夢
それは開演の終わりか、終焉の始まりか。
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通信を切り、暗くなったモニターを離れたバーベインは、部屋を出て地下室への扉を開く。
石造りの階段が靴音を大きく響かせ、暗闇に包まれた部屋に降りる。階段脇の壁に一点だけ光る赤い光に触れた時、室内が瞬く間に明るく照らされていった。
水の溜まった柱のようなものが、二十台近くはあるだろうか。二メートル以上ある『カプセル』は全て壁際へ斜めに立て掛けられ、広い室内の中を並べられている。
黄色く照らされるそのガラスの中を覗くと、そこには『人体』が裸で横たわっていた。
初老の男性を覗き込んだ彼は、小さく溜め息を吐く。
「……値に変化なし、か。もう『駄目』だな」
数値を確認し、液晶パネル横に並ぶボタンを二つ選んで同時に押す。すると、ガラス部分が金属カバーで覆われ、モーター音が部屋全体に響き渡った。
小刻みに振動するポッドの隣を見れば、そこには背が高く体格の良い『少年』が入っている。
ポッドに貼り付けられたアルミプレートには、『T・タングステン』と銘が刻まれていた。
「……値に変化なし……『呼び戻し』に初めて反応してくれたのは君だったね。八年ほど君を観察したが……これ以上、期待は出来ないかな」
若い『検体』は貴重だったが、君は『古く』なってしまった。
先程のポッドと同じボタンを押す。全く同じ様に動作し始めた隣で、『終了』を知らせるブザーが鳴ったポッドの金属カバーが開く。
その中は真っ赤な液体で濡れ、先程まで入っていた『人体』の姿は消え失せていた。
液体が排出され、ガラスの中を洗浄液が綺麗に洗い流してゆく。
「……さて」
数歩、奥へと進む。あるポッドの前に立ち止まったバーベインは、新しく手に入れた『検体』の銘と数値を確認して口角を上げた。
若く美しい女性と、己とそれ程歳の変わらない中年の男性。オリヴェール族の二人を見比べた彼は、ポッドの横に掛けてあったバインダーボードを手に取った。
M・トパーズ、D・サルファー。血縁関係のある二人の数値に差が出始めている事に、思わず感心の声を漏らす。
「……素晴らしい。『息子』の方はもう『コンタクト』が始まっているじゃないか」
女性の方も若干の数値変化が見られるが、男性ほどではない。バインダーの書類には『未拓』と書かれ、男性が『拓き』を終えていない事が記されている。
人種、ではないのか。数十年に渡って研究を続けていたバーベインは、口角を上げて目を細めた。
「……ディル・サルファー……是非、君の『父親』を知りたいものだ」
その時、人の気配を感じて階段の方へと視線を向ける。スリッパのような足音が響き、ひょっこりと覗いた愛らしい顔がこちらを呼んだ。
「バーベイン様ぁ、『主』から暗号メールで連絡来てますけど、どうしますー?」
「折り返し連絡する、と伝えてくれ。『記録』と『片付け』が終わったらすぐ行く」
「はーい」
「アニス」
「はい、バーベイン様」
一度は引っ込んだ顔が、再びこちらを覗く。思わず笑みを零し、「シャルドネのボトルを冷やしておいてくれ」と告げた。
「ゼロプルーフでも構わないかい?」
「勿論です! でも、どうして? すごく嬉しそう」
「……先にシャワーを浴びておいで、アニス」
「!!」
はい、只今!
顔を真っ赤に染めたアニスが階段を駆け上がっていく。微笑ましくその姿を眺めていたバーベインはバインダーを元に戻し、空になった二つのポッドに近付くと『消毒』と『乾燥』のスイッチを入れた。
振り向けば、向かい側にも沢山のポッドが並んでいる。その幾つかには、成人女性や幼い少女の入ったポッドもある。
「……必ず」
いつか、必ず。
そう呟き、部屋を出て階段脇の緑色に光るライトに触る。部屋は再び暗闇に包まれ、その闇を暫く見つめていた彼は、踵を返して階段を上がり始めた。
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