助っ人
今回は『猫』の手も借りねば難しい。
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「やっほ――――っ! アニスちゃんだよー!」
「アニスちゃ――ん!」
若い女の子宜しく抱き合って背を叩き、再会を喜ぶ二人ははしゃぎながらその場で飛び跳ねる。
フェンネルが連絡を送った翌日、船を訪れたのはバーベインの側近であり秘書でもあるアニス・フローライトだった。
「久し振りー! 元気そうで良かったよー」
「アニスちゃん、すっかり可愛くなったねぇ。その赤いリボン、よく似合ってるよ」
「マジで!? 超嬉しい、ありがとー! バーベイン様が任務のご褒美で下さった物でね、パット見じゃ分かんないけど赤の中に更に深い紅の糸が織り込まれてて光の加減で見える模様が変わって……」
「そこまでだ、アニス」
リンデンに案内され、リビングに入ってきた所でフェンネルに呼び止められる。
彼の後ろにはクミンが顔を覗かせ、警戒するようにアニスを見上げている。
「かわいい――!! この子がクミンちゃん!?」
「な……何だ、誰だ貴様」
「アニス、まずは話を聞け。こっちも司令の条件飲んで呼んでんだ、ちゃんと仕事はしてもらわねぇとチクるぜ」
「もーイケズー」
「アニスちゃん、紅茶淹れたからダイニングにどうぞ。ユズさんがクッキー焼いてくれてるんだよ」
「おい、リンデン」
「ありがと、リンちゃん! いっただっきまーす!」
軽快なステップを踏みながらダイニングへと移動するアニスに、フェンネルに引っ付いたまま離れないクミンは、戸惑いを隠せないまま眉間に皺を寄せる。
その視線の先には、頬に手を当て「やっば、これ美味しい!」と叫ぶアニスの姿がある。
「何だ……この気持ち悪さは、何なんだ……?」
「服掴むんじゃねぇよチビ。いいか、世の中にはこういう『生き物』もいるんだって事、しっかり憶えとけよ」
「き、危険は無いのか……?」
「一応はな。まぁ、『着せ替え人形』は覚悟しとけよ」
「何……だと……?」
その時、エンジンルームで点検を行っていたユズリハが戻ってくる。自分の姿を見た瞬間に少しだけ視線を泳がせるクセを知っているアニスは、キッチンへと入っていくユズリハに「ねぇ」と声を掛け笑みを見せた。
「クッキー食べたよ。美味しかったぁ」
「……そりゃどうも」
「つれないなぁ。でも元気そうで良かったよ、『お兄ちゃん』」
「……お前な」
二人の会話に、クッキーを頬張るリンデンが目を丸くする。
「『お兄ちゃん』って? ユズさんが、アニスちゃんの?」
「そうだよ。ラズベリー隊の先輩は皆『お兄ちゃん』なの。彼は僕の先輩だからね」
「もう良いだろ、その話は……」
「だーめ。時々、バーベイン様を独り占めしてモニター呑みしてるの知ってるんだからね。辞めてくれるなら僕も止めてあげる」
「自分の『飼い主』に言えよ。報告の度に飲まされるのも……」
「あーそんな事言っちゃうんだー。バーベイン様傷付くだろうなー。折角手伝いに来てあげたのにー」
「アニス、いい加減にしやがれ」
引っ付いたままのクミンを引き摺って、フェンネルがダイニングに歩み寄った。
「テメェを呼んだのは俺だし、今回テメェが指導すんのはリンデンだ。それでもユズさんに突っ掛かるなら条件反故にして作戦に参加させるぞ」
バーベインがアニスを派遣させる絶対条件、それは『彼を今回の捜査に決して参加させない事』というものだった。
本人も当然それを知っているため、唇を尖らせて「だって」と言い訳を呟く。
「バーベイン様、僕と話してる時より楽しそうなんだもん……」
「アニスちゃんは司令が大好きなんだねぇ」
「はぁー……会いたい……!」
「じゃあ帰ってくれよ……」
音を上げるユズリハの言葉に、フェンネルは「帰られてたまるか」とアニスを睨む。
「今日から三日で仕上げないといけねぇのに、今からそれで間に合わせられんのか?」
「僕もバーベイン様とモニター呑みしたい!」
「俺じゃなく船長に許可取ってくれよ」
困るユズリハにアニスが頬を膨らました時、洗濯籠を抱えたローズマリーがリビングへとやってきた。すぐにアニスに気付き、「ようこそ」と彼に手を差し伸べる。
「よろしく、アニス。本当に久し振りだ、君達の卒業式以来だな」
「ご機嫌麗しゅう、ローズマリー船長。暫くお世話になります」
「畏まらなくてもいい。無理を言って済まないな」
「こちらこそ。抜かり無くお手伝いさせて頂きますよ!」
固い握手を交わし、笑顔で挨拶を交わす二人。その光景に三種三様の反応を見せる船員達の中で、クミンだけが、アニスのコロコロと変わる感情と表情に若干の恐怖を感じていた。
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