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開幕

危険と隣り合わせのショータイム。

※



 当日の朝。

 ソファに向かい合って座ったまま激しく落ち込む『主役』と『脇』の二人に、船長が腰に手を置き「不安しか無い」と眉を顰めた。


「よりにもよって、ウチの『自己肯定感低いーズ』に『自信持って誘惑してこい』という日が来るとは……本当に大丈夫なのか?」


 彼女の『秀悦なネーミングセンス』にクミンが眉を下げ、リンデンは吹き出しそうになるのを耐えている。


「やいリンデン、貴様試着の時と全然態度が違うではないか」

「だって俺が二人を護れば良いだけなら、何にも心配する事無いもん。アニスちゃんにも『お墨付き』もらったし」

「何だ、自慢か? 共に行けない私への当てつけか?」

「クミンだって、今度の潜入任務とかは参加させられるかも知れないよ? まぁ子役が必要な場合に限るけどさ」

「くっ……今は耐え時という事か。『焦るな』とは言われたが……何とももどかしいぞ」

「連れてって貰えるだけ良いじゃん。俺なんか初回お留守番だったよ」

「……それは嫌だな」


 二人の会話を微笑ましく眺めていたローズマリーが時計を見る。

 昨夜九時から船を出ていき、先に店へカメラとマイクを仕掛けに行ったアニスからの連絡を待っている状況だが、もうすぐ八時を回ろうとしている事に少々気が焦る。

 六時には完了する、と聞いていたのだが……。


「広いのだろうか……彼も大変だなぁ」


 コントロールパネルに目を向ければ、暗号メールの受信を知らせるランプが点滅していた。


「おっ! 何か来てるぞ」

「!」


 皆がローズマリーを視線で追う。彼女は直ぐ様パネル前に腰掛け、モニターを見ながらキーボードを叩く。

 表示されたメッセージに、いよいよ、と掌を強く打った。


「設置完了の知らせだ。テストも上手くいったらしい、今日夕方の五時半には船を出るぞ」

「何で行くの?」

「スカイライドで私の宿舎に寄る。アニスが荷物を運び入れてくれてるから、そこで準備してから、バーベイン殿が用意してくれた馬車で向かう」

「マリーさんは?」

「店の裏にある従業員用駐車場に、アニスが小型バスと機材を用意してくれているんだ。皆が出発する三十分前にはクミンを連れて車に向かう。そこで見てるからな」

「わぁー緊張しちゃう」

「クミンも頼むぞ。一緒に戦ってくれ」

「……分かった。ローズマリーに近付く者みな排除してくれるわ」

「殺しちゃダメだからなぁ?」


 意気込むメンバー達を見ながら、天井を仰いで顔を拭ったユズリハは深く長い溜め息を吐く。


「……さて、腹を括るか。終わってしまえば『笑い話』だ」

「その『笑い話』になるのが嫌なんですよ。俺を知っている人間一人ずつ殴って記憶を消していきたい」

「気持ちは分かるが、これも経験……嫌な経験だが、仕方無い。後で司令に文句言ってやる」

「……『訴える』って脅せば給料上げてくれるかも」

「そりゃ良い、乗った」

「はー……やりますか」


 立ち上がり、船長に手を上げた二人を見たローズマリーも、強く頷き返した。



※



 時間が立つのは、あっという間だ。

 予定通りの時刻に船を立ち、軍の将校に与えられる出張用の宿舎を利用して準備を整える。

 其々にシャツの袖を通し、ネクタイを締め、ボタンを掛けて髪を解く。ユズリハがジャケットを羽織り、リンデンが黒いベストを着込んだ頃、髪を結い終わったフェンネルが鏡台から腰を上げた。


「ローズ、一通り終わったぞ」

《音声も良好、カメラもちゃんと映ってる。皆似合ってるじゃないか》

「嘘吐くなクソババァ、こちとら誰とも視線が合わねぇのに」

《お前が綺麗だからだろ》

「誰が信じるか、絆されねぇからな俺は」


 呆れた様子で首を振る彼の横で、顔を見合わせた二人は思わず苦笑した。


「だって、お化粧だけでこんなに美人さんになるなんて思わなかったんだもん……見たら仕事になんないよ」

「慣れろ。慣れれば何とかなる」

「ユズさんだって慣れてないじゃん!」

「……『知り合い』に似てるんだよ……」


 恥ずかしさから目を逸らすリンデンとは違い、何処か冷や汗さえ浮かべているような表情にリンデンも片眉を上げて「誰?」と問う。

 しかし、同時にユズリハは「そろそろ時間だぞ」と誤魔化した。


「お前は『前乗り』なんだろ? 早く行かないと『遅刻』するぞ」

「分かった。皆も気を付けてね」

「リンデン、マイク入れたか?」

「……うわぁ入ってなかった。ありがとうフェンネル」


 シャツの上からユズリハのパーカーを羽織り、フードを被ってローズマリーの宿舎を出る。

 するとリンデンの声が、耳元の小型イヤホンに「馬車が来ている」と入ってきた。


「じゃ、俺達も出るか」

「パーティーは午後七時開場、時間も丁度いいですね」

「エスコートは?」


 ユズリハが手を差し出せば、フェンネルは「ふざけんで下さい」と眉間に皺を寄せた。


「勘弁して下さいよ、只でさえ気分悪いのに」

「はは、そりゃ悪かった」

《それじゃ頼んだぞ二人共。無茶だけはしてくれるなよ》

「了解」


 声を揃えて返事を返した二人も、宿舎を出てすぐ左に停めてあった馬車に乗り込む。

 今夜、彼等の『任務(ショー)』が開幕する。



※

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