110.脱出
時は遡り、シオンたちがユニコーンと出会っている頃、ヴィオラはアリィによって深い眠りに落とされていた。
『目を覚まして……』
(……………………)
『目を覚まして……ヴィオラ……』
(………………誰? あれ、わたし……探さないと……いけないのに……皆様の記憶を取り戻す方法を……シオンの記憶を……シオン……!)
ヴィオラはハッと目を覚ました。
身体は水の中から出た時のように重たく引っ張られ、頭はぼんやりとする。
そして、自分は今までとてもとても長く、悲しい夢を見ていた気がして、頬は涙で濡れていた。
(わたし…………何をして……? 確か、お母さまとお城の牢を出て……それから……それから、どうしたんだろう……?)
自分はいつのまにかふかふかなベッドで眠っていて、辺りを見渡しても母の姿は見当たらなかった。さらにはこの部屋は小さな明かりが部屋の四隅にあるのとカーテンのかけられた窓がひとつあるだけで、扉が存在していない。
(ここはどこ? お母さまは? 声も……まだ出ない……そうだ、お母さまと一緒に殿下たちにかけられた魔法を解く方法を見つけないといけないのに……お母さまを探さないと……でも、この部屋どこからでるの?)
ヴィオラはベッドから滑り降りて部屋の壁をぺたぺたと触るが、やはり扉はない。
窓のカーテンを引くとヴィオラは声のない悲鳴を上げた。外の景色は蛇のようにうねる茨で一面覆われている。
ヴィオラは自分の置かれた状況に理解が追いつかず、困惑する。
(これは何!? いったい何が起きているの!?)
『窓から離れて』
(……誰!? でも、聞いたことが……)
『いいから速く!』
不思議な声の言う通りに窓から離れてすぐ、爆音と衝撃とともに窓が周りの壁ごと突然吹き飛んだ。もし、声に従わずあのままあの場所にとどまっていたらと考えるとゾッとしたが、今は目の前の出来事に注意を奪われる。爆発と共に何者かが部屋に入ってきているのだ。
土煙が部屋の外に吸い込まれると入って来た男性の姿がくっきりとする。
オールバックの黒髪に、耳にはいくつもピアスをつけていて、三白眼の目が鋭い。
亜人族の様で背中からは黒い翼が生えている。
男性はベッドの後ろに隠れているヴィオラを見つけると鋭い目の目じりを下げて、人懐こそうな笑顔になった。
「やっほー久しぶりだねヴィオラちゃん、寝てるって聞いたけど、起きてんじゃーん。いや、おれが起こした? ま、元気そうでよかった」
(???)
「あ、そっか、こっちの姿は見せたことなかったか……おれってほら色気がありすぎだからさ、お城だとあっちの姿でいたんだよね……ほら」
男性の髪の毛がざわつき、頭の形が変わっていく。
すると、実に見たことのある烏頭に変貌を遂げた。
(トトララ様!?)
「じゃーん、トトララでーす……あぁ、やっぱ人型の方が好きだな、戻そ」
また姿が変わり、オールバックのバチバチピアスに戻った。
あまりの見た目の違いにヴィオラは頭がくらりとする。
「と、いうわけで……囚われのお姫様をイケイケなおれが助けに来たよん」
(トトララ様……あ、どうしよう、声が……)
「あれ? ヴィオラちゃん、声が出ないくらい嬉しい? それともおれがイケメンすぎた?」
ヴィオラはトトララの問いに苦笑いくらいでしか返すことができなかった。声が出ないのでとにかくトトララの手を掴んで、手のひらに文字を書く。
「あひゃ、あひゃひゃひゃ! ヴィオラちゃんそれくすぐったい! うーん、というかゾクゾクしてきた。こういうのもありか……」
(駄目だ、手文字が通じてない……お母さまはすぐに通じたのに……)
ヴィオラは自分の喉に手をあてて、次に手をくちばしのようにしてぱくぱくと動かし、必死に首を振った。
さすがにヴィオラの声が出ていないことと必死のジェスチャーで「もしかして、声が出ない?」というトトララの質問を引き出し、ヴィオラはこくこくと頷いた。
「なるほど、そりゃ困った。でも、そろそろここから脱出しないともっと困ることになるから、とりあえずここからでよう」
(……でる?)
トトララが壁の崩壊した後の外に視線を送る。
蛇のような茨が外には無数にうねっていて、先に遠く見える光が少しずつすぼんでいくのが見えた。
「今からヴィオラちゃんをおれが抱っこして、この茨を突っ切ります。じゃあ、シツレイして」
トトララは軽々とヴィオラを横抱きにして、背中の翼を広げた。
(でも、こんな茨の中を飛んだらトトララ様が怪我してしまうのでは!?)
「あー、痛そうに見えるケド、これ、クソババアからもらった魔道具……この指輪があるから自動的に魔法壁が張られておれたちは安全ってワケ。んじゃ行くね!」
トトララは早口で説明を終えると翼を羽ばたかせて茨の海に飛び込んだ。
うねる茨がトトララに絡みつこうとするが、触れる前に見えない壁にはじかれる。
「ひゅ~う、来たときもそうだけど、これマジつかえるなぁ!」
(すごい、どんどん進んでいく……!)
あっという間に黒い茨の海を抜け、真っ青な空に飛び出した。
高く高く茨が届かないほど高度を上げる。渓谷に満たされた茨の海と荒れ果てた林が眼下に広がる。
ヴィオラはこれほど高い場所に来たことはないので、下を見つめていると胸の奥がぞわりとして、怖くてトトララにしがみついた。
「こーんなカワイイ子に抱き着いてもらえるとか、役得! あーっ、でも殿下には言わないでね。さすがに殺されそ」
(トトララ様はどうしてここに?)
「さてと、とにかく無事にでられたから……やることはひとつ! 遊ぶぞぉ!!」
(?????)
ヴィオラはトトララの言い出したことが全くわからないし、自分がどこにいるのかもわからないし、いったい母はどこに行ってしまったのか不安であるし、シオンたちは今どうしているのか心配であるし、あの謎の声はいったいなんだったのか、心の整理がつかないのに声をだせない現状ではトトララを止める術がなく今はしがみつく他なかった。
ちょっぴり設定:亜人族、竜族はみんな姿を変えられます。
小話:ふかふかなベッドに寝かせてあげるあたり、(ルルを粗末なベッドで寝かせるわけがない!)という、アリィの気持ちがでていますね…。




