118.秘密の話
朝になり、シオンはすぐにルルディとロージーが泊まる部屋に向かった
しかし、出てきたのはロージーのみでヴィオラの身体をのっとっているルルディの姿はなかった。
「ロージー、ヴィオラの意識は戻ったのか?」
「それがまだ……」
「ヴィオラを回復させていると言っていたが、いったいいつまでヴィオラの身体をのっとるつもりだ……それで、あの者はどこに行ったのだ?」
「朝早くフランメと一緒に朝食をとると1階の食堂に……」
「なっ……フランメもなぜ何も伝えないのだ……」
「積もる話もあるのでしょうね、フランメからしてみれば……叔母にあたるのですよね」
「複雑だな……ヴィオラ自身はフランメと従兄になるのか……?」
「アハハ、いつの間にか殿下はルコウ様とフランメと親族ですよ。びっくりですね……ヴィオラ様が意識を取り戻したら、お伝えしたいですね……家族が増えましたよって……」
「……頭がくらくらしてくるようなことだが、そうだな、彼女なら喜びそうだ」
シオンはヴィオラが攫われてから、冷静を保つように努めていたがやっと少しだけ肩の力を抜くことができたようで、微笑むくらいには余裕ができたようだ。
そんなシオンの様子を見ることができて、ロージーも優しく微笑んだ。
「そういえば、ペイアーは? まぁ、朝に弱いから寝ているのでしょうが……」
「その通りだ」
「はぁ、起こしてきますね……」
「……仲直りはしたのか?」
「えっ!?」
「姉さん、ペイアー兄さんと森のあたりからか?……ずっとぎくしゃくしていたようだったから、ふふ、やはり二人は仲がいい方が僕としても心地がいい」
「ちょ、ちょっと、シオン……」
「では、ペイアーを起こしに行ってくれ、ゆっくりでよいぞ」
シオンはにこにこしながらいう。
まさかシオンに見透かされているとは思っていなかったので、ロージーは頬を赤くして頭を抱えた。
シオンが食事処になっている宿の1階に降りると、すでにフランメとルルディが向かい合って座り朝ご飯を食べていた。
積もる話があるだろう、とロージーは言っていたが二人とも話している様子がなく、黙って食事をしている。
中身はルルディというのはわかっているのだが、身体がヴィオラであるためにフランメと二人で食事をしている様子をみると少しだけ心がもやもやする。
「お、はよう……」
「おはようございます」
『おはようございます、じゃあまたお話ししましょうね、フランメくん』
「はい、いろいろと話せてよかったです、ルルディさん」
「ルルディ、ヴィオラは……」
『まだ彼女は眠っています。わたしももう少し眠ります』
ルルディはシオンをみるとすぐに2階へと戻ってしまった。
シオンはむっとしてルルディを睨んだが、彼女には響いていないようだった。
シオンはルルディが去った後に空いた席に座る。
「その、ずいぶん静かだったが、彼女と話せたか?」
「静か……? あぁ、妖精には声をだす以外にも話す方法があるのですよ。実に充実したお話ができました」
「そうなのか? では、もしかして話している最中だったか? 邪魔をしてしまったな……」
「いえ、ちょうど話にきりがついたところでしたから」
「そうか……その、フランメ……あいかわらず、すごく食べるな」
フランメの前には食べ終わってきれいになったお皿が積み上げられている。
かなりの量を食べたのだろうがフランメはケロッとして、表情はあいかわらず変化がない。
「シオンもご注文されては? 確かにペイアーさんの言う通りここの町の食事はとても美味ですね。とくに海鮮は新鮮だからでしょうか、臭みがなく、豊かな味わいを……」
「ははっ、わかった僕も味わってみよう……注文……うむ、昨日の酒場で学んだぞ……注文表から選ぶのだな……注文表がない!」
「ここの注文表は壁にかけられているのですよ。ほら、あそこ……ワタシがしましょうか?」
「いや、なにごとも経験だ……こうやって過ごせる機会はあまりないからな」
シオンは壁にかけられている注文表から食事をいくつか選び、店の従業員に伝える。
従業員の女性はシオンのきれいな顔に見とれて一瞬我を忘れていたが、シオンに「何か問題でもあったか?」と言われると、ハッとして仕事に戻った。
「僕もやればできるな……ふふふっ、なんだその視線は?」
「シオンも可愛いところがありますよね……」
「かわっ!? おい、フランメから言われるとすごく変な感じだ!」
「すみません、ルルディさんと話してから自分でも驚くほど気持ちが高ぶっているようです……」
「い、いったい何を話したのだ?」
「私的なことので、秘密です」
フランメは本当に気分が良くなっているようで、鼻歌まで歌っていたのでシオンは驚くばかりだった。
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シオン、ロージー、ペイアー、フランメ、ルコウ、そしてヴィオラの身体をのっとっているルルディが今後の動きについて決めるために宿の一室に集まる。
「無事、というのは少し違うがヴィオラのことは取り戻せた。ペロージアとの約束は中途半端になってしまったがこのまま付き合う義理はないからな、国に帰ろうと思う」
ロージーとペイアーがうんうんと頷いた。
「そうですわよね、誘拐犯を捕まえられていないのは心残りではありますが、ヴィオラ様の安全を確保することが最善ですわ。この異国の地では不安がありますし……ペロージア様の目的はあとはご自身で頑張っていただきましょう、ユニコーンの角を渡しただけでも十分でしょうし……」
「結局あと一つはなんだったんだろうなぁ……ま、とりあえず城に帰るか……と言ってもオレたちって正規のルートで来たわけじゃないし国を越えるときに面倒だよなぁ……このサブルム王国を越えて、ナトゥーラ連盟の統治地域を越えて……正規ルートだったら移動魔法が使えて楽なんだけどなぁ……」
「妖精界を通って帰りましょう」
フランメが眼鏡をくいと上げて言うと、皆の視線が集まる。
「妖精の世界はこことは別世界であり、入り口さえ作ればどこからでも入れます。妖精界を中継して、その後ソワレ王国に戻ればよいのです」
「なるほど、その手があったか……しかし、妖精界に行けばペロージアがいる……大人しく僕たちを通すか?」
「手土産にこのインプンドゥルの羽を渡せばよいのです。それに……ルルディさんもペロージア様には会いたがっておりますから」
シオンはフランメの隣にちょこんと座るルルディを見る。
彼女の瞳は相変わらず黒く濁っていて、無表情であるから何を考えているかわからない。
しかし、確かにずっと会えなかったきょうだいに会いたい、と思う気持ちはシオンにも想像は出来る。
「わかった……その方がペロージアとの後腐れもないだろうしな」
「殿下、ありがとうございます」
『……ありがとうございます』
「だが、それが終わったら本当にヴィオラを返してくれ……もう、正直気が狂う一歩手前なのだ……目の前にヴィオラがいるのに……いない……なんて……」
『妖精界からあなたたち国に帰るころには、ヴィオラに身体を返すわ。約束する』
ルルディはそういうとシオンはほっとした顔をしたのだが、聞いていたルコウは寂しそうに視線を落とした。ルコウは、ルルディが決めていることであり、少し話ができただけでも幸運であるのだと言い聞かせた。
「では殿下、妖精界への道を開きます。フランメや手伝っておくれ」
「はい、父上」
ルコウとフランメは宿の一室に妖精界へとつながる入り口を作り出した。
シオン一行は自分たちの国に帰るため、その穴の中へと消えていった。




