三話
コツコツコツと歩く音が聞こえた。
僕は汗水たらして作品を作り終えたところ。見つかる前にさっさととんずらしたい。
しかし足音は女の子のような軽さ。そして光も照らしていないみたいなので警備員ではなさそうだ。
となると犯人は現場に戻るってやつかな。
万が一のことを考えて後ろの扉でいつでも逃げれるようにスタンバイ。
ガラリと扉を開けて入ってきたのは大正解だ夢野叶。
「…え」
彼女は悲鳴を上げるでもなく恐怖もしていないようだ。
ああ、やっぱり僕の友達になったのかな。
僕はわくわくしながら彼女に声をかける。大事なのは第一印象だから笑顔で。
「ごめんね、君が作ったの勝手に加工しちゃった」
彼女はいきなり現れた僕を見てビクリと肩を震わせ、そのあと言葉に戸惑ったような顔をした。
なかなか頭の回転が速い子らしい。ますます仲良くなりたい。
「…私が作ったって、あなた見たの?」
「教室から真っ青な顔で逃げてく夢野さんならね・・・っと、その鋸しまって。僕は別に君を脅したり強請ったりするつもりはなよ。」
いつもと変わらない気弱そうな目をしたまま鋸をこちらに向ける夢野叶。可愛らしい女の子に物騒な凶器を持たせるなんて、一部の特殊な性癖を持った人間は大喜びしそうだ。
僕はヘラヘラと両手を顔の横に上げて降参のポーズ。彼女と戦う気なんて一ミリもない。
「じゃあなんのつもり?なんで警察に言わなかったの?」
「君と友達になりたかったから。あともう僕も共犯だよ。それに君はいじめられていたっていう被害者でもあるバレても罪は軽くなるんじゃない?
でも僕はほら、完全に愉快犯じゃん。下手したら檻の付いた病院だよ。これ、調子乗ってちょっとやりすぎちゃったから」
完成した作品を指さす。
元女の子だったそれは鳥のように宙に浮き両手を翼のように広げ、頭皮は半分ほど剥がれ脳みそが丸見え、両目はくり抜いて口の中に詰め込んだ。
服のボタンの間から腸がはみ出て床で蜷局を巻いて、右足は本来なら向かない方向に、左足はぐるりと一回転させたせいで千切れかけている。
ちなみに浮いているのは机と机にガムテープで手足を固定してあるからだ。左足はもげそうだから若干不安定ではあるけど。
タイトルは、そうだな、
「鷹にそっくりだわ。よだかの星の傲慢な鷹。無駄にかっこつけているくせに中身はぐちゃぐちゃの星になんて到底なれやしない惨めな鷹。」
彼女はアレを見つめて嗤った。
思わず僕も口元がつりあがる。夢野叶、やっぱり仲良くなれる。
「でもちょっとだけ直したいところがあるんだけどいいかな」
「製造元は君だからね。どうぞご自由に。」
夢野叶はもっていた鋸を女の子(だった何か)の顔に当ててゆっくりと引いては押して、引いては押して。
きっと見るに堪えない顔になったことだろう。
「あ、花瓶と教科書は回収しておいたから。どうせソレと会っていたこと誰も知らないんだろう?このまま逃げれば完全犯罪の完成だ」
ソレはずる賢い。いつも群れているのに一人でやったってことは誰にも言わずに彼女に会ったということだろう。
事が済んだあと誇らしげに周りに自慢するために。自尊心を満たすために殺されるなんて、まったくもって同情できない。
「あなた、なんで私と友達になりたかったの?」
気が済んだのか鋸をソレの顔から離す。血と油でてらてらと光っていた。
彼女の目は不安げに揺れていた。後悔のない瞳。きれいだなぁ。
「君が可哀想だから。僕も可哀想で、可哀想な人間は可哀想な者同士仲良くなれると思わない?僕は人間様とは友達になれないからずっと一人ぼっちで寂しかったんだ」
「…意味が分からない。でも私たちが人間様じゃないっていうのはいいね。気に入った。」
少しだけ笑う彼女を見て、僕も少しだけ笑った。
なんかいい感じではないか。これぞ友情って感じがする。僕はこの子と親友になれるだろうか。
「じゃあ、友達になってくれる?」
「私で良ければ。」
これが僕と彼女の友達初日だった。




