表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元おっさん、TS転生して美少女Vtuberになったら百合営業のはずがガチ恋されました〜バレたら炎上確定なのに今日も配信がやめられない〜  作者: カルラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/15

第9章「雑談配信という名の公開処刑」

 ——そして当日。


「……やばい」


 配信開始三分前。


 マイクチェック画面を見つめながら、私は小さく呟いた。


 心臓がうるさい。


 手のひらにじっとりと汗が滲む。


 これまでの配信とは、明らかに違う緊張。


 理由は単純だ。


「雑談ってなんだよ……逃げ場ないじゃん……」


 ゲームならいい。


 歌ならまだいい。


 だが雑談は違う。


 間を持たせる力。


 会話のセンス。


 素の反応。


 全部が試される。


 しかも——


『あ、聞こえますか?』


 ディスコード越しに届く声。


 月乃ルナ。


 今回のコラボ相手。


 そして。


 距離感バグの元凶。


「き、聞こえます……」


 少しだけ声が上ずる。


『よかった……!』


 ほっとしたような声。


『なんかちょっと緊張しますね』


「……ですね」


 短く返す。


 正直、それどころじゃない。


 今の俺は。


 “事故らないこと”で頭がいっぱいだ。


『でも、楽しみです』


 柔らかい声。


『二人でゆっくりお話しできるの、初めてですし』


 その一言で。


 心臓が、また強く跳ねる。


 やめろ。


 そういう言い方はやめろ。


 距離が近い。


 近すぎる。


「……ほどほどに頑張りましょう」


 なんとか平静を装う。


『ふふっ、“ほどほど”なんですね』


 くすっと笑う声。


『そこも好きです』


「…………」


 やめろ。


 マジでやめろ。


 今そういうの言われると本当に事故る。


 だが無情にも。


 配信開始の時間はやってくる。


「……いきますか」


『はい』


 小さく息を吸う音。


 そして。


 ——配信スタート。


「はい、みなさんこんばんはー!」


 スイッチが入る。


 声色を作る。


 いつもの“美少女Vtuber”の声。


「今日はですね、なんと!」


 テンションを少し高めに。


「コラボ配信ということでー!」


 コメント欄が一気に流れる。


 〈きたああああ〉

 〈待ってた〉

 〈百合きちゃ〉

 〈尊い準備完了〉


 うるさい。


 いやありがたいけど。


 心の中でツッコミながら続ける。


「お相手は、この方です!」


『こんばんは、月乃ルナです』


 落ち着いた声。


 少しだけ緊張が混じっている。


 だがそれが逆にいい。


 コメント欄がさらに加速する。


 〈ルナきたあああ〉

 〈てぇてぇ〉

 〈距離近いの助かる〉


 お前ら、全部見えてるぞ。


「今日は雑談メインで、ゆるっとお話ししていけたらなって思います!」


 無難にまとめる。


 よし、ここまでは順調。


 問題はここからだ。


『はい、いっぱいお話ししたいです』


 ルナの声。


 少しだけ弾んでいる。


『その……色々、聞いてみたいこともありますし』


 ——嫌な予感しかしない。


「え、えーと……ほどほどでお願いします……」


 弱気な前置き。


 コメント欄がざわつく。


 〈もう攻められてる〉

 〈草〉

 〈防御低すぎ〉


 うるさい。


 お前らは安全圏だろ。


 こっちは命かかってるんだぞ。


『じゃあまず……』


 ルナが少しだけ間を置く。


『好きな食べ物とか、聞いてもいいですか?』


「…………」


 シンプル。


 だが危険。


 非常に危険。


 なぜなら。


(おっさん時代の好みが出る可能性)


 ここで“焼き鳥とビール”とか言ったら終わる。


 完全終了。


 炎上待ったなし。


 だが。


 ここは無難にいく。


「えーと……甘いもの、好きですね」


 よし。


 安全。


 完璧。


『わかります! 私も好きです!』


 明るい声。


『どんなのが好きなんですか?』


 ——追加質問。


 やめろ。


 深掘りするな。


「えっと……ケーキとか……」


 ぼんやりした回答。


 逃げの一手。


『いいですね! じゃあ今度、一緒に食べに行きませんか?』


「…………は?」


 思考停止。


 コメント欄爆発。


 〈デートきたあああ〉

 〈ガチで草〉

 〈距離どうなってんの〉


 いやほんとそれ。


 どうなってんの。


「い、いやそれは……」


 拒否しようとした瞬間。


『配信ネタにもなりますし!』


 即フォロー。


 逃げ道を塞ぐな。


 上手すぎるだろ。


 いや天然か?


 天然でこれやってるのか?


 怖い。


 普通に怖い。


「……まあ、そのうち……機会があれば……」


 曖昧に逃げる。


 だが。


『約束ですよ?』


 にこっとした声。


 完全にロックされた。


「…………はい」


 負けた。


 完全敗北。


 配信は続く。


 話題は転々と変わり。


 なんとか事故らず進行し。


 コメント欄も盛り上がり。


 一見すれば、順調そのもの。


 だが。


 問題は——


『あの』


 ルナの声が少しだけ静かになる。


『ちょっと聞いてもいいですか?』


「……なんでしょう」


 嫌な予感。


 これは絶対やばい質問。


『なんで、Vtuber始めたんですか?』


「…………」


 ——来た。


 核心。


 最も触れてはいけない部分。


 元おっさん。


 転生。


 全部に繋がる質問。


 コメント欄も一瞬静まる。


 これは“答え”で評価が決まるやつだ。


 逃げるか。


 誤魔化すか。


 それとも——


 ほんの少しだけ、本音を混ぜるか。


「……なんとなく、ですかね」


 ゆっくりと口を開く。


「何か変えたくて」


 嘘ではない。


 だが真実でもない。


「それで、始めてみたら……思ったより楽しくて」


 少しだけ、言葉を選ぶ。


「気づいたら、ここまで来てた感じです」


 コメント欄が流れ出す。


 〈いい話〉

 〈急にエモい〉

 〈好き〉


 だが。


 ルナは。


『……そうなんですね』


 静かにそう言ったあと。


 少しだけ間を置いて。


『じゃあ、これからも続けてくれますか?』


「…………」


 その問いは。


 想像以上に重かった。


『私、あなたと配信するの……好きなので』


 ——その一言で。


 胸の奥が、強く締め付けられる。


 軽い気持ちで始めたはずなのに。


 今はもう。


 簡単にやめられるものじゃなくなっている。


「……はい」


 気づけば、答えていた。


「続けます」


 その言葉に。


 嘘はなかった。


 配信終了後。


 コメント欄は“てぇてぇ”で埋まり。


 同接は過去最高を更新し。


 切り抜き確定の神回と騒がれ。


 完全に——


 “バズった”。


 だがその裏で。


 距離はさらに縮まり。


 逃げ場はさらに減り。


 そして。


 “後戻りできないライン”を——


 確実に越え始めていた。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