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二話

私はこれからどうなるのだろう。

誰もいない家に帰り、制服も脱がず布団にくるまり震える両手で自分の体を抱きすくめる。

カチカチと時計の音だけが響く部屋で私は自分にこれから降りかかるだろう恐ろしいことを考えずにはいられなかった。

夢野叶は花瓶で人の頭を殴った。殺した。人間はなんて柔いものなのかとあの場に似合わない冷静な私は思っていた。

パタリと倒れて動かなくなった彼女を見ても何も思えなかった。ただどろりと流れる血を見て私の血の気が引いた。血は苦手。赤色は気持ちが悪い。

彼女はたぶん死んだと思う。確認はしていないけど、あれだけ血が流れて、それに花瓶が頭部に沈んだのを見た。

彼女はいつも私をいじめてきた。私の目も鼻も口も、胸も足も手もすべて気に入らないというように漫画やドラマに出てくるようなことなら一通りされた。

靴に画びょうが仕込んであったり、トイレに入ったら水をかけられたり、私に聞こえるように悪口を言ったり、あることないこと言い降らしたり。

でも、我慢できなくはなかった。辛くないと言ったらウソになるけど、私には本があれば十分だった。友達なんていらなかった。

私の顔と体だけをみて口説いてくる男なんて論外だし、女の子はみんなそんな私を嫌う。私はなんにもしてないのに。

だから私は本の世界に逃げた。特に純文学が好きだ。

泉鏡花の妖しく美しい世界は私を癒してくれた。太宰治の弱くてずるい登場人物は私を認めてくれた。

宮沢賢治の寂しいのに優しい世界は私から現実を奪ってくれた。

それをあの女は破いた。国語の教科書には宮沢賢治の「よだかの星」が載っていたのに。

国語の教科書だけは鍵をかけてロッカーに入れておくか、それ以外は肌身離さず持っていた。

でもそれが仇となった。彼女は私が大事にしていることに気づいた。大事にしているものを壊されるのは一番耐え難い。

彼女は私から無理やり奪って目の前で破いて見せた。笑いながら「こんなものが大事なんて気持ち悪い」と笑った。

今までされたことや目の前でボロボロになった私の支えを見て堪え難い殺意が芽生えた。

私の大事なものを壊したんだからこの女は殺されても文句は言えない。その時の激情に捕らわれていた私にはそれが世界の常識であり彼女には当然の罰のように思えた。

だから殴った。教室の一番前の私の席に漫画のように置かれた、彼女が置いていった菊の花が一輪差してあった花瓶を手に取って

きゃらきゃらと笑っている彼女の頭に思いっきり振り下ろした。

その瞬間の彼女の顔、心底驚いた顔をしていた。散々躾をした飼い犬にでも噛まれたかのような顔。

どれだけ私を人間だと思っていなかったのか。私はなにをしても何も感じないとでも思っていたのか。

そうに違いない、そうじゃなきゃあんなことできない。彼女は自分が殺されるなんて全く思っていなかった。

なにをしても自分は傷つかないと。私は怒らないと、怒っても危害を加えてくるはずがないと思い込んでいた。

他人を傷つけていい人間は他人に傷つけられることも当たり前だと思える人間だけ。それこそ殺したら自分も殺される覚悟を持っている人間だけだ。

私は彼女に殺意を持った瞬間覚悟を決めた。殺されてもしょうがない。

それこそ、彼女を愛しているだろう彼女の父親や母親、兄弟なんかに殺意を向けられたら大人しく受け入れるつもりだ。

今私が恐怖に震えているのはそんなことにではない、殺されるのなんてどうでもいい。それが世界のルールだから。

でも、彼女を殺したせいで私が法律により罰せられるのは嫌だ。なんであんな女を殺したぐらいで無関係の人間から罰を受けなきゃいけないんだ。

ああイライラする。震えを通り越して再び殺意が芽生え始めた。どうせ捕まるんだったらもっとひどいことをしてやろう。

どうせなら彼女がプライドを持っていたお粗末な顔面をぐちゃぐちゃにしてきてやろう。


そうだそれがいい。今すぐ学校に行こう。


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