第162話 チーム光Day1感想戦
その日の夜、チーム光オフィスにて
夜のオフィスは、昼間の喧騒が嘘のように静かだった。
大部屋に響いていた音はもうなく、テーブルの上には紙コップと、適当に買ってきた軽食だけが残っている。
全員が、どこか疲れた顔をしていた。
ただ一人を除いて。
「……でさ」
光はソファに深く腰掛け、どこか首を傾げたまま言った。
「“いつも通りでいい”って言われたから、いつもの感じでだいたいやったんだけど……選考って、ちゃんとできた?正直、俺はあんまり分からなくてさ」
一瞬、空気が止まる。
マリ姐が、ゆっくりと息を吸った。
「……なんで、あの惨状で分からないのよ」
低い声だった。
「むしろ、やり過ぎなくらい。でも結果的にはちょうど良かった」
詩音が、苦笑いしながら頷く。
「“ひどいことになってましたね”が、一番正確な表現だと思います」
雪が、思い返すように天井を見る。
「……半分くらい、途中で帰ってた気がする」
「え?」
光が目を見開いた。
「そんなに?」
遥が頬に手を当てながらコメントする。
「day1でみんな帰ってバンド作れないかと思ったなぁ…」
真白が、遠慮がちに手を挙げる。
「……私でさえ、ちょっとどうかと思いました」
光は、完全に想定外という顔をした。
「え、みんな反応そんな感じなの!?
でもさ、楽しそうな人たちもいたじゃん。途中から一緒に笑ってた人とか、休憩中に集まってきた人とか!」
その言葉に、マリ姐が腕を組む。
「ええ。いたわよ。
ごく一部が、ギリギリ“ついてきてる”ような、あるいは“ただそこに居られた”感じだった」
詩音が補足する。
「全体として見ると、“音楽が始まった瞬間に置いていかれた人”と、“最後まで居残った人”が、きれいに分かれてました」
遥は、今日一日を頭の中で巻き戻すように、静かに言った。
「多くの人は、光くんという“絶対の正解”を後追いしようとしてたね」
光が首を傾げる。
「正解を後追い?」
「ええ。
“光くんが今どこにいるか”を確認してから、そこに追いつこうとする」
遥は続ける。
「でも、光くんの音楽って、そもそも止まらない。
後追いしようとした瞬間に、もう次の場所に行ってる」
詩音が静かに頷いた。
「結果的に、正確に弾ける人ほど、足を引っ張られていました。
判断を外に置いてきた人ほど、動けなかった」
雪が、昼間の光景を思い出したように言う。
「……光の音楽って、付いて来れる人を選ぶんじゃなくて、
付いて来られない人が、勝手に離れていくんだね」
真白が、小さく息を吸う。
「見ていて、ちょっと怖かったです。
でも……目が離せなかった」
光は、少し困ったように笑った。
「えぇ……今日、そんなことになってたんだ」
マリ姐が即座に返す。
「ま、DAY1でやりたかったことは、全部できたわね」
テーブルの上に、紙を一枚置く。
「数字で言うとね」
一拍置いてから、淡々と告げた。
「今日の時点で、100人弱いた候補者は、30人を切ってる」
光が、言葉を失う。
「……え…そんなに?」
「ええ。
途中で帰った人、明確に噛み合ってない人、
“正解待ち”が抜けなかった人」
マリ姐は、はっきりと言った。
「DAY1は、“音楽で遊べるか”を見る日だった。
そして、遊べない人は、ほぼ全員落ちた」
遥が、そこで前に出る。
「だから、明日です」
全員の視線が、遥に集まる。
「DAY2では、私が明確に指示を出します」
光を見る。
「光くんが自由に転がす音楽を、
“ひとつの形”として立ち上げられるかどうか」
詩音が理解したように頷く。
「無秩序に一緒に遊べるかを見るのがDAY1。
即応して、ひとつの音楽を作るのがDAY2、ですね」
「そう」
遥は静かに続けた。
「光くんの“正解”を追いかけるんじゃなくて、
私が指示さえ出せば光くんの音楽を、同時に作れるかどうか」
雪が、小さく笑った。
「……それ、DAY1よりずっと難しそう」
光は少し考えてから、ぽつりと言った。
「でもさ。できたら……めっちゃ楽しいよね」
マリ姐が、ふっと笑う。
「ええ。
だから、残ったのが30人以下なの」
夜は、まだ終わらない。
だが、選考の輪郭は、はっきりと見え始めていた。
⸻
DAY1は、音楽で“遊べるか”を試す日だった。
そして、その夜。
残ったのは、100人から、30人にも満たない数。
翌日のDAY2では、音楽はもう無秩序に放ってはおかれない。
指示が出る。
判断が求められる。
“ひとつの光の音楽”を、その場で作れるかどうか。
――選考は、次の段階へ進む。




