第214話 星空
【作者からのめっちゃ大事なお願い】
読んでくださる方に、《《本当にライブに居るような気持ち》》になって欲しい。
そんな思いから、作中歌【星空(青春ロックver)】を作成、Youtubeに公開しました。
この曲に合わせて文章も書いています、ぜひ聴きながら読んでください!!!!!!
(Youtubeのコメントの方にも、本編を転記しています)
https://youtu.be/PgUBeIkMNbM?si=Ce-1uG9C8p_ImGaP
再び時間はスタジアムライブのDay1に戻る。
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光くんがショルキーの鍵盤に指を落とした。
——あのイントロが、鳴り始めた。
「星空」
誰もが知っている、全国ツアーのファイナルのその場で完成したという光くんの代表曲。
配信で何千万回も再生された、あのピアノのメロディ。——でも今、その音はエレキギターのような激しい音でショルキーから鳴っている。
立ったまま。和装の肩から腕にかけての筋肉が、鍵盤を押すたびに動いている。スポットライトの中で、スパンコールが瞬いている。
——その瞬間、手の中のペンライトが勝手に変わった。
白。
あたしのペンライトだけじゃない。5万本が一斉に白く変わった。曲に合わせて、全員のペンライトが同じ色に染まる。
白い光が——瞬いていた。
全点灯じゃない。キラキラと、不規則に明滅している。一つ一つが、少しずつ違うタイミングで。まるで——
「……星だ」
誰かが呟いた。
あたしも見ていた。モニターに会場全景が映った瞬間、声が漏れた。
5万本のペンライトが、白く、ばらばらに瞬いている。客席全体が——星空になっていた。地上に、星空が広がっている。
その星空の真ん中に、紺の和装の光くんが立っていた。
——夜空の中に立つ、一人の人間。
⸻
バンドが入ってきた。
ドラムが支える。腹の底を突き上げるキックが連打されている。ギターが駆け上がるようなリフを叩きつけた。ベースが地面を揺らしている。遥さんのキーボードが隙間なく空間を埋めた。
「星空」が——変わった。
あの繊細なバラードが。あのピアノ一台で紡がれていた、静かで優しい曲が。
ロックになっていた。
青春ロック。疾走感。突き抜ける爽快さ。切なさと勢いが同居する、走り出したくなるような音。
同じメロディなのに、全然違う曲に聞こえる。でも——芯にあるものは同じだった。「星空」の、あのまっすぐで、透明で、どこまでも伸びていって、それでいてどこか懐かしさもある。それらがロックの爆音の中にちゃんと残っている。
⸻
光くんがショルキーを弾きながら歌い始めた。
——「この旅でいくつの街をまわっただろう」
あの歌詞だ。全国ツアーのファイナルで、光くんが初めて歌った、あの歌詞。
——「弾いて 歌って 出会いを重ねて」
動いている。ピアノの前に座っていた光くんはもういない。ショルキーを抱えて、ステージの上を歩いている。走っている。花道に出た。客席の間を突っ切るように進みながら、弾いて、歌っている。
——「どの街でも 何かが起きて みんなで笑ったね」
あの日と同じ言葉が、ロックアレンジの爆音の中で、全く違う響きで鳴っている。
近い。
アリーナ席のあたしの目の前を、光くんが通り過ぎていった。和装の袖が風を切って揺れた。はだけた肩の汗が、照明を反射して光っていた。ショルキーの鍵盤を叩く指が見える。あの指が、今、あたしの数メートル先で動いている。
——「小さな子が拍手してくれた日 おばあちゃんが涙を拭いた日」
笑っている。光くんが、揺れながらめちゃくちゃ笑っている。走りながら、弾きながら、歌いながら、ずっと笑っている。テンションが上がりきっていた。
花道の途中でぐるぐると回り始めた。一回転、二回転——回りながら弾いて、回りながら歌って、和装の裾が遠心力で広がって、それでも音が一切ブレない。
——「知らない誰かの『ありがとう』が 胸の奥にまだ響いている」
その時、急に光くんがステージの中心に向かってダッシュし始めた。ステージの中心に到着し、ジャンプしながら客席に向かって叫ぶ。
「おら!!!みんな!!!サビいくぞ!!!!!!」
「「「きゃああああああ!!!!!!」」」
強烈で、一度聴いたら耳から離れないキャッチーなサビ。このスタジアムにいるファンで、歌えない者など一人もいなかった。
スタジアム中を揺るがす大合唱が始まる。
「「「それぞれの場所で 生きてる君へ」」」
「「「どうかあの日を 覚えていてね」」」
「「「離れていても みんなはひとつ」」」
「「「僕らは決して 一人じゃない」」」
⸻
サビが終わったあと、るんるんスキップしている。スキップしながらショルキーを弾いている。和装で。スタジアムで。5万人の前で。本当にこの人は——楽しいんだろうな。心の底から、今この瞬間が楽しくてたまらないんだろうな。
——「みんなでピアノを守ったこともあったね」
2番に入った。少しゆったりとしたAメロのアレンジ。
ステージの一番前に来た。走るのをやめて、ゆっくり歩き始めた。弾きながら、歌いながら——最前列の客に、一人ずつ、目を合わせていく。一人、また一人。目が合った人が、声を上げる。泣き崩れる。手を振る。光くんが笑い返す。次の人に目を移す。また次の人。丁寧に、一人ずつ。
——「朝まで語り合った夜もあったね」
——「どれも全部大事な宝物だね」
歓声が渦巻いている。光くんが前を通るたびに、近くの客席が沸騰する。手を伸ばす人。叫ぶ人。泣いている人。光くんが走ると、歓声の渦がその後ろを追いかけていく。
——「いろんな人の声を聞いて」
