↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/53

第52話 目指せ理想の王女

【メイ視点】


 悔しい。


 悔しくて、悔しくてたまらなかった。


 カワリを捕まえ、王国へ連れ帰り、彼女に罪を償わせる。


 ついでに、不正入学に関わったニュギュウ伯爵にも責任を取らせる。


 さらに、その背後にいる者たちも突き止めて、わたしの魔法で全員まとめてボコボコにする。


 そうやって、すべて解決するつもりだったのだ。


 それなのに――。


「なによー、お兄様! わたしにも何か役割を与えてくれたっていいじゃない!」


 寮の自室へ戻ったわたしは、とうとう我慢できずに声を上げた。


 会議室では王女として耐えた。


 ジュリアに寮まで送ってもらう間も、誰にも悟られないよう平静を装った。


 だけど、自分の部屋に入ってしまえば、もう我慢する必要はない。


「1人の王女にすぎないってなによ! わたしだって王族なんだから!」


 そのとき、隣の使用人部屋へ続く扉が開いた。


「メイ様?」


 顔を覗かせたのはミルロだった。


 クラウスが警護を引き継いだため、一足先に寮へ戻っていたらしい。


 ミルロは部屋へ入ってくると、心配そうにわたしの顔を覗き込んだ。


「大丈夫でしたか? 会議の方はどうなったのですか?」


「聞いてよ、ミルロ!」


 わたしは椅子へ腰を下ろし、会議で起きたことを最初から話した。


 王女としての役割を果たすため、シリルへ指示して王国の高位貴族の子息令嬢を集めたこと。


 カワリの不正と、精霊を奪った疑いについて説明したこと。


 そこまではよかった。


 ところが途中から、お兄様に会議の主導権を握られてしまった。


 お兄様は集まった貴族たちへ次々と指示を出し、最後にはカワリを王国へ護送する役割まで、わたしから奪ってしまったのだ。


「わたしがカワリを王国まで連れていくって言ったのに、認めてくれなかったのよ! そのままニュギュウ伯爵を問い詰めて、背後にいるやつらも見つけ出して、全員ボコボコにして解決するつもりだったのに!」


「ふふっ……」


 ミルロが小さく吹き出した。


「なによ!」


 真剣に話しているのに笑われ、わたしは頬を膨らませる。


「いえ、申し訳ありません。なんでも力で解決しようとなさるところが、メイ様らしくていいと思いまして」


「でしょ!」


 褒められたのだと分かり、わたしは胸を張った。


「わたしなら、なんだって解決できるわ。誰にも負けない自信があるもの。それに、あなたという強い味方もいるしね。まあ、シリルもなかなか見込みがあるけど」


「ありがとうございます」


 強い味方と言われたのが嬉しかったのか、ミルロは穏やかに微笑んだ。


     ◇


【ミルロ視点】


 会議から戻ったメイ様は落ち込んでいるように見えた。


 けれど、話しているうちに、いつもの調子を取り戻していく。


 その姿に、内心でほっとしていた。


 やっぱりメイ様は、落ち込んだ顔よりも、自信満々に笑っている顔の方が似合っている。


 だけど、これだけは言っておかなければならない。


「メイ様。この事件は、おそらくメイ様がお考えになっているよりも複雑です」


「複雑?」


「はい。ニュギュウ伯爵は、きっとご自身につながる証拠など残していません。カワリが捕まったと知れば、すべてを彼女1人の犯行として切り捨てると思います」


「自分の娘なのに?」


「可哀想だとは思います。ですが、ダンスパーティーの際、彼女から見せられた書状を読む限り、伯爵が彼女へ愛情を持っているとは思えませんでした」


 あの書状には、娘を気遣う言葉など1つもなかった。


 カワリを心配する言葉も、学園での生活を尋ねる言葉もない。


 書かれていたのは、果たすべき役割と命令だけだった。


「ニュギュウ伯爵にとって、カワリは娘ではなく、自分の命令どおりに動く駒だったのでしょう。そして、これほどの失態を犯した駒には、もう利用価値がないと考えるはずです」


