↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
44/54

臨時派遣

討伐だけが仕事にあらず。時には『猫の手』となる事も。



 今日は部品製作のお手伝いだ!

 今朝のミーティングで、そう報告されたのは四時間前の事だ。


「やばい……飽きちゃった……」


 そう呟き、天井を見上げて唸ったのはリンデンだ。

 クミンを保護してから一月。その依頼は司令官からで、先週土曜の孤児院から帰宅した際に船へ連絡が入っていた、とローズマリーは語った。


「頑張れ、リン。フェノンを見ろ、一糸乱れぬ動きであんなに作ってるぞ」


 遠視の眼鏡を掛け、長机の隣に座るフェンネルに視線を向ける。黙々と手を動かし続ける彼の前に積み上がった完成品の山を見て、リンデンは「ふえぇ」と眉を下げた。

 ここは軍の生産工場であり、船の建造や武器の組み立てを行う巨大施設だ。『モルス』討伐の任務が空いた隊は、休暇もしくは近隣の軍施設へ人手として派遣される。『チャーチグリム号』の面々も前工程作業の応援には度々呼ばれていたが、いつもは孤児院と二手に分かれる所を、今回は全員が工場へ派遣されてきていた。

 今回は特に忙しいから、全員で来るように、とのバーベインからの指示があった。ローズマリーも「クミンに体験してもらう良い機会だから」と二つ返事で了承した。


「俺もユズさんの所行きたい……大きい荷物に触りたい……」

「もう少しでお昼だから頑張れ。ユズ君が手伝ってる部署は、精密機器も多いしリンには難しいんだ」

「『うっかり』が絶対に許されない場所で、テメェが手出ししたら余計な仕事が増える。迷惑被るのはこっちなんだぞ」

「みんな酷いぃ……」

「事実だろ」


 泣き言を唱えるリンデンに苦笑を漏らした時、ローズマリーにクミンが「出来たぞ」と手元を見せてきた。


「これで合ってるか?」

「お、スゴいじゃないか。クミンは物覚えが早いなぁ」


 頬を染めつつ、得意げに鼻を鳴らした彼女の頭を優しく撫でる。ローズマリーも完成品を新しい段ボール箱に丁寧に仕舞い入れ、封をするとクミンと一緒に指定の棚へと運んだ。


「クミンも、この調子なら昼には終わりそうだな。よく頑張ったぞ」

「能力さえ使えれば、こんなもの一瞬で終わらせられるのに」

「ここはカメラがあるから絶対に駄目だぞ。もし見つかったら、研究機関の奴等が捕まえに来ちゃうからな」

「むぅ……」


 頬を膨らますクミンに「今日は我慢しろ」と宥め、次の資材を持ってテーブルに戻る。次はフェンネルが「出来た」と言い出し、自分で段ボールを持って棚まで運びに行く。しかし、彼は何も持たずにテーブルへと戻ってきた。


「おいローズ、次のが無ぇ」

「えっ、まさかもう全部仕上がったのか? これまで何箱開けた?」

「十五」

「おっとぉ? フェノンが作ってた分は、今日のノルマが七箱だったんだが……」

「他に無ぇのかよ、仕事を寄越せ」

「仕様が無いな、見てくるから取り敢えず休憩でもしててくれ」

「はぁ?」

「怒るな怒るな。クミン、一緒に来て手伝ってくれるか?」

「分かった」


 立ち上がったクミンのテーブルを指差し、フェンネルは「半分持ってくぞ」と資材に手を伸ばす。しかし、すぐにローズマリーが「駄目だ」と彼を窘めた。


他人(ひと)の仕事を盗るなって言ってるだろ。それはクミンの分だろ?」

「チッ」

「どうしても暇なら、リンがサボらないように見張ってなさい」

「クソが」

「んもー」


 ローズマリーはクミンを連れて、隣の部屋に広がる倉庫へと足を踏み入れる。幾つもの棚が並び、大小様々な箱やコンテナが所狭しと並ぶ空間に、クミンは息を呑みながら辺りを見渡した。


「まったく、あの子達は……」

「ローズマリー、フェンネルは何故不機嫌だったんだ? 人間は皆、リンデンのように労働が嫌いなんじゃないのか?」

「フェノンは組んだりバラしたりが大好きな変態さんだ。しかもちょっと社畜気質だから、無理にでも休憩させないと身体が先に潰れてしまう。リンは反対に細かい作業が苦手だからサボり癖が出るし……まだまだ子育ては難しいよ」

「ローズマリーでも、難しいと思う事があるのか」

「当然だ。まぁ、好きな事に全力疾走な所は彼等の長所でもある」


 倉庫の半ばまで歩き、ローズマリーは選んだ箱の一つをクミンに渡す。一回り大きな箱を抱えた彼女も「どっこいしょ」と持ち直して踵を返した。


「何故私達が荷運びを……フェンネルに運ばせれば良いんじゃないのか?」

「ここには修理用の部品も、他の部品に互換が利く資材も全て置いてある。アイツに資材の場所を教えたら、全部使ってしまうから倉庫へ来させられないんだ」

「えぇ……? なんと面倒な……」

「それに、リンはフェンネルに強請られたら断れない。単純だからこそ、扱いが難しい面もある」

「人とは、こうも難しいものなのか……」

「そう悩む事でもないよ。アイツ等がまだまだ子供なだけだ」


 箱を持って作業室に戻れば、フェンネルは余った銅線をラジオペンチで器用に曲げ、ワイヤーアートで美しいティアラを作り上げている。その手元を凝視するリンデンの横で、クミンも鮮やかな手際に息を呑んだ。

 しかし、「持ってきてやったぞ」と目の前にローズマリーが箱を置くと、フェンネルはあっという間に銅線を団子状に丸めてしまう。


「あああぁぁっ!!」

「っ!?」


 リンデンとクミンが思わず叫び、フェンネルは肩を飛び上がらせた。


「な……何だよ」

「壊すなら頂戴よ!」

「私も欲しい! もう一個作れ!」

「はぁ? ゴミだぞ」

「違ぁうもぉん!!」

「うるせぇ」

「私に作れ! ユズリハに見せたい! もう一回作ってくれ!」

「人にモノ頼む態度から勉強してこい」

「おーい、仕事再開するぞー。お昼になっちゃうぞー?」


 しかし、ものの数秒後。昼休みを知らせるチャイムが作業室に鳴り響き、「あぁー」と皆がそれぞれの残念がる声を漏らした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。