——「一緒に笑って歌い合って 夢のような」
光くんの声が、5万人に向けて歌っている。花道を駆け抜ける。途中で急に立ち止まって、近くの客席に向かってしゃがみ込む。目が合った女の子が叫んだ。光くんが笑って立ち上がって、また歩き出す。
——「ずっと楽しい旅だった」
——「あのとき交わした 笑顔のままで」
同じ歌詞の繰り返しから入る、特徴的な縦揺れのリズム。
——「あのとき交わした 笑顔のままで」
——「あの夜がくれた 奇跡を抱いて」
光くんが足を止めて——右手を開いて突き上げた。リズムに合わせて、腕を上下に振る。一回、二回、三回。
客席が応えた。5万人の手が一斉に上がった。光くんの腕のリズムに合わせて、5万本のペンライトが揺れる。バンドが光くんのリズムに合わせて音楽を作る。光くんと、客席と、バンドが、さらに1つになる。
ふいに、光くんが上を見た。
2階席に向かって、両手を大きく広げて振った。ショルキーを首からぶら下げたまま、全力で。2階席が爆発した。3階席にも振った。天井に近い、一番遠い席。光くんが両腕をいっぱいに伸ばして振っている。3階席から地鳴りみたいな歓声が降ってきた。
そのままこう歌う。
——「ずっとみんな友だちのままで」
——「またいつか こうやって会おう」
あの席からは光くんがどれだけ小さく見えているんだろう。でも——光くんはちゃんとあそこを見ている。一番遠い席の人たちのことも、ちゃんと見ている。
ステージの中央に向かって、全力で走っていく。
鍵盤を弾きながら動き回る姿は、今まで見たことのあるどの楽器のプレイヤーとも違っていた。光くんだけの、光くんにしかできないパフォーマンス。
手拍子が地鳴りみたいにスタジアムを震わせている。白いペンライトの星空が揺れている。5万人が揺れている。
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——光くんが、メインステージの中央に戻ってきた。
2番が終わる。バンドの音量が落ちた。消えたんじゃない——引いた。ドラムが刻みを落とし、ギターがシンプルなパワーコードに切り替え、ベースがルートだけを踏んでいる。遥さんのキーボードがパッドで空間を支えている。
その中で——ショルキーが前に出た。
光くんが、ステージのど真ん中で立ち止まり、その箇所だけにスポットライトが落ちる。
——ソロだ。
さっきまで走り回っていた光くんが、ステージの中央に根を下ろしたみたいに動かなくなって、ショルキーを弾いている。歌はない。バンドは後ろで鳴っている。でも主役は完全にショルキーだった。ギターソロみたいに——いや、ショルキーソロだ。5万人の星空の真ん中で、光くんのショルキーが一番前に立っている。
——その時だった。
「え……?」
あたしの声が漏れた。周りの観客もざわついている。
光くんが——高くなっている。
違う。光くんが高くなっているんじゃない。光くんが立っている場所が——ステージの一部が——上がっている。
「上がってる……!」
誰かが叫んだ。
——せり上がりだ。
光くんの足元のステージが、ゆっくりと、上昇していた。
⸻
周りを見た。隣の人が口を手で覆っている。前の席の人が両手でペンライトを握りしめている。後ろから「やばい」「やばい」という声が聞こえる。
光くんがまだまだ上がっていく。ショルキーのソロが続いている。
——その時、ステージの後ろから光の柱が立ち昇った。
花火だ。
一発。夜空に向かって、まっすぐに。
せり上がりと同時に——花火が始まった。
⸻
5メートル。ショルキーが暴れている。高くなっていく光くんから、変わらない音量で、変わらない熱量で。花火が一発、また一発と上がっていく。
10メートル。あたしは首を上げた。アリーナ席から見上げる角度が、どんどん急になっていく。光くんの姿が——遠くなっていく。花火の数が増えていく。二発同時。三発同時。夜空が明るくなっていく。
——15メートル。
止まった。
ビルの5階くらいの高さ。夜空に近い場所。光くんが、スタジアムの空の中に立っていた。花火が左右から打ち上がり続けている。ショルキーが叫び続けている。
下には白いペンライトの海——地上の星空。上には花火と紺の和装の光くん。
左右の巨大モニターが、光くんを大写しにした。
⸻
ショルキーのソロが止まった。花火が止まった。バンドが止まった。ペンライトが消えた。照明が落ちた。
スタジアムが暗転した。
静けさの中に残ったのは、たった1本のスポットライトに照らされた15m上空の光くんだけ。
紺の和装。激しい汗の流れるはだけた肩。スパンコールがスポットライトの光だけを受けて、静かに瞬いている。下には白いペンライトの海。上には夜空。その間に、たった一人。
声が震えていた。さっきまでの激しさが嘘みたいに、透き通った裏声だった。ピアノがそれを支えている。遥さんの指先が、光くんの声のすぐ隣を歩くように音を置いている。
——「声が出なくなった日も」
——「誰かがそっと続きを歌ってくれた」
15メートルの高さから、マイクを通した声と、地上のステージから聞こえる遥さんのピアノだけ。たった二つの音が、5万人の沈黙の上を渡っていく。
息を、するのを忘れていた。
——裏声のフレーズが消えかけた、その瞬間——
——「だから君も泣いていいんだよ」
——「ひとりきりにはしないから」
ステージに火が点いた。
一斉に。ドラムが叩きつけた。ギターが切り裂いた。ベースが地面を揺らした。遥さんのピアノがキーボードに切り替わって空間を埋め尽くした。照明がメインステージを一気に白く焼いた。
点火だった。積み上がるんじゃない。一瞬で、全部に火が入った。
同時に——
ドッカーーーン!!!
