『罪』
後悔する事も、また『罪』。
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一通りの内部案内と家事を教わり、船長に強制されてアフタヌーンティーを三人で過ごした後。
ユズリハは、電動小銃のスイッチとひたすら睨めっこをしていた。
「違うよ、そこのレバーを上げるの」
「……こっちか?」
「違う、一番右の……そこじゃないよ、右のヤツ」
「こっちか」
「それは安全装置。もう少し上の、右の……それ。そっち」
「これか」
「もう一個右。トグルスイッチみたいなヤツ」
「……『トグルスイッチみたいなヤツ』……?」
「んー、違うなぁ」
教えてくれる『教師』が優秀なのは分かる。だが、如何せん細かな機械に疎い彼は指先にある大量のボタンやスイッチに四苦八苦していた。
実弾の重火器は『以前の職業』柄、組み立ても扱いも簡単に覚えられた。だが、これが高性能な電子武器になると途端に頭が働かなくなる。
必須設定が多く、光学機器の自動照準に酔う。安全面から取り外しも機能オフも出来ず、『慣れろ』と言われても目が疲れるし手が大きいせいで押し間違いを頻発する。
「ローズ、ユズさん電動ライフル無理」
そしてたった今、幼い師匠に匙を投げられてしまった。
「だから多分、電動拳銃も無理」
「細かいのはなぁ……」
「火薬弾しか使えないから、『キュア』弾買い直さなきゃ駄目だね」
「……はぁ……」
落ち込む背中に苦笑しながら、操縦席で目的地の微調整をしていたローズマリーが苦笑を零した。
「まぁ、誰にでも得手不得手はある。専門は接近戦なんだろう?」
「ナイフ? 銃剣?」
「斧だ。軍じゃ殆ど見ないだろうな」
「整備室に『キュア』のハチェットがあるけど、使えるかな?」
「本当か? 借りられるなら借りたいんだが」
「そりゃ構わないぞ」
「私、持ってくる」
持っていた小銃を床にそっと置いたフェンネルが、リビングを走って出ていく。そのフットワークの軽さに「元気だなぁ」と微笑むローズマリーに、ユズリハはすっと思っていた疑問を彼女に問い掛けた。
「何故、彼はこの船に乗っているんだ?」
「ん?」
「あんなに幼い子が、討伐隊で仕事をしている時点でおかしいだろう。敢えて危険な任務に就かせるのは、理由があるのか?」
「危険……確かに、この任務は危険だな。でも、実はあの子もユズくんと同じで、今は目立っちゃいけない立場にあるんだ」
「……あんなに小さな子が何をしたっていうんだ」
眉間に皺を寄せ、険しい表情で手元の電動小銃を見下ろす。彼の優しさに、ローズマリーは「ありがとう」と微笑み目を伏せる。
「ユズ君も、『ファーム』で賞金首になった子供の話を聞いた事があるだろう?」
「……あの子がそうだと言うのかっ?」
「そうだ」
傭兵時代、多額の賞金が掛けられた子供の捜索、捕獲の依頼が来た。
名は分からないが、『マティアス族の男児』という特徴と、ある程度の年齢だけが皆に共有された。
「……『俺達』の部隊は、未成年に手を出さない決まりがあった。生かして捕らえろと言われても……賞金を掛ける様な相手に引き渡して、その子供は幸せになんかならないと分かってるからな」
「三ヶ月前『ファーム』襲撃事件は、あの子に賞金を掛けた奴等も関わっている。ユズ君達の判断は正しかったと言えるだろう」
ユズリハは立ち上がり、床に置かれたもう一丁の電動小銃を持ち上げる。
「……『母親を亡くした』と」
ソファの上に二丁を置き、柵に手を付き操縦席からメインデッキを見渡した。
「あの子は、『ファーム』自警団の生き残りだ」
「………………」
「君は悪くない。『止めよう』としてくれたじゃないか」
一度だけ舌を打ち、俯く。
結局は、止められなかった。攻撃は遂行され、『ファーム』人口の八割が命を落とすという凄惨な結果となってしまった。
「……過ぎた事を悔いる気はない。だが……『罪』は『罪』だ」
「それが理解出来ているなら充分だ。君は善い人間だよ」
ユズリハは自嘲に鼻を鳴らす。ローズマリーはそれ以上返さず、微笑むだけだった。
「持ってきた」
幼い『生存者』が戻ってくる。その手には、彼の身長には少々似つかわしくない虹色の刃をした斧が抱えられていた。
「危ないぞ、ケースは無かったのか?」
「緊急避難用で常備してるヤツだから、ケースなんて付いてないもん」
「じゃあ、せめて刃物を持って移動する時は布に包め。電動ライフルの礼だ、簡単な方法を教えてやる」
「本当?」
フェンネルから斧を受け取ったユズリハは後ろ腰に入れ込んでいた手拭いを引き抜いて刃を隠す。
電動ライフルの向かい側に並んで座り、フェンネルに布の巻き方や刃の向け方等を教える後ろ姿を見ていたローズマリーは、電話越しに語ったバーベインの言葉を思い出していた。
無骨、無愛想だが、真面目で誠実。君の叔父が、唯一推薦した男だ。
「……シダー叔父さんも、もっと早く紹介してくれれば良かったのに」
バーベインが言うには、叔父と彼は訳あって仲が良くないらしい。互いの事は言わない方が得策か、とローズマリーは苦笑しながらモニターの電源を切り替えた。
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