いるなら前もって説明していただけますか!
湯気で白く霞むお風呂場に入った瞬間、浴槽の隅に「それ」はいた。
何かがもぞもぞと動いている。よく見るとそれは、お湯を含んで少ししぼんだ、真っ白な毛玉だった。
「きゅ……」
弱々しい鳴き声が響く。濡れた毛の隙間から覗くのは、うさぎのようなピンク色の長い耳と、怯えたような琥珀色の丸い瞳。野生のそれとは明らかに違う、お風呂場の片隅で怖がるように小さく身を縮めている姿には、なんだか放っておけない愛らしさがあった。
「え、っと……うさちゃん?」
「きゅーぅん?」
小首を傾げる仕草に、俺の理性が一瞬で消し飛ぶ。
「か、かわい〜……ッ!」
え、何これ? 可愛すぎないか? この世界にはこんなに可愛い生物がいるのか。日本にいるうさぎよりも毛がモコモコでふわっふわだ。水で少ししぼんでいるのにこのボリューム感! はぁー、可愛い動物サイコー!
一人で大興奮していると、脱衣所のほうからダッダッダッ! と激しい足音が近づいてくるのが聞こえた。
まさか、このうさぎの親か何かか!? もっともこもこのものが来るのかと身構えたが――俺の予想は浅はかだった。
「何!? どうしたの、急に叫んで!」
勢いよく扉が開くと同時に、鼓膜が破れんばかりの悲鳴が上がる。
リノが浴室のドアを勢いよく開ける。
「キャーーーーー! えっちぃーーー!」
「ギャーーーーー! 変態ぃーーーー!」
「いや、変態はそっちだろ! 俺がタオル巻いててよかったな! まったく、感謝しろよ!」
間髪入れずにツッコミを返すと、相手はジト目でこちらを睨んできた。
「急にスンって真顔に戻るな。それに変態って言えばあんたもそうだけど……その奥のはどうなのよ」
「奥の?」
言われて振り返る。しかし、そこには先ほどまでいたはずの可愛い動物の姿はなかった。
代わりに、浴槽の縁にちょこんと腰掛けているのは――少し小柄な、白髪の少女だった。
「あーあ。とうとう犯罪者になっちゃったか。可哀想に……でも、最後に可愛い子とお風呂に入れてよかったね。シクシク」
「な、……さっきのうさちゃんは!?」
「え? その子だよ。耳はリボンみたいにくくっちゃってるけど」
「確かに目は琥珀色だけど……!」
唖然とする俺の視線に気づくと、白髪の少女は可愛らしい声で低く唸った。
「……なにジロジロ見てるわけ? 処すぞ」
「こわっ! 何この子、さっきは天使だったのに!」
豹変した態度に戦慄していると、リノが能天気につぶやいた。
「あれ? あたしさっき言わなかったっけ?」
こいつ……! 俺は怒りを爆発させ、指を突きつけた。
「あのなぁ! ここに来るときも! この家に入るときも! この中に『この子』がいることも! 前もって説明していただけますかねえ!?」
「いやぁ〜、ごめんねっ。テヘペロ☆」
「許されると思うなよ!」