「そんな……」


 メイ様の表情が曇る。


 カワリがしたことは許されない。


 けれど、彼女もまた、誰かに利用されていたのかもしれない。


 そして、この事件の背後には、ニュギュウ伯爵よりもはるかに大きな存在がいる。


 わたしはゲームのシナリオを思い出していた。


 わたしとメイ様が行動を変えた影響なのか、すでに物語はゲームとはまったく異なるものになっている。


 本来、王国側にいるはずだったヒロインのアリアは、今では敵国であるキルラルド帝国側についている。


 しかも、ゲームでは敵側の主要人物だったジークの婚約者だ。


 アリアとの出会いによって、ジークが改心している可能性はある。今の彼は、ゲームとは違う考えを持っているのかもしれない。


 けれど、その上にいる皇帝は別だ。


 帝国が動いていることだけは間違いない。


 ゲームの中で帝国は、ウィシュタリア王国とワイマール共和国を打ち倒し、この大陸を統一しようとしていた。


 その切り札として精霊魔法を研究し、暴走精霊や、さらにはそれを超える存在まで作り出していた。


 カワリが他人の精霊を奪った方法も、おそらく帝国の技術に関係している。


 ただし、そんな技術はゲームには存在しなかった。


 もしかすると、本来は王国にいるはずだったアリアが帝国側へ渡ったことで、彼女の力が研究へ利用され、ゲームにはなかった新たな技術が生み出されたのかもしれない。


 そして、ゲームの中のカトレアも、最初から帝国の陰謀に加担していたわけではなかった。


 断罪されて王国での居場所を失い、ほかに行く場所がなかったから、帝国へ身を寄せただけだ。


 それでも最後には、帝国に利用された末に命を落とす。


 ニュギュウ伯爵家は、本来ならわたしが迎え入れられるはずだった家でもある。


 すでにシナリオが変わっている以上、ゲームの知識だけで判断することはできない。


 それでも、ニュギュウ伯爵家が最初から帝国の計画へ深く関与していたとは考えにくかった。


 ニュギュウ伯爵が、カワリの不正入学や成績の入れ替えに関与していることは間違いない。


 けれど、精霊を奪う技術や、帝国の計画まで知っていた可能性は低い。


 本当に重要な秘密を知っているのなら、カワリに自分へ不利となる書状を渡すだろうか。


 問い詰められただけで不用意な発言をするようなカワリに、危険な情報を与えるとも思えない。


 ニュギュウ伯爵は、自分の都合で不正へ手を染め、その隙を帝国に利用された側なのかもしれない。


 もちろん、これもわたしの推測にすぎない。


 ゲームのことを話せない以上、すべてをメイ様へ伝えることもできなかった。


「カワリを問い詰めれば、ニュギュウ伯爵の不正については分かるかもしれません。ですが、精霊を奪った技術は、さらに別の場所から与えられた可能性があります」


「別の場所?」


「帝国が関与している可能性も否定できません。もちろん、証拠はありませんので、今の段階で断言することはできませんが」


「だったら、帝国へ行って調べれば――」


「メイ様」


 先回りして名前を呼ぶと、メイ様は不満そうに口を閉じた。


「証拠もないまま王女であるメイ様が帝国を疑えば、それだけで国同士の問題になります。ですから、まずは王国として調査しなければなりません」


「でも、それをするのはお兄様でしょう? わたしには何もさせてくれなかったもの」


「そんなことはありません」


 わたしは首を横に振った。


「カワリの不正を明らかにし、王国の高位貴族を集め、第1王子であるゼノン様を動かした。王国としてこの事件へ対処するきっかけを作ったのは、メイ様です」


「わたしが……?」


「はい。メイ様が動かなければ、カワリの精霊について誰も気づかなかったかもしれません。王国が何も知らないまま、さらに大きな事件が起きていた可能性もあります」


 メイ様の表情が、少しだけ明るくなる。


「メイ様の功績は、とても大きいと思います。王女としての務めを、立派に果たされました」


「そうかな?」


 メイ様は嬉しそうに頬を緩めた。


 けれど、その笑顔はすぐに曇ってしまう。


