七話
※
「すごい集中力だな」
真剣に本を読んでいる少女に、見ていたローズマリーが感嘆の声を漏らした。
初対面の時とは打って変わって大人しく素直になった少女は、ローズマリーとの約束通り、勉学に勤しんでいた。
メインデッキの奥にあるキッチンでは、少し遅い昼食の準備がユズリハとローズマリーによって進められている。ユズリハが今朝から仕込んでいた材料を出際良く調理していき、ローズマリーはシンクを陣取り、彼が使用した調理器具の片付けと食器の準備を手伝っていた。
キッチンからはリビングが見え、そこに置かれた大きなソファの周りは、大量の本や雑誌が山のように積み上げられている。その真ん中で分厚いを幾つも広げる幼い少女は、言語や文字などの基礎知識を始めとした、この国の様々な情報を目を見張る早さで頭に学び入れていた。
辞書に始まり、図鑑、事典、果ては法律百科まで、一冊を読み終えては右から左へと本を移動していく。一見、ざっと目を通すだけに見える少々雑なページの進み方でも、知識は頭に入っているのか、あっという間に文字の読み書きが出来るようになった彼女は、ユズリハに貰った筆記具でノートに何かを書き留めている。既に二冊目になるノートには、ローズマリーが名付けてくれた彼女だけの名前が記されていた。
『クミン・ラリマー』。候補は幾つか用意していたが、その名を聞いた少女は「これがいい」と自ら選んだ。
意味を知っていた訳でも、特別な感情があった訳でもない。ただ、ローズマリーが読み上げている時に、この名前にだけユズリハが優しい顔をした気がしたから。ただ、それだけの事だった。
「ローズマリー、あの雑誌やら漫画やらは、リンデンの私物じゃないのか?」
大量の本に混ざって積み上げられた、見覚えのある表紙の雑誌を見かけたユズリハが問う。
「知らん」
そう答えたローズマリーの声は呆れていた。
「私は倉庫にあった本を全部持ってきただけだ。リンにも、捨てられたくない物は必ず自室に置いておくよう言ってあるし」
「……ん? 確か先週、リンデンはフェンネルと『数ヶ月分より過去の号は処分する』と約束してたが、残してたって事か?」
「そうだろうな。ま、最近はフェノンの許可も取らずに勝手に私物を増やしてるみたいだから、見つかって怒られるのも良い薬になるだろ。約束を破ってるリンが悪い」
「まったく……毎度の事だがフェンネルが不憫だな」
溜息混じりに言ったローズマリーに、ユズリハも眉間に皺を寄せて『被害者』を労った。
「しかし、ユズ君は逆に私物をあまり持っていないな。自室だって、キャビンは余ってるのに用具入れだった所から引っ越さないし」
『チャーチグリム号』には、二段ベッドが備え付けてある十二畳の広さのキャビンが三部屋搭載されている。しかし、ユズリハが初めてこの船に来た時には二部屋のキャビンが物置になっていたため、ローズマリーは、急遽フェンネルと片付けた四畳の用具室を臨時の自室として彼に充てがった。
しかしその後、キャビンの掃除が済んでもユズリハは自室の引っ越しを拒否し続けていた。これまでに何度もローズマリーは彼に広いキャビンへの移動を提案したが、ユズリハは「落ち着かない」と断固として引っ越しを拒否、用具室に留まり続けているのだった。
「不便はないのか? あの部屋じゃ、満足にチェストも置けないだろ」
「俺はあの部屋が気に入っているんだ。広過ぎず、ベッドも机も充分に使えてる。これ以上に物を増やす事も無いだろうから、今のままで満足なんだよ」
「唯一の趣味も『家事全般』、おまけに斧の手入れも、ユズ君はキッチンで研いでるしなぁ」
ローズマリーは、キッチンの隅に置かれた大きな虹色の石板を見た。
まな板ほどの石板は大きな砥石になっており、普段『キュア』と呼ばれる鉱物で出来た武器を扱うユズリハやリンデンは、専用の大きな砥石で手入れを行わなければならない。リンデンはローズマリーの勧めで専門の職人へメンテナンスを依頼しているが、ユズリハはキッチンの床で、自らの手で大きな片刃斧を研ぎ磨いている。
その腕はプロ顔負けのものであり、斧だけでなく、彼が研いだ包丁やナイフは、その切れ味の良さにリンデンですら「扱うのが怖い」と言わしめている。
