護るべきもの
護るべきもの、護らなければならなかったもの。
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「また、こうして君と『面接会場』で再会出来るとは思わなかったよ」
「取調室、の間違いだろ」
一つのランプだけが天井に吊り下げられた薄暗い部屋の中で、テーブルを挟みバーベインとユズリハが向かい合って座っている。
机に肘を着いてニコニコと微笑む相手に、背凭れに体重を預けて姿勢を崩すユズリハは彼の手元にある書類に視線を向けた。
「……で? 俺は『何者』になるんだ?」
「暫くは養父宅の『スフェーン』を名乗ってもらって、『時効』が過ぎれば本名に登録し直す。それは君の養父も了承しているよ」
「……わざわざ聞きに行ったのかよ。俺ですら何年も会ってないのに」
「そうだ、彼から伝言を預かっているんだった」
「……伝言?」
「『金を送ってくるより、帰ってきて一発殴らせろ』、だそうだ。君のご両親も、姉君もカンカンだったぞ」
ユズリハは目を丸くし、吹き出して笑う。
「そりゃ怖いな。当分帰れそうにない」
「良いのかね?」
「……ああ。少なくとも、『今』は」
その内、気が向けばな。
目を伏せ微笑む彼に、バーベインも笑みを浮かべた。
「……随分と、良い顔をするじゃないか。また君とは飲みに行きたいものだね」
「ジュース飲みにか? 酒飲めるようになってから誘ってくれ」
雇用契約書に双方が印を押し、ユズリハの書き損じで二枚に名前を記入する。
提出を終え、玄関まで見送りに来たバーベインはユズリハの名を呼んだ。
「これで君は私の正式な部下となった。言葉遣いと態度には気を付けたまえよ」
「了解。善処しますよ」
「さて、迎えも来ているぞ。随分気に入られているようで何よりだ」
広い訓練場の脇、玄関から見える門では、ローズマリーとフェンネルが大きく手を振っているのが見える。
来なくていいと言ったのに、と苦笑するユズリハの後ろで、バーベインが代わりに彼女達へ手を振り返した。
「この調子だと、ディナーは外食か?」
「今日は買い出しだけして船に戻ります。俺は『給仕の刑』に処されてるらしいんで」
「おやおや、それは恐ろしいな。ずっと給仕など苦痛じゃないのか?」
「……意外と快適ですよ」
色々と、お世話になりました。
そう頭を下げたユズリハに、「これからも精進したまえ」とバーベインは彼の肩に手を置く。
顔を上げたユズリハは、真っ直ぐ前を見据えて門へと歩き出した。
※
バーベインの指定で連絡係を受け持ったユズリハは、日頃の報告書、遠征での任務状況や、傭兵時代に築き上げた情報網を使ってバーベインの指示を熟していった。
結局は彼の『黒猫』と同じ仕事をさせられている事に気付いてはいたが、それでも彼の指示に従っていれば、船のメンテナンス費、『キュア』のエネルギー補充や武器弾薬の予備の他、船員達の趣味や食費、諸々の出費も全て『必要経費』として落としてくれる。妙に『チャーチグリム』を気を掛けてくれているようだが、引き換えに、船長にも言えない『中心街』の調査や情報開示、その上で手引や工作等も受け持った。
恐らく、軍本部の任務は『黒猫』が引き受けているのだろう。
《もちろん、金銭だけとは言わないよ。気になる『家族』の現状も教えてあげよう》
「……何?」
《君にも兄弟が増えた。一層頑張ってもらいたいと思ってね》
五年が過ぎ、雇用登録名が養父から実名に変わった時にそう言われた。
その頃、ユズリハは操縦免許と銃火器使用資格を習得するため、兵舎学校の試験を控えるフェンネルと共に勉強に励んでいた。彼の『黒猫』も様子を見に船を訪れ、友人と訓練に勤しんでいたように思う。
試験に受かり、任務を熟す毎に、新たな家族や弟妹達の話を聞いた。
「いや……別に求めては無いんだが……」
《大切な人が元気なら、モチベーションに繋がるものだ。君に依頼している『任務』だって、君の『家族』や『チャーチグリム』を護る一歩でもあるのだから》
「………………」
二人の養子に加え、数年後には、更に二人の子宝にも恵まれた義両親。
そして義姉はユズリハが二十八歳の時、隣村に住む『コーラル食堂』の次男と結婚した。写真を見たが、その相手は、優しく気概のありそうなラウリ族の青年だった。
写真の中で微笑む義姉は、今までに見た事がない程に、優しい目で微笑んでいる。
当然だ。彼等は幸せにならなければならないのだから。
彼等を護れるのは、自分自身だけなのだから。
その内に子供が生まれ、また彼等には家族が増える。
写真の裏には「十月二日」と記載があり、きっと、生まれた子の名前も自らが書き込むことになるのだろう。
ユズリハは小さく鼻を啜り、写真を封筒に戻して書斎机の引き出しに大切に仕舞った。
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