『任務完了』
『演者達』の努力が実を結ぶ時。
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「……二人が上がって来てるぞ」
「……接触は禁じてあるんだけれど」
腕を組み、ユズリハ達の元へと階段を上がる二人を見てマルベリーが眉根を寄せる。
フェンネルの作戦を無線でずっと聞いていたユズリハも、彼の少々捨て身な作戦に顔を顰めた。
「……話の邪魔をしに来たなら、店を出て行ったらどうだ」
唸るような低い声で、相手の笑みに応える。そんなユズリハに、ディルの笑みも見下すような表情に変わる。
「やぁやぁ、ダイオプテーズ君。君に提案があってここまで来たんだよ」
「……提案?」
「俺が『彼女』を買う。弟の倍出そう」
「!」
ユズリハだけでなく、男の腕に引っ付いていたフェンネルですら目を見開いて男を見ている。
しかし、最初に口を開いたのはマルベリーだった。
「ちょっと、フザケた事言わないで! そんな小鼠に六億も出す気なのっ?」
「金を出すだけのアンタと違って、彼女は自分で稼いでこられる。アンタの金に手を付けたりはしねぇから、俺の『金庫』を開ける許可だけ出して貰いたくてな」
「自分の『金庫』なのに勝手に開けられないのか?」
「鍵を持ってんのはそこのレディだからな」
ディルが指し示す先へ、ユズリハが振り向く。扇で口元を隠しながらも、その目は不機嫌そうに『弟』を睨んでいる。
否、その視線はフェンネルに向けられている。
「……許可は出せないわ。その娘が自分で稼いで出したらどうなの」
「そう固い事言うなって、マルベリー。アンタが思う程、マティアスは下等種族じゃない」
「どうかしら? すぐに絆されて敵を逃がした末に、『自分は義を通しただけ』などとほざく様な種族が信じられる? その所為で大勢の同胞が死んだのよ」
「今は戦後五十年だぜ、太古の話と一緒にすんじゃねーよ『バァさん』」
「何ですって……首を切られたいのっ?」
「『俺の事』が世間にバレて困るのは『そっち』だろうが。俺を切っても構わねぇが、その時は道連れだって契約書にも書いたのを忘れたのか?」
「……っ」
何やら不穏な空気が流れる二人に、間に居たユズリハが「まぁ待て」と制止に入った。
「ディル・サルファー、アンタがどれだけ凄腕の武器商人なのかは皆が知ってる事だ。だが、六億はあまりにも金額がデカい。悩む彼女の心も分かってやれよ」
「偉そうに上から喋ってくれるじゃないか、ユズリハ・ダイオプテーズ。手前の女も禄に『満足』させられねぇ玉無しがよ」
「……ソイツから何を聞いたのかは知らんが……」
「おっと、図星を突かれて反論か? 金を出すのは『こっち』だぜ」
ユズリハが睨み上げ、ディルが不敵に見下ろす。その時、遂にマルベリーが扇を畳んだ。
「もう止めなさい」
「……マルベリー殿」
「で?」
「……分かったわ。出金の許可は出してあげる」
当然、と言いつつもやはり嬉しそうなディルは、フェンネルに掌を見せて彼と一度だけ叩き合わせる。その時彼はディルの耳元に何かを囁くと、男は「オッケーオッケー」とニヤつきながら頷いた。
「マルベリー、ついでだから口頭報告だ。弾薬の無制限補充、スカイライド二十機の買付、ステルスドローンの開発費用と実験場の提供も追加だ。異論無いだろ?」
「……好きになさい……」
「毎度どーも。俺からは以上だ」
笑みの止まらないディルは、去り際にユズリハへ「最後のはアンタへの『手切れ金』だと」と囁いていく。彼の腕に引っ付いていくフェンネルが手の裏を見せて小指と薬指を立てて舌を出す。
笑いながら階段を降りていく二人を、ユズリハは苦虫を噛み潰した様な表情で後ろ姿を見つめていた。
「あの阿呆は……」
先程のハンドサインは『任務完了』の合図だ。
明らかに挑発にしか見えなかった彼の仕草に、マルベリーも苛立ったように舌を打った。
「……だからマティアス族は嫌いなのよ」
不機嫌極まりない彼女に、ユズリハは「アイツが特別『変』なだけだ」と思わず素で答えた。
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