「何なら、新しい包丁とか欲しくなったりしないのか? 他の調理器具とか、最新の掃除用具とか……近頃は色々あるんだろ?」
「便利な物も良いが、古い物を直して育てるのが俺は楽しいんだよ。必要最低限の物は軍の配給品で揃えられるし、節約にもなる」
「うーん……相変わらず欲の無い男だ。美徳だが寂しいぞ」
そう言うと、ローズマリーは口を尖らせて不満を訴える。何とか世話を焼きたいらしい彼女の『親心』に、ユズリハも少し照れくさそうにはにかんで礼を言った。
「心遣いは感謝するが、お前が気に掛ける必要は無い。ただの従業員に金を使うより、『自分の子供達』に何か買ってやれば良い」
「私はユズ君を『ただの従業員』だなんて思ってないし、思った事もないんだが?」
「……そう言ってもらえるだけで充分だ」
「んもー」
未だ煮え切らない顔をするローズマリーに苦笑し、ユズリハはコンロに火を掛けて鍋を温める。「この恥ずかしがり屋さんめ」と彼を罵ったローズマリーは、拭き終わったグラスを棚に戻していった。
「……そういえば」
ふと、ローズマリーがグラスを持ったままユズリハに振り返る。
「私達が尋問から帰ってきた時、船の中が真っ暗で真っ白だったんだが」
「……ん?」
どういう事か、とユズリハは一瞬戸惑ったが、彼女達が船に戻ってきた時の状況を思い出して「ああ」と納得の声を漏らす。
「何故電気が消えていて、白い靄で埋め尽くされてたかって事か」
「その通りだ、それが言いたかった。私達がいない間に何があったんだ?」
ユズリハは温まった鍋に油を引き、刻んだ具材をどんどん入れて炒め始める。彼が木べらを滑らせる度、じゅわっという小気味良い音が響く。
「何があったのか、と言うか……俺はただ、彼女にチョコレートを食わせただけなんだがなぁ」
「……それだけ?」
「本当にそれだけだ。『刷り込み効果』もあっただろうが、大した事は何もしていない」
今から数時間前。それはユズリハがローズマリーとの通信を切り、彼が医務室に戻った時だった。
その少女……クミンは、食事を終えるとチョコレートの包み紙をユズリハに見せて『おかわり』を強請ってきたらしい。先程の物とは違う味がいいだろうと考えたユズリハは、ミルクや苺、ホワイトチョコなど、数種類のチョコレートを掻き集めてきて小皿に並べた。
色とりどりの色彩や形に、クミンは眼を輝かせて喜んでくれたらしい。
「それからは他愛も無い話をしてた筈なんだが、喋っているうちに何だか会話の内容がおかしくなってきてな……」
ユズリハも、最初は適当に流していた。幼い子が、気に入った大人に憧れるような感覚だと思っていた為だ。
だが、彼女が皿の上のチョコレートを全部食べ終わる頃には、クミンの言葉は完全に自分を『繁殖相手』として捉えた言葉を並べるようになっていた。
「『お前の様な男こそが我が王家の血筋には相応しい』だと。そう言われた時には恐怖すら感じたな」
「うわぁ……」
異様な気配と妙な感覚に警戒し始めていたユズリハは、彼女のいる医務室を一度出て、距離を置いた方が良いと判断する。しかし、適当に理由を付けて医務室を出たは良いものの、その内に段々と船内の至る所が霧がかったように白くぼやけ始め、終いには彼女の姿が見えない状況下にも関わらず、己の耳元で「何処にいても分かるぞ」と言われてしまったのだ。
ユズリハはすぐに配電盤のブレーカーを落とし、クミンの前から姿を眩ませた。
「だが、暗闇に紛れても彼女にはあまり意味を成さなかったな。逃げ回れていた時間は三十分も無いぐらいだが、彼女はまるで、俺を追い掛けて遊んでいるようだった」
「『目』で探していない……という事か」
リンデンの『探知能力』に近いものかも知れない、とローズマリーは推測する。リンデンが相手の気配を探る際は目を閉じ感覚を研ぎ澄ませているようだが、クミン『白い靄』を発生させ、その水蒸気を媒体に動くものや温度などを探知していたのだろう。
つまり、彼女は水分を扱う。その巨大な『可能性』にローズマリーは戦慄に唸った。
「……もし、あの霧を探知だけでなく攻撃に使えていたらと思うと恐ろしいな。船に入った瞬間に、私達を敵とみなして攻撃する事も出来た筈だ」
