もう、わかったから……離れて、ペロージア」
アリィがペロージアの肩をとんとんと叩く。
ペロージアがゆっくりと起き上がるとペロージアのきれいな顔が涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。
「あ、はは……泣きすぎ」
「わかった、って……ボクとずっと一緒にいてくれるということ?」
「うん……これから、どうしたらいいかわからないけど、ペロージアの傍にいるよ」
その言葉を聞いた瞬間ペロージアは突然ピタリと泣き止み、ニタリと満面の笑みに変わり、アリィは背筋がぞわりとした。
ふいに左の薬指がジワリと熱さを感じ、見ると黒い文様が薬指の付け根に指輪のようにまとわりついている。
ペロージアの左手の薬指にも同じ文様がついていて、満足げな笑みを浮かべながらそれを見せつけてきた。
「ひぇっ、な、なにコレ!?」
「これでどこにいようと居場所がわかる。解呪なんて無理だよ」
「は、え、さすがにキモい! 左手の薬指ってところがなんか余計にすごく嫌だ! 解いて!」
「やだ」
アリィが恐れおののく姿をペロージアが満足そうに見つめ、ルコウは呆れたように笑い、ダチュラは羨ましそうに指をくわえて、少し離れたところから眺めていた。
そして、ルルディはアリィを黒ずんだ瞳で見つめていた。




