108.二人のカンケイ
「すげぇ美人……なぁ、声かけて来いよ」
「えぇ!? 無理だって、あんなの高嶺の花だろ……でも、なんでこんな酒場に美女二人で?」
酒場の男たちの視線を集めている美しい女性二人が向かい合って座っている。
一人はバラの咲くきれいな赤髪を緩やかにまとめて、うなじの見える緩やかなワンピースを身にまとい、下品にならない程度に仄かにバラ色の肌を露出している。
もう一人はゆったりとした服でありながらもシックな色合いできれいにまとまっていて、整った顔立ちと上品な振る舞いは、人の視線を惹きつける。
黒髪の美女がこっそりとバラの美女に話しかける。
「僕の女装は大丈夫だろうか……なんだか視線が痛いのだが……」
「大丈夫すぎてむしろ怖いくらいです(ヴィオラ様が帰ってきたらこのこと話そう)」
黒髪の美女ことシオン(偽名、カメリア)は、服屋でペイアーが服を見立て、ロージーが化粧をしたことで立派な美女へと変身した。
ロージーも服屋でワンピース姿に着替え、化粧をし、シオンと共にインプンドゥルらしき男が現れるという酒場で、二人で向かい合い食事をしている。
シオンは自分で女装をすると言ったもののなれないのか足をもじもじとさせ、口元を隠す。
「そ、そうか……だが、まさかこれほどにまで目撃証言があるとは……」
「驚きましたね。むしろ名物くらいになっていません?」
「金色の翼をもつ男が夜な夜なこの酒場に現れては女性をナンパしている、と」
「お嬢さんたち」
ロージーとシオンがどきりとして、来たか!?と視線を向けたが話しかけてきたのはこの町の警備隊員の男性二人だった。
「な、なにか?」
「最近女性が狙われて変死体で見つかる事件が発生しているから、君たちもなるべく早く家に帰りなさい」
「は、はい」
警備隊員たちは注意だけ促すと酒場から出て行った。
ロージーとシオンが今まで集めてきた情報と一致し、少しずつ目的に近づいていることを確信しお互いの顔を見合わせて頷いた。
「変死体……先ほど集めた情報によれば、まるで干からびてしまったようになっていたと」
「インプンドゥル、ってやつが女性を襲い、血を吸って殺している可能性、ありますよね。うーん、これでつられてくれたらいいのですけれど……」
「うむ、警備隊も警戒を強めているようだし、これだけ噂がたっているなか堂々と行動するだろうか……?」
「ですよね……なんか、ちょっと不安になってきました」
囮の二人をペイアーとフランメが離れた席から見守る。ペイアーがじっとメニュー表越しにロージーを見ているのをフランメが呆れたため息をついて、料理を口に運ぶ。
「そんなに気になるのであれば同じ席に座っては?」
「そ、それじゃあ、せっかくの囮作戦が意味ないだろ……」
「ですよね。なら、じろじろ見るのもやめてください。気取られますよ」
「周りだって見てるから、いいじゃん……」
「チッ、面倒な人だ」
「あーっ、今舌打ちした! 感じわるぅ……」
騒ぐ二人にロージーが呆れた視線を送っているとペイアーと視線がぶつかって、またペイアーがぎこちなく視線をそらした。
「ムカつく……」
「……? ロージーはペイアーとまた喧嘩したのか?」
「いいえ」
(怒っているな……ペイアーは何をしたのだ?)
「ハァイ、きれいな彼女たち」
シオンとロージーが突然話しかけられて振り向く。
声の主は金髪碧眼の二枚目の優男が立っていて、ロージーとシオンに、白い歯を見せて爽やかな笑みを向けていた。
背中には鳥を思わせる金色の翼が生えている。
((こいつだー!!))
