スカイライド奪取
相手は『モルス』では無い。
※
「リンデン、何人ぐらいか分かるか?」
「三十六人」
気配を探り、詳しい人数を告げたリンデンの目は暗闇の中で仄かに赤く光る。
「中で仮眠中の人もいるから、動いてるのは三十三人だね」
「……まとめて相手取った方が早いな」
「マリーさんに『殺しちゃ駄目だ』って言われてるよ。どうする?」
「俺が囮になるから、お前はデカいやつを一台貰ってこい。一緒に乗っていこう」
「分かった。迎えに来るからね」
「おう」
リンデンが足音を消しながら建物へと近付く。
正面のシャッターは開いており、そこには数十台の飛行バイクが並んでいる。これにしようか、と目星をつけた時、その正面から何かが風を切る音が辺りに響いた。
「おーい、ちょっと良いかー?」
建物内にいた男達が、彼の声に集まり始める。
「誰だ、お前?」
「これ何の音だ?」
そんな言葉が飛び交う中、刃に保護カバーが被せられたままの斧を振り回す姿を見た何人かが、思わず悲鳴を上げていた。
「所属と名前を教えてくれ。無関係な人間を襲う訳にいかなくてなぁ」
ブンブンと振り回される斧に怯える者も居れば、彼に『気付いた』男が指を差し、仲間に向けて叫ぶ。
「『チャーチグリム』の船長だ! 逃げた船長だぞ!」
同時に、「捕まえろ」「生け捕りにしろ」という言葉も聞こえる。ユズリハは安心したように笑った。
「そうか、そうか。それだけ分かれば充分だ」
身体を捻り、一回転すると同時に斧の鎖を握る手を緩める。
振り切る動作で斧を飛ばし、男達を薙ぎ払うように振り回す姿はまさに鬼神そのものだ。
普段の討伐からは比べ物にならないほど脆弱な相手を『うっかり殺してしまわないよう』細心の注意を払いながら、ユズリハは彼等の向ける銃口を避けつつ失神させていく。
その間に、リンデンは事務所にいた男の首を剣の柄で殴り付けて気絶させると、壁に掛かっていたマスターキーを掴んで駐輪場へとやってくる。船にあるものよりも一回り大きい飛行バイクを見つけて跨ると、背後から怒声を発しながら走ってきた男の顔面を殴って卒倒させた。
エンジンを掛け、アクセルを回せば飛行バイクは十センチほど地面から浮き上がる。
「えーっと、一台貸してクダサイ!」
きちんと宣言して、ハンドルの真ん中にあるギアを下げる。滑るように発進したバイクを上に向け、リンデンは高く浮上した。
「ユズさん!」
「止まるな、行け!」
リンデンを見つけたユズリハは彼の飛行バイクを追いながら走り出し、重ねたタイヤを踏み台に上へと飛び上がる。
同時に構えたフックショットを飛行バイクの底に打ち込み、遠心力を流しながらワイヤーを巻き上げた。
背後からは、「追え」という叫び声が聞こえる。ユズリハは舌打ちしながら飛行バイクによじ登り、リンデンの助けを借りて彼の後ろ側に跨る。
「ユズさん、超カッコイイ! さっきのもう一回やって!」
「勘弁してくれ、寿命が縮むだけだ」
後ろに振り向けば、やはり追手が七台ほど後を追い掛けてきている。中型のスカイライドと言えど、二人分の重量で飛び道具を避け切るのは少々難しい。
『中近距離型』の弱点に、ユズリハは思わず苦笑を浮かべた。
「フェンネルが居ればなぁ」
あっという間に片付くんだが。
そう零したユズリハに、リンデンは突然「運転代わって」と飛行バイクの操縦を『自動』に切り替える。
突然立ち上がって座席の上に足を乗せ、彼はユズリハの腰からフックショットを抜いた。
「おいおいおい、何する気だ!?」
「敵は『無茶してでも減らしとけ』ってフェンネルが言ってた」
「はぁ!? 何をバカな……!」
リンデンは背中から剣を抜く。『キュア』の美しい刀身が夜景の明かりを受け、夜の帷が如く煌めいた。
「自殺行為だ、リンデン! この高さから落ちたら、幾らお前でも肉団子になるぞ!」
「あいつ等が付いてきたら、狙われるのはポートに居るマリーさん達だ。今の内に何とかしなきゃ!」
リンデンが座席に踏み込み、強く飛び上がる。
その向こうで、飛行バイクに乗る数人が銃口を向けているのが見えた。
「リンデン!!」
ユズリハはすぐにブレーキを掛けてドリフトでUターンを掛ける。落ちていくリンデンを拾おうとアクセルを回すが、彼は敵の飛行バイクに向けてフックショットを撃ち放つと引き寄せられるように飛んでいった。
二人が乗る飛行バイクの浮力維持装置を下から狙い、剣で刺し貫く。
「落ちるよ、しっかり掴まってて!」
「!?」
予備装置があるため、エンジンが掛かっている飛行バイクは墜落する事はない。だが人間が乗っていれば浮力を維持できず、ゆっくりと地面へ降りる仕組みになっている。
リンデンは次の飛行バイクに向けてフックショットを撃ち込み、同様に浮力維持装置を破壊して回った。
時にはフックショットで直接装置を狙い、振り子の原理で次の機体に飛び移る。相手の銃を叩き落として飛んできた拳をいなし、剣で上から装置を刺し壊して座席を踏み込む。
はらはらしながら見ていたユズリハは、次に飛び移った先で彼の背後に回る飛行バイクを見た。
ここからの距離では間に合わない。
「リンデン、後ろだ!」
その『殺意』に彼は表情を変える事無く、発砲音と共に身体をずらして銃弾を交わす。
しかし、次に彼が見たのはその弾丸を肩に受けてしまった男の姿だった。
「だめっ!」
勢いのまま後ろに倒れそうになる男に手を伸ばし、その襟を掴んで飛行バイクに引き戻す。直後、彼は再び背後から飛んできた銃弾を背中に受け、男と入れ違う形で飛行バイクから足を離した。
すぐにフックショットをそのバイクの底側に撃ち込むが、撃たれた肩の所為で手に力が入らず、ワイヤーを引き戻す事が出来ずに宙吊りの状態になる。
殺意に目を向ければ、自分を撃った銃が此方に向けられていた。
「やっべ」
小さく呟く。
刹那、彼等の乗る飛行バイクが衝撃を受けて揺れ、男が拳銃を手放したのが見えた。
飛行バイクは損壊した底側から煙を吐き出しながら、ゆっくりと降下していく。
リンデンは剣を背に差し直してフックショットを持ち替え、ワイヤーを巻き取った。
「ユズさん!」
リンデンが呼べば、彼の飛行バイクは方向転換してこちらに向かってくる。フックを閉じて飛行バイクから抜き、無重力を感じた瞬間に胴へと僅かな衝撃が入った。
「無茶しやがって、このバカ!」
「ごめんなさぁーい……」
ユズリハの腕が腰に周り、俵のように抱えられたまま二人はその場を離れる。リンデンが最後に見た敵の飛行バイクには、放心状態で此方を見つめる、負傷した男が乗っていた。
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