106.隠した気持ち
「はいっ『なんて素敵な鬣なんだ! 長いまつ毛も美しい!』」
『ナ、ナンテ……ステ、キナ……』
「誉め言葉は恥ずかしがらない!! 恥ずかしそうに言われた誉め言葉ほど萎えるものはない! はいっ! もう一度!」
ペイアーが言い出した角の代わりの武器は、メスのユニコーンに対する態度や言葉の訓練をすることであった。
聞けばユニコーンたちは皆立派な角を持っているというのに、今の今までずっとメスへの求愛に失敗し続けてきているし、最近のメスのユニコーンは角に対して興味が薄いらしい。
そして、言葉で会話しようとしてもこの兄弟たちは角以外のこととなると、とんと話せなくなるのが問題であった。
ペイアーはその現状を知るとユニコーン兄弟にメスに対する接し方の授業をし始めた。
そんな彼らをフランメやロージー、シオン、ルコウは倒れた丸太を椅子代わりにして座り、眺めていた。
「ペイアーさんは何と言いますか、昔から変に面倒見がいいですよね」
「確かに……よく相談相手にされてるみたいだし……友達も多いし……」
「ペイアーの今まで培ってきたものが活きている、のか……?」
授業は大詰めを迎えているようで、ユニコーンたちの荒んでいた目つきがどんどん純粋な輝きを帯び始めていた。
ペイアーは彼らの見違えるほどの変化に深く頷いた。
「よく授業をのりきった。だが、一番大切なことは目の前の女の子に集中すること! わかったかい?」
『『ハイッ! センセイ!』』
「よし、君たちは今日、今この瞬間生まれ変った! あとは実践のみ、行くぞ!」
いつの間にか先生になっていたペイアーはユニコーンのアニジャの背に乗せてもらって、どこかに行ってしまった。
シオンたちはおいて行かれてしまったものの、とりあえず今はペイアーに任せることにした。
ペイアーたちが去ってしばらく、ロージーはぼーっとペイアーの立ち去った後の草の茂みを見つめて、考えに耽っていた。
(あーあ、さっきはしくじったなぁ……ついに言っちゃったわ。頭に血がすぐ上っちゃうところ、あたしのだめなところ)
(知ってたよ……ずっと前から、あんたが女好きのふりしてること……だって、あんた女の人と話すより、いい香りのお茶を飲んだり、本読んだりする方が好きじゃん。みんな誰もかれもに手を出すって思ってるけど、本当は違うじゃん。シオンのこと好きなだっていう癖にシオンに一方的に気持ちをぶつけてくる迷惑な奴とか明らかに異常な奴に、殿下とくっつく可能性をなくすために粉かけて、自分が悪者になってさ……やり方は本当に無茶してるし、間違っていると思うけど!!)
ロージーは昔の出来事を思い出して、拳をぐっと握りしめた。
ペイアーが若かりし頃、突然「自分は女好きである」と公言した時にはロージーは本当に驚いた。そして、本当に複数の女性と関係を持つようになり始め、女性はペイアーに飽きるか一番になれないことを嘆いて去るか、貴族であるからそのうち落ち着いた縁談がきたといってどんどんと入れ替わっていった。
ロージーはそんなペイアーを見ていると、胸の奥をがりがりと削られていくような感覚がして嫌で仕方なかった。
ペイアーが女性を泣かせているのも何度も見てきたが、それ同時にペイアーは女性たちに消費させらているような、どっちもどっちのはずなのに、どうしようもなくペイアーに気持ちが傾いているのは否定できなかった。
(あたし……いろいろ理由つけてきたけど、結局あいつのこと……)
「ペイアーが戻って来たぞ」
シオンの声で思考が戻った。ロージーがシオンの視線の先を見ると、ペイアーが空を飛んできて目の前に降り立った。四本の腕で四兄弟分の角を抱えている。
「おぁ、すごいなペイアー! そんなにもらってきたのか」
「なんかもらいすぎちゃったんですけど、でもユニコーン君たちうまくいってよかったですよ。どうやら女の子たちも彼らのことは気になっていたみたいで、一歩が必要だったみたいです。オレの授業必要だったかな?」
ペイアーがシオンにユニコーンの角を渡すと、シオンの持つ金色の紙が光を帯び、ユニコーンの角はどこかに消えてしまった。
「なっ、角が消えてしまったぞ!?」
「ペロージアのもとに送られたのでしょう……文字がまた浮かび上がっておりますな」
「次は……『インプンドゥルの羽をとってきて』……」
シオンが紙に綴られた言葉を口に出すと、シオンたち一行の姿は森から消えてしまった。




