六話
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その気配を辿り、廊下を入口のハッチへ向けて進むリンデンは、左側にある二つ目のドアの前で足を止めた。
閉ざされた目の前のドアを四回ノックし、中にいるであろう彼に声を掛ける。
「ふぇーんねるー。入るよー?」
ノブを握り、右に回して引き開く。すると、すぐに不機嫌な低い声が返ってきた。
「……入ってくんな」
それを聞いたリンデンは、優しい眼差しで苦笑を浮かべた。
「入るよー」
「出ていけ」
「出ていかないよー」
いつもの声音を保ち、ドアを後ろ手で閉めて中に入れば、床には彼の上着や今日持ち出していた装備が乱雑に散らばっている。それらを簡単に纏めたリンデンは、右側にある二人掛けのソファに丸ごと乗せた。
更に数歩奥へ進んで二段ベッドに近付く。二人が使う二段ベッドに隣接した簡易ベンチにそっと腰掛けると、彼が普段使っている下段のベッドに凭れ掛かった。
その下段のベッドでは、白い布団がこんもりと山を作っている。リンデンが布団の山の枕側を見やれば、中に立て籠もっている彼は布団の中で丸くなったまま、あらゆる銃弾を箱から出して選り分けていた。
シーツの上は一丁の拳銃の他に大小様々な銃弾だらけで、弾頭が尖っている物も多く並べられ、枕元に転がっている。
「……寝る時に危なくない?」
囁くように注意したリンデンに対し、フェンネルは唸るような声で「黙れ」と返した。
「あっち行け」
「行きませーん」
「……今の俺は機嫌悪いぞ」
「知ってますー」
「頭吹っ飛ばされてぇのか」
「やれるもんなら、ってね?」
「傲りは身を滅ぼすんだぜ」
「だって、近距離で負けた事無いしー?」
「……じゃあ、これが記念すべき一敗目だ」
徐に頭元の拳銃を手に取ったフェンネルは、リンデンの左上側後頭部に銃口を突き付ける。しかし、それでもリンデンは一切動揺する事無く、銃を握る彼の手をそっと自分の両手で包んだ。
「……フェンネル。弾切れの銃じゃ、俺には勝てないよ」
静かに優しい眼差しを向け、微笑む。そんな美しい彼の笑みに舌打ちで返したフェンネルは、不貞腐れた顔でリンデンを睨んだ。
「……ふん」
構えていた拳銃をリンデンに押し付けて、顔を背けたフェンネルはそのまま布団に深く身を隠してしまう。そんな彼に小さく息を吐いたリンデンは、靴を脱いで簡易ベンチを踏み台にベッドへと座り直すと、再び山を作った布団の上へ覆い被さるように、ずっしりと凭れ掛かった。
当然、布団の中からは「重てぇ」と苦情が聞こえてくる。
「……このゴリラめ」
「幸い体格には恵まれましてねぇ」
「……本当、何しに来たんだよ」
「俺? フェンネルの様子見にきたの」
「いらねぇ。ローズには適当に言っときゃいい」
「マリーさんの指示じゃないよ。俺が来たかったの」
「来るなよ」
「来るよ。フェンネルが泣いてるような気がしたから」
布団の山が、「ふっ」と自嘲の吐息に揺れる。
「……テメェもクズだな。間抜け面を拝みに来たってか?」
「フェンネルが間抜けだった時なんか無いじゃん」
「目ぇ腐ってんだな。憐れな奴だ」
「フェンネルはスゴい人だよ。怒ってても、機嫌悪くても、拗ねててもさ。いつだって、俺の尊敬する兄貴だから」
リンデンが布団の山を優しく撫でれば、「やめろ」と少し怒った声がした。
「……いつもいつも、お前は嘘ばっかりじゃねぇか」
「フェンネルが信じてくれないだけでしょー? 俺が嘘下手なの知ってるくせに」
「……良くも悪くも、か?」
「へへっ」
リンデンはベッドを降りて簡易ベンチに再び腰掛け、布団の山を子供を寝かし付ける様にぽんぽんと叩き始める。緩やかなリズムとリンデンの能力はフェンネルの心に静寂と穏やかさを与え、ほんの数秒で、優しく夢の中へと誘っていく。
「マリーさんには、俺から説明しとく。今は少し休んで、次に起きた時には気分もずっと良くなってるよ」
「……そんなんじゃねぇ」
「そうだね。分かってる」
鼻から上だけを覗かせたフェンネルの目は赤い。リンデンは前から後ろへと彼の頭を優しく撫で、その髪を指で柔らかく梳いた。
「よく踏み留まったね、フェンネル。よく我慢した。本当に偉いよ」
「……もっと褒めろ」
「うん。お疲れ様」
温かい手の心地良さに目を閉じたフェンネルは、そっと這い出すように毛布から手を出す。手探りでリンデンの腕を見つけると、彼は上腕の袖をその掌いっぱいに掴んだ。
逃すまいとするような、上着だけでなくインナーのシャツまでしっかりと握ってくるフェンネルにリンデンは思わず苦笑するが、服を掴む彼の手に自分の手を重ねると、布団の中から静かな寝息が聞こえるまで、その傍らに優しく寄り添っていた。
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