「わぉ、びっくり、近くで見るとホント君たち美しいね。二人で飲んでるの?」
「えぇ、そうよ。本当は男の人と先約があったんだけど、急にダメになっちゃって、女二人でどうしようかなーって思ってたところなの。もう、夜まで暇なの」
「えぇ!? こんなに可愛い君たちとの約束をナシにしちゃうなんて、その人は不幸だね。よかったらご一緒しても?」
「むしろいいの? 嬉しい」
金髪優男はさっとロージーの隣に椅子を引き寄せて座る。
距離が近く、肩は少しだけ触れていて、横を向けばすぐそこに顔がある。
優男がロージーの隣に座った瞬間、ペイアーが鋭い目つきで男を睨みつける。
「おい、近くないか……いや、近いだろ……近い……」
「あなたは娘を見守るお父さんですか……」
「いや、だってあんな近づく必要あるか? もうあいつだろう? ふん捕まえて羽を引きちぎればいいだろう」
「医者とは思えぬ暴力的発言ですね」
「なんだよ、あんなに笑ってさ……オレにはあんなふうに笑いかけてくれないじゃんか……」
フランメはぶつぶつうじうじと呟くペイアーの相手をするのが面倒になってきたようで、返事をするのもやめて料理をもぐもぐと食べ続けた。
「ボクはトルエノよろしく。バラの君は……」
「あたしはロージー、この子はカメリア……ごめんね、この子恥ずかしがり屋さんで初めての人とはあまり話さないの」
「わぁお! そうなんだ、じゃあボクがご一緒しちゃ悪かったかな?」
カメリアは口元を服の裾で隠しながら首を横に振った。
男性的な声をだしては一発でばれてしまうので、ロージーが主に話をする手はずだ。
「あはは、よかった! 君、奥ゆかしいのだね、うん、そういうのもいいと思うよ。もちろん、お話してくれるのもどっちも好きさ」
「うふふっ、なにそれ、結局全部好きなんじゃない」
「ふふ、ボクは博愛主義者なのさ」
「アハハ、トルエノさんってば変わった人」
「変わった人はお嫌いかい?」
「いいえ、面白くって好き」
ペイアーが手に持っていたメニューをくしゃりと握りしめてしまって、お店の人に怒られた。
「好きぃ? はぁ? 何なんなわけ? 好きってさぁ……」
「嫉妬は見苦しいですよ」
「べっ、別に嫉妬なわけないし……」
「たしか、以前にもこんなことありましたよね。たしかあれはロージーさんがお見合いをすると言った時でしたっけ? あの時から関係性は変わっていないのですか?」
「……っるさいな……………………変わったよ、いろいろと」
「でも、ロージーさんとは恋仲ではないでしょう?」
「……そうだけどさ」
「なら、彼女が誰と何をしようが彼女の自由です。あなたが縛ることはできません」
「ぐっ、フランメに男女間のことを諭されるとは……」
「そう、縛り、縛られるのは相手との合意の上でこそ、それでこそ至高の領域に達することができるのです」
「話が変わってるよな!?」
またきゃんきゃんとペイアーとフランメが騒ぎ始めたころ、トルエノはロージーとシオンを連れて店をでてしまった。
後を追って、ペイアーとフランメもロージーとトルエノを追いかけ、物陰からそっとを見張る。
「なんだよ、あの優男……やっぱり近すぎる……あぁ、くそもっと離れろよ……」
「ペイアーさん、うるさいですよ。殿下もいるので大丈夫ですよ。あ、父上」
フランメが建物の屋根の上で動く白い物体を見つけた。
ルコウはあの蝋の姿では目立つので、猫のような姿に形を変えて屋根の上を跳んでわたっている。
前を歩く3人は曲がり角を曲がった。
「曲がりましたね」
「あ、あ、あっちは……」
ペイアーは道順に覚えがあるようで、わなわなし始める。
急いで追いかけて、同じように道を曲がった。
すると、道を曲がった先はカップル用の宿が並ぶ通りであった。
フランメは、立ち並ぶこの宿たちがいったいなんなのかわからず首を傾げた。
「宿がたくさんありますね、滞在時間で金額が区切られて、一晩泊まらない? では、なんのために滞在するのですか?」
「あぁ、もう変なところだけ突出した純粋坊やめ!」
ペイアーがこの宿の使用目的を話すとフランメは「なるほど」と納得していた。
トルエノは宿を決めたようで、シオンとロージーの腰に手をまわして宿に入っていった。
「おいっあいつロージーの腰に手を~~っ! ぶん殴ってくる!!」
「いい加減落ち着いてください。むしろ個室に入ってくれたなら好都合です。このままお二人でしたら仕留められるのではないですか」
「……………………」
ペイアーはぐっと唇をかみしめて、四本腕を組み落ち着きなくうろうろとし始めた。
フランメはペイアーの面倒くささに一人だけ宿に帰ろうとさえ考えてしまった。
ペイアーとロージーの関係性は番外編で書く予定です…予定、です……




