表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

164/203

第162話 チーム光Day1感想戦

 その日の夜、チーム光オフィスにて


 夜のオフィスは、昼間の喧騒が嘘のように静かだった。

 大部屋に響いていた音はもうなく、テーブルの上には紙コップと、適当に買ってきた軽食だけが残っている。


 全員が、どこか疲れた顔をしていた。

 ただ一人を除いて。


「……でさ」


 光はソファに深く腰掛け、どこか首を傾げたまま言った。


「“いつも通りでいい”って言われたから、いつもの感じでだいたいやったんだけど……選考って、ちゃんとできた?正直、俺はあんまり分からなくてさ」


 一瞬、空気が止まる。


 マリ姐が、ゆっくりと息を吸った。


「……なんで、あの惨状で分からないのよ」


 低い声だった。


「むしろ、やり過ぎなくらい。でも結果的にはちょうど良かった」


 詩音が、苦笑いしながら頷く。


「“ひどいことになってましたね”が、一番正確な表現だと思います」


 雪が、思い返すように天井を見る。


「……半分くらい、途中で帰ってた気がする」


「え?」


 光が目を見開いた。


「そんなに?」


 遥が頬に手を当てながらコメントする。


「day1でみんな帰ってバンド作れないかと思ったなぁ…」


 真白が、遠慮がちに手を挙げる。


「……私でさえ、ちょっとどうかと思いました」


 光は、完全に想定外という顔をした。


「え、みんな反応そんな感じなの!?

 でもさ、楽しそうな人たちもいたじゃん。途中から一緒に笑ってた人とか、休憩中に集まってきた人とか!」


 その言葉に、マリ姐が腕を組む。


「ええ。いたわよ。

 ごく一部が、ギリギリ“ついてきてる”ような、あるいは“ただそこに居られた”感じだった」


 詩音が補足する。


「全体として見ると、“音楽が始まった瞬間に置いていかれた人”と、“最後まで居残った人”が、きれいに分かれてました」


 遥は、今日一日を頭の中で巻き戻すように、静かに言った。


「多くの人は、光くんという“絶対の正解”を後追いしようとしてたね」


 光が首を傾げる。


「正解を後追い?」


「ええ。

 “光くんが今どこにいるか”を確認してから、そこに追いつこうとする」


 遥は続ける。


「でも、光くんの音楽って、そもそも止まらない。

 後追いしようとした瞬間に、もう次の場所に行ってる」


 詩音が静かに頷いた。


「結果的に、正確に弾ける人ほど、足を引っ張られていました。

 判断を外に置いてきた人ほど、動けなかった」


 雪が、昼間の光景を思い出したように言う。


「……光の音楽って、付いて来れる人を選ぶんじゃなくて、

 付いて来られない人が、勝手に離れていくんだね」


 真白が、小さく息を吸う。


「見ていて、ちょっと怖かったです。

 でも……目が離せなかった」


 光は、少し困ったように笑った。


「えぇ……今日、そんなことになってたんだ」


 マリ姐が即座に返す。


「ま、DAY1でやりたかったことは、全部できたわね」


 テーブルの上に、紙を一枚置く。


「数字で言うとね」


 一拍置いてから、淡々と告げた。


「今日の時点で、100人弱いた候補者は、30人を切ってる」


 光が、言葉を失う。


「……え…そんなに?」


「ええ。

 途中で帰った人、明確に噛み合ってない人、

 “正解待ち”が抜けなかった人」


 マリ姐は、はっきりと言った。


「DAY1は、“音楽で遊べるか”を見る日だった。

 そして、遊べない人は、ほぼ全員落ちた」


 遥が、そこで前に出る。


「だから、明日です」


 全員の視線が、遥に集まる。


「DAY2では、私が明確に指示を出します」


 光を見る。


「光くんが自由に転がす音楽を、

 “ひとつの形”として立ち上げられるかどうか」


 詩音が理解したように頷く。


「無秩序に一緒に遊べるかを見るのがDAY1。

 即応して、ひとつの音楽を作るのがDAY2、ですね」


「そう」


 遥は静かに続けた。


「光くんの“正解”を追いかけるんじゃなくて、

 私が指示さえ出せば光くんの音楽を、同時に作れるかどうか」


 雪が、小さく笑った。


「……それ、DAY1よりずっと難しそう」


 光は少し考えてから、ぽつりと言った。


「でもさ。できたら……めっちゃ楽しいよね」


 マリ姐が、ふっと笑う。


「ええ。

 だから、残ったのが30人以下なの」


 夜は、まだ終わらない。


 だが、選考の輪郭は、はっきりと見え始めていた。



 DAY1は、音楽で“遊べるか”を試す日だった。

 そして、その夜。


 残ったのは、100人から、30人にも満たない数。


 翌日のDAY2では、音楽はもう無秩序に放ってはおかれない。


 指示が出る。

 判断が求められる。

 “ひとつの光の音楽”を、その場で作れるかどうか。


 ――選考は、次の段階へ進む。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