花火がまとめて上がった。一発じゃない。十発、二十発——数え切れない。ステージの後ろから、左右から、ありったけの花火が夜空に叩きつけられた。
——ラストサビ。
光くんが歌い始めた。もう、光くんの煽りも必要なかった。
スタジアム中から、明らかに今日一番大きな声が轟いた。スタジアムが揺れる、お腹にみんなの声がビリビリ響く、自分の声も聞こえないほどの爆音。だけど私も、精一杯叫んだ。
「「「それぞれの場所で 生きてる君へ」」」
15メートルの高さから、声を解き放った。明らかに今日一番の声の伸び。今日の光くんの最高潮——それが今、5万人のペンライトの星空の上から降ってきている。
「「「どうかあの日を 忘れないでね」」」
花火が上がり続けている。止まらない。ラストサビの間、ずっと。一発ずつじゃない。連続で、途切れなく、夜空を塗りつぶすように。赤と金と白と青が混ざって、空が燃えている。
「「「離れていても 僕らは一つ」」」
光くんが歌い上げている。花火の音を貫いて、バンドの音圧を貫いて、声が夜空に突き抜けていく。和装のスパンコールが花火の色を次々に反射して、体全体が燃えているみたいに光っている。
モニターに映る光くんの顔。汗が飛んでいる。笑っている。全力の、全力の顔。
「「「この歌がある限り 一人じゃない」」」
——最後のフレーズ。
「星空の下に——また、集まろう」
光くんの声とピアノの音だけになる。右手の指先が真上に伸びていた。どこまでも、どこまでも。夜の星空に向かって。
「星空の下に——また、集まろう」
「星空の下に——また、集まろう」
「星空の下に——」
バンドが再び点火する、まるで名残惜しくて、最後の全てを燃やし尽くすみたいに。
「また、集まろう」
光くんのロングトーンがどこまでもスタジアムの空へ伸びていく。バンドもそこに最後まで全力でついていく。
「星空の下に——また、集まろう」
最後の一音が——消えた。
バンドが止まった。光くんの手はずっと上がったまま。
一瞬の静寂。
——残っていた花火が、全部上がった。
声もない、音もない空に、最後の花火だけが次々に咲いていく。何十発。フィナーレの全てを叩きつけるように。光くんが歌い終わった夜空に向かって、ありったけの光が放たれている。
赤。金。白。青。重なって、混ざって、夜空を埋め尽くして——
下には白いペンライトの星空。上には花火で燃える夜空。その間に——15メートルの高さで、和装の光くんが立っている。もう弾いていない。もう歌っていない。ただ立って、泣きそうな顔で、それでも全力で笑ってる。
あたしは叫んでいた。何を叫んでいるかわからない。言葉じゃない。ただ声が出ていた。周りも全員そうだった。泣いている人。笑っている人。叫んでいる人。手を振っている人。隣の見知らぬ人の腕を掴んでいる人。全部がぐちゃぐちゃに混ざって、スタジアム全体が一つの感情の塊になっていた。
——これが、このライブの答えだった。
『再掲』
【作者からのめっちゃ大事なお願い】
読んでくださる方に、《《本当にライブに居るような気持ち》》になって欲しい。
そんな思いから、作中歌【星空(青春ロックver)】を作成、Youtubeに公開しました。
この曲に合わせて文章も書いています、ぜひ聴きながら読んでください!!!!!!
(Youtubeのコメントの方にも、本編を転記しています)
https://youtu.be/PgUBeIkMNbM?si=Ce-1uG9C8p_ImGaP




