日常
日常から始まる非日常。
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あれから、更に数ヶ月が過ぎた。
季節は巡り、相変わらず討伐資料や指図書に文句を言いながらも、『チャーチグリム』号は変わらない日々を取り戻していた。
そんな中、ふとローズマリーが新聞を読みながら呟いた。
「クミンの誕生日が近いな……」
「誕生日?」
リンデンがカレンダーに目を向ける。「いつ?」と問う彼に、ローズマリーは「今週末だ」と答えた。
「実は保護した日を『誕生日』として申請してたんだ。つまり、クミンがこの船に来て一年になる」
「早いモンだな。あれから一年になるのか」
夕飯の準備をしながら、ユズリハがしみじみと口を開く。
「一年の間に色々あり過ぎて、時間が経つのが早く感じるなぁ」
「確かに怒涛の一年だったが……人の一生などあっという間なんだから、一つ一つを喜び、祝福出来るのは素晴らしい事だ」
そうだろ? と問う船長に、ユズリハも苦笑を浮かべて「その通りだな」と頷いた。
「どこでパーティーするの?」
「一年に一度の祝い事なんだから、出前でも外食でも構わないが……」
どうする?
ユズリハが問えば、彼女は顎に手を当てて机を見つめながら唸った。
「……そういえば、クミンは『市場』に出た事無いんじゃないか?」
「っていうか、クミンが来てから行ってないね。俺達が買い出しに出るぐらいで」
「店は? 予約するなら、明日の買い出し途中で店に寄れるぞ」
そうだなぁ、とローズマリーは腕を組む。
その時、整備室の備品管理を一緒に行っていたフェンネルとクミンが戻ってくる。
「ユズリハ! 備品の位置と種類はもう完璧だ。次からは一人で出来るぞ!」
嬉しそうに走ってくる彼女の頭を撫で、「お疲れ様でした」と彼は微笑んだ。
「フェンネルに礼は言いましたか?」
「んー、これから言う所だ!」
「では忘れない内に言っておきましょう。手を洗ってきて下さい」
先に手を洗っているフェンネルの後ろに並び、クミンは「教えてくれてありがとうな」とその後ろ姿に小声で礼を言う。
じとっとこちらを見上げてくる顔を睨んだ彼は、タオルで手を拭くと小さな頭を掴んで軽く押した。
「言われて気付いてんじゃねぇよアホ」
「うふふ、すまない」
「ふん」
テーブルが料理で賑わうダイニングの椅子にフェンネルが腰掛ければ、向かいに座るリンデンも「お疲れ」と笑う。しかし、そんな彼にフェンネルは小さく「おう」と答えただけで、伏し目がちの顔を上げる事はしなかった。
その様子を見ていたローズマリーが、軽く溜め息を吐いた。
「じゃあ、今週末は皆で『市場』へ食べ歩きに出るか」
「あ? 今週末?」
訝しげに視線を上げたフェンネルに、ローズマリーが「何か予定があったのか?」と目を丸くする。
「俺じゃねぇ。ユズさんが修理に出してたフックショットの受取日だっただろ。孤児院の帰りにリンデン連れて整備店に寄っていくって」
「あっ!」
「『あっ』じゃねぇよ、なんで壊した本人が覚えてねぇんだアホが」
「しかし、修理にしては随分時間が掛かったんだなぁ」
「あのフックショットは、ユズさんの体重に合わせてワイヤーを調整してるから替えが効かない。ワイヤーのみ再利用で部品全交換となったら時間掛かるのは当然だろ」
「ネジ一本まで特注品だからなぁ」
「俺は来週に伸ばそうと思ってたんだが、いいのか?」
手を洗い終えたクミンと共にダイニングへとやってきたユズリハは、椅子を引いてクミンを座らせ、自分はキッチンの椅子を持ってきて腰掛ける。
「早めにここを出て整備店に寄れば、受取ぐらいは早いでしょ」
「だが、受取日に新しい試作品の寸法取りを頼まれてるんだ。リンデンみたいに多用する奴には、『今の型じゃ駄目だ』って言われててな」
「成る程、同感ですな」
「寸法取り忘れてたぁー」
「面倒だよぉ」と頭を抱えるリンデンに白い目を向けながら、クミンが「市場に行くのか?」と首を傾げる。
「貴女の誕生日祝いだそうですよ」
「誕生日……私に誕生日などあるのか?」
「戸籍上では明後日ですね」
「知らなかった……じゃあ、私もこの前のリンデンみたいに、皆に何か『お願い事』を一つ叶えてもらえるのかっ?」
輝かしい顔でユズリハを見上げるクミンだったが、何となく嫌な予感を覚えたユズリハは「市場で欲しいものを選んで下さればプレゼントしますよ」と先手を打った。
「ローズマリー、寸法取り自体は三十分も掛からないだろうから、最初は別行動で後で合流するか?」
「そうだな。孤児院の帰りだと忙しいから、フェンネルが言ったように早めに船を出れば夕飯には合流できるだろう」
皆が席に着き、手を合わせて頭を下げる。
いただきます、というローズマリーの声に、皆も揃えて声を出した。
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