第161話 Day1裏:後年インタビュー、Day1に参加した有名スタジオミュージシャン
インタビューに現れた彼女は、黒いジャケットにシンプルなTシャツという装いだった。ロック然とした派手さはないが、現場を知る人間なら一目で分かる「仕事人」の空気がある。指先にだけ、長年スタジオを渡り歩いてきた癖が残っていた。
歌もの、CM、映画音楽、海外案件。呼ばれれば応える。「とりあえずこの人を呼べば大丈夫」と言われる、業界で引っ張りだこの女性ギタリストだ。
――DAY1に参加したときの心境を教えてください。
正直に言うと、落ちるとは全く思っていませんでした。
スタジオミュージシャンとして、一日に何十曲も録る現場は珍しくありません。譜面を渡されて、その場で把握して、求められた通りに弾く。テンポが変わろうが、キーが動こうが、アレンジが変わろうが対応する。それが仕事で、それをずっとやってきました。
集まっていた人たちを見ても、音楽的な能力で引けを取っているとは感じなかった。むしろ「自分は出来る側だろうな」くらいには思っていました。もちろん、光くんの新しいアルバムの曲も、全部身体に入れていました。
――違和感は、どのタイミングで?
本当に、弾き始めて三十秒くらいです。
譜面通りじゃない。でも、間違っているわけでもない。弾きながらほんの少し揺らす。アレンジが挟まる。テンポも和声も、固定されない。音楽が、その場で組み変わっていくような感覚でした。
私は、そこで「どの形が正解なんだろう」と考えてしまった。それ自体が、もうズレていたんだと思います。
――技術的には対応できたのでは?
出来ました。たぶん、普通の現場だったら。
後奏を伸ばす。ヴォイシングを変える。リズムをずらす。転調に付いていく。
一度止めて、指示をもらって、修正する。スタジオミュージシャンなら、どれも珍しくありません。
でも、あの場には「止める」がなかった。「正解を確認する時間」もなかった。音楽が、止まらずに進み続けていたんです。
私は、正解を外さないために構えた。でも、そもそも、あそこには最初から“正解”なんてなかった。
――印象的だった光景は?
ありました。技術的には、正直、私より拙い人もいた。でもその人たちは、盛大にミスをしながら、笑いながら音を出していた。
あんなふうに、「間違っても良いことを前提に」音楽をした記憶が、自分にあっただろうか。考えたとき、答えはすぐに出ませんでした。
あのオーディションは、技術を見る場じゃなかった。音楽をどう扱っているか、どう向き合っているか。そのスタンスを、説明なしで突きつけてくる場だったんだと思います。
――光さんの音楽と、ご自身のスタンスの違いをどう感じましたか?
才能の差、というより、相性だったと思います。
私は、音楽を「成立させるもの」として扱ってきた。壊さないように、止めないように、正しく届ける。それが仕事でした。
一方で、光くんは音楽を「転がして楽しむもの」として扱っている。形が変わることを前提にしているし、ズレることも含めて遊んでいる。
どちらが正しい、という話じゃない。ただ、あの場では、その違いがはっきりと出ただけです。
――DAY1以降、変化はありましたか?
ありました。
不思議なことに、あの日を境に音の幅が広がった。仕事が減るどころか、むしろ増えました。今まで全く無かった「自由にやってほしい」「遊び心を足してほしい」そう言われる現場が増えたんです。
……少し皮肉ですよね。落ちたオーディションが、結果的に自分の音楽を更新してくれた。
だから、後悔はありません。あのDAY1は、「選ばれる日」じゃなくて、「音楽の向きが分かれた日」だった。今は、そう思っています。
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――数年後の、静かなスタジオで語られた言葉は、そこで一度、途切れる。
時間は、ゆっくりと巻き戻る。
まだ誰も、このオーディションの結末を知らなかった夜。
DAY1が終わり、会場の灯りが落ちた、その日の夜へ。
チーム光は、同じテーブルを囲みながら、
それぞれが胸に残った感触を、少しずつ言葉にし始めていた。
Day1を受けた、チーム光の感想戦。
その夜の会話が、次の選考の形を、静かに決めていく。