「……残念ながら、彼女にはそれが可能らしい」
「何?」
ローズマリーが目を見開いてユズリハを見る。彼は鍋に水を入れ、火力を中火に設定した。
「実際あの時、皆が入ってきた事に気付いた瞬間に敵意剥き出しだったんだ。すぐにでも攻撃を仕掛けるつもりだったようだが、すぐに説得して何とか踏み止まってもらえてな……彼女が聞き入れなかった場合を考えると、恐怖しか無い」
ユズリハは、クミンとの『かくれんぼ』で分かった彼女の情報をローズマリーに報告した。
何故、ユズリハ程の屈強な男が、幼い少女一人に抑え付けられていたのか。
彼女が背中に乗っている間、ユズリハの身体は鉄骨でも入れられたかの様に、指の先まで固定されて動かなくなっていた。動かせるのは首から上のみ、全く身動きが取れない中、ユズリハは何とか冷静を保ちながら「何故か」と問う。
ユズリハの疑問に、彼女はさも自慢気に話してくれた。
「身体の水分を……?」
「彼女の手、もしくは肌が触れている間は、僅かだが体内の水分を操っていられるらしい。人体の六割は水分だからな、そんな超能力があれば如何様にも出来るだろう」
「……本人が知らない間に、相手をミイラにする事も出来るって訳か。似ているようで、リンとは違う能力みたいだな」
うーん、と腕を組み、二人は首を傾げて唸った。
二人が『超能力』と聞いても特に驚かないのには、共に暮らし働いている、リンデンの存在がとても大きい。彼はたった一人でモルス大型を討伐できる程の斬撃を飛ばすという能力を有し、その感情すらも、相手に身体的な影響を与えてしまうという不思議な力を持っている。
水、という物質に限る様な能力を見せたクミンだが、その能力は自分達のように普遍的な人間には、やはり脅威である事に違いはない。
「確かに、使い方次第では恐ろしい能力ではある。だが逆を言えば、『正しい使い方』を学べばかなり便利な存在にもなるという事だ。違うか?」
「……違わないな。火薬の一つとっても、同じ事が言える」
「そう。彼女はこの世界に合わない知識のせいで牙を剥きがちだが、元は純粋で素直な性格のように思う。こっちが節度と倫理を持って真っ直ぐに向き合えば、必ず良い方へ向かってくれる筈だ」
「……ふーん?」
「子供は良いぞ。若ければ若いほど、色んな才能が見えてくる。もし彼女を引き取る気なら、すぐにこの船の即戦力になれるかも知れんぞ」
「そうかそうか」
ユズリハは完成間近のトマト煮込みを、優しい眼差しで見つめながらゆっくりとおたま笏で掻き混ぜている。ローズマリーは全員分の食器を新しく棚から出して配膳の準備を進めながら、ニヤリと口角を上げて微笑むユズリハに笑い掛けた。
「よしよし、それならリッキーにも連絡しておこう。申請はあそこが一番早いからなぁ」
どうにも茶化すような声音が気になったユズリハが鍋から顔を上げれば、そのニヤニヤと笑うローズマリーの顔に、彼の眉間の皺が深くなった。
「……何だ、その顔は」
「んー? ウチの子達の中で、クミンを友人だと認めるのはユズ君が一番早そうだと思ってな」
満面の笑みを見せる船長に対し、ユズリハは更に険しい顔になって拒絶を示した。
「絶対無いな」
「お、何故だ?」
「血筋がどうの、神の子がどうの……気色悪いオカルトな発言をしている限り、俺はあまり関わりたくない」
「んー……その気持ちは分かる気がするなぁ」
「あんな小さな子供に子作りだの何だのと言われて……お前なら、我が子がそんな事を言い出したらどうする?」
「ショックで寝込む」
「俺は考えるだけで吐き気がしてくる。そんな考えを一切捨てるまでは、俺は彼女を絶対に認められない」
はっきりと言い切ったユズリハに、ローズマリーも「確かになぁ」と息を吐く。
「まぁ、それが当たり前の反応だな。ユズ君の家も、クミンと歳が近い子供達が多いから……ふぁっ?」
ふと視線を感じて振り返ったローズマリーは、その真っ直ぐな眼差しに気付いて肩を飛び上がらせる。
コンロの火を止めたユズリハが驚く彼女の視線を辿ると、本の隙間から真っ直ぐに此方を見ている……否、『監視』とでもいうのか。じっと見つめてくるクミンと目が合った。