「でも、お兄様は第1王子として、みんなに指示を出していた。わたしには、あんなことできないもの……」


 再び肩を落とすメイ様を見て、わたしは考えた。


「ゼノン様とメイ様には、立場の違いがあります。ですが、ゼノン様にはメイ様より1年長く、王族として学び、経験を積んできた時間もあります」


「1年?」


「はい。メイ様は、1年前のご自分と比べて、どう思われますか?」


 メイ様が少し考える。


「メイ様はこの1年で青龍に認められ、新しい技も身につけました。学園へ入ってからも、授業や課外活動でたくさんの実戦経験を積んでいます。以前よりも、ずっと強くなったのではありませんか?」


「まあ、そうね。わたしは強くなったと思う」


「ですから、今すぐゼノン様と同じように振る舞えなくても、不思議ではありません。メイ様は、まだその経験を積み始めたばかりなのです」


 わたしはメイ様をまっすぐ見つめた。


「今のご自分に満足できないのであれば、ゼノン様と同じ年齢になったとき、能力で追いつけばいいのです」


「追いつく……」


「例えば、夏休みに王国へ戻った際には、会議への出席や外交の視察など、国政に関わる経験を積ませてほしいと国王陛下へお願いしてみてはいかがでしょうか?」


 メイ様は黙って、わたしの話を聞いている。


「ゼノン様も、メイ様だけをわざと役割から外したわけではないと思います。現にシリルさんやジュリアさんたち1年生にも、重要な役割は与えられませんでした。経験があり、勝手の分かっている上級生へ任せたのでしょう」


「それは……そうかもしれないけど」


「それに、カワリの護送中に襲撃を受ける可能性もあります」


 カワリの背後に帝国がいるのなら、王国まで何事もなく帰れるとは限らない。


「メイ様をそんな危険な目に遭わせたくないという、ゼノン様なりの愛情もあったのではないでしょうか」


「お兄様が、わたしを……?」


 メイ様は目を瞬かせたあと、嬉しそうに頬を緩めた。


 どうやら、ゼノン様に守られていたと考えるのは嫌ではないらしい。


 しかし、しばらくすると真剣な表情になり、わたしを見つめた。


「あと1年あれば、わたしはお兄様みたいになれるかな?」


「はい。断言できます」


 わたしは迷わず答えた。


「メイ様は努力家です。1度決めたことは、とことんやり抜きます。もしかすると、ゼノン様に並ぶどころか、追い越しているかもしれません」


「お兄様を超える……?」


「はい。戦いの強さも大切ですが、これからは国政や王女としての務めについても学び、経験を積んでいきましょう」


 それから、わたしは少しだけ声を和らげた。


「ですが、それよりも、今のわたしたちは学生です。まずは学生の本分である学業で結果を出せばよろしいのではないでしょうか?」


「学業で?」


「この魔法学園で、ゼノン様よりもよい成績を収めるのです。そうすれば、国王陛下もきっとメイ様の成長を認めてくださいます」


「わたしが、お兄様を……」


 メイ様は俯き、しばらく考え込んだ。


 やがて顔を上げる。


 その瞳には、先ほどまでの迷いも悔しさも残っていなかった。


「分かった! わたし、頑張ってみる!」


 決意を込めた声が、部屋に響く。


「まずは学業で結果を出す。そして、いつか王国中の人たちに、ウィシュタリア王国にメイ王女ありと言わせてみせるわ!」


「はい。メイ様なら、きっとできます」


「よし、頑張るわよ!」


 メイ様は勢いよく立ち上がった。


「ああ、こうしてはいられない! ミルロ、武器を持ちなさい!」


「……武器ですか?」


「まずは訓練場を借りて、模擬戦よ! シリル、テラ、リリスも誘いましょう!」


「わ、分かりました。準備します」


 学業で結果を出すという話をしていたはずなのだけれど。


 それでも、落ち込んでいたメイ様が再び前を向いてくれたのなら、今はこれでいいのかもしれない。


 嬉しそうに模擬戦の準備を始めるメイ様の後ろ姿を、わたしはしばらく微笑ましく見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。