臨時派遣
討伐だけが仕事にあらず。時には『猫の手』となる事も。
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今日は部品製作のお手伝いだ!
今朝のミーティングで、そう報告されたのは四時間前の事だ。
「やばい……飽きちゃった……」
そう呟き、天井を見上げて唸ったのはリンデンだ。
クミンを保護してから一月。その依頼は司令官からで、先週土曜の孤児院から帰宅した際に船へ連絡が入っていた、とローズマリーは語った。
「頑張れ、リン。フェノンを見ろ、一糸乱れぬ動きであんなに作ってるぞ」
遠視の眼鏡を掛け、長机の隣に座るフェンネルに視線を向ける。黙々と手を動かし続ける彼の前に積み上がった完成品の山を見て、リンデンは「ふえぇ」と眉を下げた。
ここは軍の生産工場であり、船の建造や武器の組み立てを行う巨大施設だ。『モルス』討伐の任務が空いた隊は、休暇もしくは近隣の軍施設へ人手として派遣される。『チャーチグリム号』の面々も前工程作業の応援には度々呼ばれていたが、いつもは孤児院と二手に分かれる所を、今回は全員が工場へ派遣されてきていた。
今回は特に忙しいから、全員で来るように、とのバーベインからの指示があった。ローズマリーも「クミンに体験してもらう良い機会だから」と二つ返事で了承した。
「俺もユズさんの所行きたい……大きい荷物に触りたい……」
「もう少しでお昼だから頑張れ。ユズ君が手伝ってる部署は、精密機器も多いしリンには難しいんだ」
「『うっかり』が絶対に許されない場所で、テメェが手出ししたら余計な仕事が増える。迷惑被るのはこっちなんだぞ」
「みんな酷いぃ……」
「事実だろ」
泣き言を唱えるリンデンに苦笑を漏らした時、ローズマリーにクミンが「出来たぞ」と手元を見せてきた。
「これで合ってるか?」
「お、スゴいじゃないか。クミンは物覚えが早いなぁ」
頬を染めつつ、得意げに鼻を鳴らした彼女の頭を優しく撫でる。ローズマリーも完成品を新しい段ボール箱に丁寧に仕舞い入れ、封をするとクミンと一緒に指定の棚へと運んだ。
「クミンも、この調子なら昼には終わりそうだな。よく頑張ったぞ」
「能力さえ使えれば、こんなもの一瞬で終わらせられるのに」
「ここはカメラがあるから絶対に駄目だぞ。もし見つかったら、研究機関の奴等が捕まえに来ちゃうからな」
「むぅ……」
頬を膨らますクミンに「今日は我慢しろ」と宥め、次の資材を持ってテーブルに戻る。次はフェンネルが「出来た」と言い出し、自分で段ボールを持って棚まで運びに行く。しかし、彼は何も持たずにテーブルへと戻ってきた。
「おいローズ、次のが無ぇ」
「えっ、まさかもう全部仕上がったのか? これまで何箱開けた?」
「十五」
「おっとぉ? フェノンが作ってた分は、今日のノルマが七箱だったんだが……」
「他に無ぇのかよ、仕事を寄越せ」
「仕様が無いな、見てくるから取り敢えず休憩でもしててくれ」
「はぁ?」
「怒るな怒るな。クミン、一緒に来て手伝ってくれるか?」
「分かった」
立ち上がったクミンのテーブルを指差し、フェンネルは「半分持ってくぞ」と資材に手を伸ばす。しかし、すぐにローズマリーが「駄目だ」と彼を窘めた。
「他人の仕事を盗るなって言ってるだろ。それはクミンの分だろ?」
「チッ」
「どうしても暇なら、リンがサボらないように見張ってなさい」
「クソが」
「んもー」
ローズマリーはクミンを連れて、隣の部屋に広がる倉庫へと足を踏み入れる。幾つもの棚が並び、大小様々な箱やコンテナが所狭しと並ぶ空間に、クミンは息を呑みながら辺りを見渡した。
「まったく、あの子達は……」
「ローズマリー、フェンネルは何故不機嫌だったんだ? 人間は皆、リンデンのように労働が嫌いなんじゃないのか?」
「フェノンは組んだりバラしたりが大好きな変態さんだ。しかもちょっと社畜気質だから、無理にでも休憩させないと身体が先に潰れてしまう。リンは反対に細かい作業が苦手だからサボり癖が出るし……まだまだ子育ては難しいよ」
「ローズマリーでも、難しいと思う事があるのか」
「当然だ。まぁ、好きな事に全力疾走な所は彼等の長所でもある」
倉庫の半ばまで歩き、ローズマリーは選んだ箱の一つをクミンに渡す。一回り大きな箱を抱えた彼女も「どっこいしょ」と持ち直して踵を返した。
「何故私達が荷運びを……フェンネルに運ばせれば良いんじゃないのか?」
「ここには修理用の部品も、他の部品に互換が利く資材も全て置いてある。アイツに資材の場所を教えたら、全部使ってしまうから倉庫へ来させられないんだ」
「えぇ……? なんと面倒な……」
「それに、リンはフェンネルに強請られたら断れない。単純だからこそ、扱いが難しい面もある」
「人とは、こうも難しいものなのか……」
「そう悩む事でもないよ。アイツ等がまだまだ子供なだけだ」
箱を持って作業室に戻れば、フェンネルは余った銅線をラジオペンチで器用に曲げ、ワイヤーアートで美しいティアラを作り上げている。その手元を凝視するリンデンの横で、クミンも鮮やかな手際に息を呑んだ。
しかし、「持ってきてやったぞ」と目の前にローズマリーが箱を置くと、フェンネルはあっという間に銅線を団子状に丸めてしまう。
「あああぁぁっ!!」
「っ!?」
リンデンとクミンが思わず叫び、フェンネルは肩を飛び上がらせた。
「な……何だよ」
「壊すなら頂戴よ!」
「私も欲しい! もう一個作れ!」
「はぁ? ゴミだぞ」
「違ぁうもぉん!!」
「うるせぇ」
「私に作れ! ユズリハに見せたい! もう一回作ってくれ!」
「人にモノ頼む態度から勉強してこい」
「おーい、仕事再開するぞー。お昼になっちゃうぞー?」
しかし、ものの数秒後。昼休みを知らせるチャイムが作業室に鳴り響き、「あぁー」と皆がそれぞれの残念がる声を漏らした。
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