招かれざる客
動き始める『事態』。
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「マリーさん達、今頃お土産屋さん回りしてるのかなぁ」
「まだ六時前だぞ。市場が閉まるまで四時間もあるし、飯食ってから回ればいい」
腕と背中、胴回りや肩幅などの寸法に合わせて、サカキは図面を調整していく。必要な資材の見積もりが出るまでもう少し掛かりそうだと言われ、服を着たリンデンはカウンター横の椅子に腰掛けて壁に凭れ掛かった。
「サっちゃんも、見積もりとか適当でいいのにー……」
「そんな訳にいきません。僕じゃなかったら、ぼったくられますよ?」
「オーダーメイドなんだから時間掛かるのは当然だろ。暇なら、そこにあるヒマワリの種でも数えてろ」
ユズリハが指差した先では、鉢植えに二輪のヒマワリが花を枯らせてびっしりと種を付けている。
言われた通りに種を一粒ずつ数え出したリンデンの後ろ姿を確認し、ユズリハはサカキから受け取った請求書の数字を一枚ずつ電卓に叩き込んでいった。
「よろしければ、先にフックショットをお渡ししておきましょうか。剣と斧も預かってますし」
「こっちも用意できた。支払いも済まさせて貰っていいか?」
「ええ、勿論」
記された金額と請求書をカウンターのトレーに乗せ、サカキが札の数を数える。「確かに」と頷いた彼は請求書の金額欄に『受取済』の判を押し、半券を切ってユズリハに返した。
「こちらで、お間違い無いですか?」
よっこいしょ、と斧をカウンターに置いた彼に、ユズリハは苦笑する。
「これを扱えるのは俺だけだろうからなぁ」
「あはは、僕には間違いなく無理ですね」
軽々と斧を背負う彼にサカキは羨望の眼差しを向けつつ、リンデンの背中に声を投げる。
「リンデンさんも、この剣で……」
「待って! 今数えてるから」
「えぇ……?」
「アイツは放っとけ。フックショットは?」
「ああ、はい。こちらに」
ユズリハが剣を受け取ると、サカキは小さなトランクケースをカウンターに乗せる。蓋を開けば、中には所々が金色の金属に縁取られ、全体的に美しい彫刻が施された拳銃型の機械が収められていた。
「……何か、えらく豪華になってないか?」
「すみません……目を離した隙に、『彼女』に遊ばれてしまいまして……」
「おーい、商売品で遊んじゃ駄目だろ」
苦笑するユズリハに、サカキは「彼女も悪気は無い筈なんです」と弁明する。
「ちょ、彫刻以外はちゃんと理由があるんですよ? 地金を鉄から合金へ完全移行しまして、一つ一つ削り出して大切に組み上げました。強化すべき場所ごとに材質を変えたので色味は派手になっちゃいましたが、ワイヤーの巻取りもモーターの摩耗も、これなら十万回繰り返したって壊れる事はありません」
「彫刻は?」
「……すみません……」
合金で仕上げた部品はどれも高価な物で、代えが利かないためにそのまま使わせて貰った、とサカキは俯いた。
「何でも『チャーチグリム』の方々は彼女にとって『命の恩人』だそうで、どうしてもお礼がしたかったと言われてしまい……」
申し訳無さそうに謝罪を述べるサカキに、ユズリハも苦笑しつつフックショットを手に取った。
何度見ても、見事な彫金だ。光を浴びて輝く金属の肌は、滑らかであるのに手に馴染み、滑り止めの効果にもなっているようだ。
理に適っている装飾模様。彼の新妻は余程賢く器用なのだろう。
ユズリハは、先程の美しい蝶を思い浮かべた。
「……これじゃ、勿体なくて使いづらくなるな。本当に見事だ」
「そんな、勝手をしてしまったのは僕達ですので……本人にも伝えておきます、本当にすみません」
「大切に使わせてもらうよ。ありがとう」
フックショットを右脚のホルスターに収めて礼を言う。ずっと褒めてくれるユズリハにサカキは終始照れていたが、ふとユズリハが「そういえば」と口を開く。
「さっき『命の恩人』だって言ってくれたな。嫁さんは俺達の事を知ってるのか?」
「僕も彼女から聞いた話ですので、詳しくは……だた、本人は『先輩の親戚』だって」
「親戚?」
その時、店内に来客のベルが鳴る。二人が振り向くと、体格の良い三人の男達が開かれたドアから中へと入ってきた。
カーテンが閉められた窓の外には、あと二人ほど人影が見える。ユズリハが警戒を見せた時、サカキが「すみません」と男達に声を掛けた。
「閉店の看板が掛かってなかったのなら、申し訳ないです。本日は五時までの営業でして……」
「ここの店主か?」
「いえ、今日は代理ですが……」
「なら黙って引っ込んでろ。大人しくしてりゃ、怪我はしなくて済む」
ヴァルテッリ族の男が二人、オリヴェール族が一人。迷わずカウンターへと歩いてきた彼等に、ユズリハが『待った』を掛ける。
「……随分な態度だが、まさか強盗に来たんじゃないよな?」
「まさか。今更流行らねぇよ」
「だったら何しに来た」
「俺達はアンタに用があって来たんだ。ユズリハさんよ」
「……何?」
眉間に皺を寄せた彼は、次に投げられた言葉に思わず目を見開く。
「貴様の『娘達』を預かった。俺達と一緒に来て貰うぞ、アイオライト船長」
言葉を失ったユズリハを、サカキが不安げに見つめる。
しかし、ふと彼が視線をずらすと、男達の背後ではリンデンが無表情でヒマワリの種を数え続けていた。
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