彼女は何を言うでもなく、ただユズリハをじっと見つめている。
「……クミンさん、何かご用でしょうか? 質問があるなら、貴女が声を出さないと答えられませんよ」
「……ユズリハは、家族が多いのか?」
「ええ、まぁ。大家族な方ですね」
「子供達とは、お前の子か?」
「いいえ、弟妹が五人います」
「ふむ、ユズリハは兄弟が多いのか」
「はい」
「成程……ふふっ」
そう言って微笑んだ後、クミンは再び本に視線を戻す。顔を見合わせたユズリハとローズマリーは、ただ軽く首を傾げた。
「何だか余裕だったな……今さっきバッサリ振られたのに」
「恐らくだが、俺が独り身であると聞いて安心したんだろう。相手が居ないなら、如何様にでも出来ると踏んだんじゃないか?」
「求愛への徹底さは、あの歳では流石というか……」
「考え方はまるで『カレヴィ帝国』だ」
聞き覚えのある名に、ローズマリーはサラダを取り分ける手を止める。
「……冗談だろ?」
「勿論、彼女がとうに滅んだ亡国の生まれだなんて言うつもりはない。だが、彼女の『かつての親』があの国を盲信しているなら話は別だ。純粋な彼女は、教えられた全てを信じ込む」
「狂信者が我が子に、か……調べてみる価値はありそうだな」
「ああ」
二人が皿をテーブルに並べ終わった直後、何故か上半身裸のリンデンがリビングへと戻ってきた。背伸びをし、「ただいまー」と明るい声でキッチンへと近付いてくる。
「マリーさん、フェンネル寝たよー」
「ありがとう、ご苦労だったな」
ミニトマトが入ったミニボウルを、ローズマリーがリンデンの前に差し出す。
「え、いいの!?」
「頑張ったご褒美として、ミニトマトのつまみ食い権をに与えよう。一個持っていけ」
「やった! ありがとう、マリーさん!」
素手でミニトマトを一つ摘み上げ、嬉しそうに頬張る。目を輝かせて「甘い」と叫ぶリンデンに、ユズリハが至極当然とも言える質問を投げる。
「おいリンデン。服はどうした」
「フェンネルが離してくれないから貸してあげたの。相当参ってたし、暫く起きないかも」
「ここ数日、勤務続きで無理してたしなぁ。まぁ、アイツには良い休息になる」
「毎日ヘトヘトの上に会議の件とド級の地雷出現だもん。フェンネルも運が無かったね」
「お前はせめて代わりのシャツぐらい来てこい」
「すんませーん」
しかし、リンデンは特に悪びれる様子もなく、ダイニングの椅子にかけてあった黒いパーカーを羽織る。
「俺のだぞ。洗って返せよ」
「了解でーす。ねぇ、アレは何してんの?」
二個目のミニトマトを頬張り、袖に腕を通して前のファスナーをしっかり上げたリンデンは、大量の本に囲まれて分厚い本を真剣に読み込んでいるクミンを指差す。
「クミンだ、リン。クミン、ラリマー」
「くみん……じゃあ、クミンは何してんの?」
「今、この船にある本を網羅している途中だ。主に法律とマナー、対人会話と心理学を学んでもらってる」
ローズマリーから難しい用語が並び、リンデンは訝しげに眉間に皺を寄せる。
「え……そんなの習得できんの? アイツが?」
「さぁ?」
「えぇ……?」
「クミンの目標が『ユズ君と番になる事』だから、根本的な解決にはなってないんだが……それでも、せめて相手を思いやれる言葉を言えるようになったら素晴らしいと思わないか?」
「そうだけどさぁ」
「リンと同じ特性を持つ以上、一般の保護施設には連れていけない。最終的には、この船で一緒に仕事が出来るようになるのが目標だ」
しかし、それでもリンデンの反応は芳しくない。
「それ、フェンネルは無理じゃないかなぁ……?」
「確かに、道程は遠く長い。でも、クミンの性格を見ていると、あながち不可能ではないと私は踏んでる」
自信に満ちた船長の笑顔に、リンデンは再びクミンの方へ目を向ける。彼女は変わらず本のページを眺め、時折膝の上で広げたノートに何かを書き出している。
真面目に勉強している。初対面では、ローズマリーに殺意を向けてすらいたというのに。
「……ふーん……」
それが、リンデンが今のクミンに抱いた印象だった。
リンデンはキッチンを離れ、ソファに近付き背凭れの上へと行儀悪く腰掛ける。その幼い真剣な横顔を訝しみながら、彼は懸命にペンを動かすクミンに声を掛けた。
