十七話
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「聞いて驚け、原因は『ガス爆発』になった」
ふんぞり返って鼻を鳴らしたローズマリーに、子供達は皆、唖然と口を開けていた。
「が……ガス、爆発っ?」
「って何?」
「あまりにも無理があるだろ」
ベッドを囲んでいたカーテンを完全に開け、それぞれのベッドからパイプ椅子を持ち出してきてサカキのベッドをデスク代わりに資料を広げる。ローズマリーは一枚の紙を持ち上げ、書かれている内容を要約して話し始める。
「これはバーベイン殿とも話し合って決めた内容だ。サカキ君の提出してくれた証拠は何よりも強いからそのまま使うとして、音声データである事を逆手に取る」
「つまりは、サカキ君が暴行され始めた時点でレコーダーが壊れた事にして編集、負傷者はガス爆発で出た事にするそうだ」
補足されたユズリハの言葉に、フェンネルは思わず「そのまま使ってねぇじゃねーか」と呟いた。
「つまりは、後半の『リンデンが暴走した辺り』を全部『無かった事』にして使うのか」
「今回、連れ去られた場所が実験棟倉庫というのも良かった。それなりの、『らしい』設備も整ってるしな」
「人的被害しか出てないのに、ガス爆発はおかしいだろ。他に思い付かなかったのかよ」
「そうだ!」
言い切った船長に、フェンネルは「マジか」と呆れ返った。
「だ……だいぶ無理矢理ですが、それが大人の力なんですかね……?」
「スゴいや! これで、フェンネルは学校辞めなくていいの!?」
「勿論。二人も、フェンネルの卒業をお祝いできる日が来るぞ」
「やったー!」
素直に喜ぶリンデンにつられて、サカキも段々と、『それで良いのかも』と胸を撫で下ろす。
一人、全く納得していないフェンネルを、一歩下がって椅子を構えていたユズリハが手招きで呼んだ。
「絶対おかしいでしょ。物的被害が全く無いのにガス爆発? バレたら軍法会議モンだ」
「お前も、たまには素直に受け入れて喜んでみろよ。可愛い後輩を見習ったらどうだ?」
「被害者の中には、意識障害や汚染症状が出てる奴もいるんです。それらを『トラウマ』として処理させるには、誰かがやった事にしねぇと……」
「そうだな。でも、それはお前の『役』じゃないだろ?」
そう言われて、フェンネルは眉間に皺を寄せる。
「……分かってますよ。でも書類上はそれで通せる筈だ。被害者が化け物で加害者がチビでも、書類は人間の中身までは見ない」
「はは、そういう事じゃないんだ。捻くれ者のお前に、別の設定を説明しとこう」
「……『別』?」
武勇伝を話すようなローズマリーの説明を、二人の少年達は紙芝居でも見るかのように食い入って聞いている。そんな彼等を、ユズリハは溢れる笑みもそのままに鼻を鳴らした。
「……シスルワート・タングステンが死んだ」
思わず、フェンネルは言葉を失う。
「……嘘でしょ……!?」
「盗んだモルヒネの過剰投与。昨日の夜、看護師に発見されたそうだ」
「……自分で打ってた、って事ですか?」
「常習してたんだと。奴は『インフェイス』だった」
俺は違う、と叫んでいた彼を思い出す。ユズリハの説明によれば、彼は長期休暇に行った鹿狩りで、不運にも二頭の四足小型『モルス』に遭遇したらしい。
U地区で起きた『モルス』被害、と聞いて、フェンネルは「まさか」と息を呑む。
「六人中、五人が死亡した……生き残った一人が、『アレ』だったんですか?」
「事件としては公表通りだが、被害者の情報は一切出てない。ウチに討伐依頼が来た時、調べても『モルス』の情報以外は何も出なかった覚えがある」
「……もみ消すのは、あの『家』の得意分野ですからね」
「タングステンは貴族の中でも有数の名家。家を挙げて売り出してる『神童』が『インフェイス』になったんじゃ、面目もあったモンじゃないからな」
「叩けば叩くほど埃しか出てこねぇとは……どうなってんですかね、この国の貴族は」
「革命前から残ってる家なんて、どこも大体そんなモンだろ。今まで生き残ってきた術が、今になって使えなくなってきてるだけだ」
ローズマリー達三人も、口裏合わせのためか何度も確認して『ガス爆発』について覚えているようだ。今は、嘘が苦手なリンデンの練習に二人が付き合ってやっている。
「……シスルワートが『ライカン化』した事にして、全責任を肩代わりしてもらおうって筋か。ザマぁ無ぇな」
これ以上に無い人材を、ここで使わない手は無い。「好都合も、過ぎると怖ぇな」とフェンネルは鼻で嗤った。
「ジャスパー司令はその方向で動くそうだ。あの『神童』がこの病院に入院してた事も、モルヒネ中毒で死んだ事も、既に改竄されて『無かった事』になってる。この病室を出たら、もう奴の話はするなよ」
「話を振られたってしませんよ気色悪ぃ。『アレ』の所為でこんな事態になったのに、『アレ』のお陰で丸く収まるとは皮肉もいい所だ」
「罪を犯した落とし前を手前で片付けたんだ、そこだけは褒められたモンだろ」
「……『当たり前』なんですよ、そんな事は」
「無い罪を被るより、よっぽど簡単だしな?」
含みのある笑いを零すユズリハにフェンネルは眉を顰め、茶を啜る彼をじっとりと睨んだ。
「……本当、アンタも嫌な男だぜ」
「『大人』をナメるなよ、フェンネル。お前が考えてるより、『俺達』はずっと汚い生き物だ。保身のために他者を蹴落とし、使えるなら死人さえも利用する……覚えとけよ、世の中を歩いていくには、自分一人の存在じゃ、大切なものなんか絶対に守れないからな」
困った時は、守りたいものがあるなら、仲間すらも利用しろ。
目を伏せ床を見つめるフェンネルの隣で、ユズリハはカップの中の茶を全て飲み干した。
「……要するに『頼れ』ってんでしょ。ローズの話で腹いっぱいですよ」
「お前が勝手に自分で完結させようとしてたからだろ。冷静なように見えて意外と直情型だからなぁ、フェンネルは」
「放っといて下さい」
「放っとく訳ないだろ、『仲間』なんだから。道は一つにあらず……お前が色んな人間の意見を聞いて、自分が安全な道を模索できる様になれ」
自己犠牲(楽な道)ばかり選んでると、大事なものも失うぞ。
ローズマリーの説明が終わったのを見計らって、ユズリハは立ち上がる。フェンネルの肩に軽く手を置いて席を離れたユズリハの後ろ姿を睨みながら、フェンネルは小さく「ふん」と鼻を鳴らし、軽く啜った。
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