脚本は
組み上がってゆく、作戦と思惑。
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「今回の大まかな『筋』が組めた。資料は船外持ち出し禁止、アニスもこっちの任務満了までは外出禁止だ。司令に伝達事項があるなら、この船から暗号発信で頼む」
「僕のリストベルは?」
「電波が本部を介してる可能性があるから、今回は使うなよ」
「了解ー。憧れのモニター呑みだぁ……!」
全員がソファに腰掛け、フェンネルがホワイトボードを出してきて資料をマグネットで貼っていく。
「さぁ、今から俺が責任者だ。俺の命令は絶対、いいな野郎共」
皆が、一斉に「了解」と声を揃えた。
最終目標はハイマート軍三佐、マルベリー・トパーズの現行犯逮捕だ。現時点では証拠が乏しく、今回は証拠集めが主な任務となる。
舞台に選んだのは彼女がよく出入りする高級クラブで、一週間後、そこで行われるダンスパーティーでの『取引現場』を映像、音声として押さえる事。そのために、こちらも彼女が疑う余地の無いほどに『取引相手』として完成させる必要がある。
「役の配分は、ユズさんが『主役』、俺が『脇』、リンデンが『背景』だ。今回、俺やユズさんが動けない分、リンデンがかなり忙しい事になるが……」
「裏方なら全然大丈夫」
両手でピースを構えた彼に頷き返し、「続けるぞ」とフェンネルは皆に資料を配った。
「……本気で俺を『メイン』に据えるのか?」
「他に誰が居るってんですか。このメンツで、アンタ以外にこの女に近付ける人間が居ないのも分かるでしょ」
「でもなぁ……」
「相手はオリヴェールでも、見た目四十前後の年上美女ですよ。良かったですね」
「それ以上文句を言うならバラすぞ」という脅しとも取れる発言。不安げなクミンと興味津々なアニスの質問攻めを、ユズリハは両手で顔を覆って耐える。
「フェンネル、クミンとマリーさんは?」
「ローズは『監督』、チビは『助手』だ。俺達が撮ってくる映像と音声の全記録を保存、複製、司令への送信も全部やってもらう。チビはローズの護衛を任せる」
「はぁ!? 私だってユズリハと一緒に参加する!」
立ち上がったクミンをリンデンが「待ちなって」と静止するが、フェンネルは彼女を睨んで「命令は絶対だっつったぜ」と低く告げる。
「データ保存と記録は作業中が一番無防備なんだぞ。一番『殺傷能力』が高いテメェをわざわざ護衛に付かせる意味を考えろ」
「でも、直接『敵陣』に入るのはユズリハではないか! 彼にも護衛は必要だろう!」
「クミン、ちょっといいか?」
フェンネルが舌を打った時、ローズマリーがクミンの隣に並んで小さな肩に手を置く。
「私は船長のくせに、実はこの中で誰よりも弱い。誰よりも強いクミンが一緒に居てくれたら、私も心強いんだけどなぁ」
「…そうだとしても……ユズリハが危険ではないか……!」
「ローズが『落とされた』ら俺達全員が死ぬ事になる。その責任がテメェみたいなチビ一人に掛かってんだ、嫌なら船に残ってろ」
「私は一緒にいて欲しいぞ。『独り』は不安だろう?」
クミンは頬を膨らませ、それでも床を見つめたまま小さく頷く。
「……ローズマリーに近付く人間を、皆殺しにすればいいんだな」
「ふん。よく分かってんじゃねぇか」
「いやいや分かってたまるか、そんな指示。クミン、殺してしまうのは良くない。敵は『生かして捕獲しろ』って命令が出てるんだ、『見敵必殺』は駄目だからな?」
慌てて説得するクミンを傍から見ていたアニスが、リンデンと先程まで茶化していたユズリハに耳打ちする。
「……あの子は、ユズリハ氏を『赤ちゃん』か何かかと思ってんの?」
「俺は分かるなー。フェンネルに同じ事やって首折られかけたもん」
「あらーリンちゃんらしいねー」
「……彼女はまだ、『信頼』がどんなものか知らないだけだ。そればかりは経験だからな」
ユズリハが、テーブルの上に配られたグラスから、冷たい麦茶を口に含む。
アニスは耳に手を翳して「はぁ?」とわざとらしく聞き返す。
「え? 何? 自己紹介?」
「えっ? 俺はユズさんの事、信頼しまくってるよっ?」
「いや、違……」
「自分を疫病神扱いして仲間に一線引いてる臆病な人に言われても説得力無いよねー」
「でもユズさんは皆の事嫌ってる訳じゃない。むしろ大好きだよ」
ね? と首を傾げるリンデンに、ユズリハは再び顔を覆って俯く。
「大好きな仲間を何から守ってるつもりなんだか。不器用な男は面倒よねー」
「ユズさんは器用だし何でも出来るよ?」
「もう勘弁してくれ……」
少なからず、彼に負い目を感じているユズリハはアニスに強く出られない。
実はその事すらも知っているアニスは、顔を合わせる度にユズリハを『斜め後ろ』から攻撃していた。
その『引け目』が僕の人生を見下して否定してるって、気付かないもんかなぁ。
ユズリハに感謝すら抱いているアニスは、意地でも言ってやるもんか、と俯くユズリハに舌を出した。
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