「……何してんの?」
その気配に気付いていたクミンは、視線を本に落としたまま答えた。
「見て分からんのか? 勉学に励んでいる」
話し掛けるな。そんな空気を感じたリンデンはイラッとした顔で彼女の頭頂部を見下ろすが、己は『人間』として先輩なのだと心を落ち着かせ、負けじと言葉を続ける。
「本読むのは分かるけど、ノートに何書いてんの?」
「私が特筆すべきと思った点を抜き出して纏めている。相手を手玉に取るには、心理学において『駆け引き』が重要になるらしいからな」
「……んー?」
理解できずに首を傾げたリンデンに、クミンは嘲るように口角を上げて彼へと視線を向けた。
「……知ってるぞ。そういうのを『ナンパ』と言うのだろう?」
「は? 何が? なんで?」
「残念だが、私には決めた男がいる。相手にしている暇は無い、他を当たってくれ」
リンデンは先程と同じイラッとした顔で、今度はローズマリーとユズリハを見る。しかし、食事準備を終えて調理器具を片付けていた二人は、首と手を振ったりクミンを指差す等して「負けるな」と無言の合図を送る。
「くっ……」
二人の応援を受け、リンデンは何とか怒りを抑え切った。
「お……お前さぁ、世間知らずなのに『ナンパ』とか知ってんだな。かなり意外なんだけどー」
「そうか? この本に書いてあったぞ」
「あれ!? 『キュートオーク』の最新じゃん!」
雑誌を受け取ったリンデンは目を丸くした。
キュートオーク。『可愛いコナラ』という意味を持つこの本は、可愛いものに興味を持つ十歳〜十五歳の女児向け雑誌だ。
「届くの今週末なのに、なんで!?」
「リン、それは私が買ってきたやつだ。書店にはもう並んでたぞ」
「えっ、マリーさん『キュートオーク』読むの!? 可愛い……!」
「ちなみにリンが持ってたバックナンバーはソファ横に積んである」
「嘘でしょ!?」
リンデンはいくつか本を退けると、積まれた本の下に自分が愛読している雑誌を見つけた。カビが生えないよう丁寧にパッキングまでしてあったのに、包装は全て取り払われている。
「やだぁ、倉庫に隠しといたのに!」
「定期購読で毎月来るんだから、新しいのが来たら処分する約束だろう? 部屋にスクラップ溜め込んでるのも知ってるんだぞ」
「一年毎に処分してるもん!」
「おいおいリンさぁん。お前がその雑誌を買い始めて七年経つけど、七年分のスクラップなんて一体何冊になってるんだろうなぁ? そもそも、スクラップがあったら本体は必要無いだろー?」
「そういう事じゃないの! いいじゃん、可愛いの好きなんだもん! 毎月の料金はちゃんと俺のお小遣いから出してるもん!」
「部屋を圧迫されてるフェノンが可哀想じゃないのかぁ?」
「やああぁぁ!」
おおよそ成人している者達の会話とは思えない。ユズリハも白い目を向けながら呆れたように二人を諌める。
「やめなさい、二人共。大の大人等が見苦しいぞ」
そんな時、ふとクミンが楽しそうに吹き出した。皆が驚いて振り向くと、彼女は口に手を添えて笑い声を漏らしている。
「ふふっ……いや、すまない。仲が良いんだな」
「……お前、そんなオシトヤカな笑い方するんだな……」
「はぁん? 今私を馬鹿にしただろう許さんぞ貴様」
「あぁ!?」
「リンデン、少し遅いが昼にしよう。クミンさんも、区切りが着いた所で休憩にしましょう」
「……はーい」
不穏になりかけた空気をユズリハに止められた二人は其々にソファを離れ、ダイニングに移動する。
「さぁさぁ、クミンにとっては我が家で初めての団らんだ! たくさん食べるんだぞ!」
四人が皆席に着いたのを確認し、ローズマリーが「手を合わせて」と号令を出す。船員達が「いただきます」と声を揃えると、クミンも見様見真似で手を合わせ、少々戸惑いながら頭を下げた。
「い……いただきます……?」
そんな彼女の微笑ましい様子に、ユズリハとローズマリーは食事前の挨拶もしっかりと彼女に教えて上げた。
「ミニトマトおいしいー」
「全部食べるなよリン。フェノンにも残しておかないと」
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