第5章:なぜか相性が良すぎる
地獄。
そう結論づけたはずのコラボ配信は――。
なぜか、順調に進んでいた。
いや、順調どころではない。
明らかに盛り上がっている。
「いやおかしいだろ」
思わず呟く。
『何が?』
『神回だが?』
「この状況だよ」
俺は画面を指さす。
「なんでこんなに人いるんだ」
同時接続数が、とんでもない数字になっている。
さっきまでとは桁が違う。
「ふふ」
ルナが横で笑う。
「私とコラボしてるんだから、これくらい普通よ」
「普通の基準が違う」
『草』
『慣れてない感いいぞ』
コメント欄は完全に俺をいじるモードだ。
だが、嫌な感じはしない。
むしろ――。
居心地がいい。
それが一番おかしい。
「ねえミコちゃん」
ルナがふいに話しかけてくる。
「さっきの続きだけど」
「続き?」
「好きなタイプ」
「蒸し返すな」
『やったれ』
『逃がすな』
コメント欄も完全に乗っかっている。
「いやほんと勘弁してくれ」
俺は頭を押さえる。
「こういうのはな、後で一人で反省会するやつなんだよ」
『何それww』
『社畜すぎる』
「実際するだろ」
真顔で言う。
「なんであんなこと言ったんだろうって」
『分かる』
『刺さる』
共感のコメントが流れる。
やっぱりこの路線が正解かもしれない。
「でも」
ルナが静かに言う。
「私は、今ここで聞きたいわ」
逃げ場を塞がれた。
完全に。
「……なんでそんなに攻めるんだ」
小声で言う。
「だって楽しいもの」
即答だった。
迷いが一切ない。
この人、本当に楽しんでる。
俺をおもちゃにして。
「はあ……」
ため息をつく。
だが、どこかで理解している。
この流れは、悪くない。
むしろ“美味しい”。
「分かった」
俺は観念した。
「言えばいいんだろ」
『きたああああ』
コメント欄が一気に加速する。
「えーと」
言葉を選ぶ。
慎重に。
「……距離感がちゃんとしてる人」
一番無難な答え。
これなら角は立たない。
はずだった。
一瞬の沈黙。
そして――。
「それ、私のこと否定してる?」
「違う違う違う」
即座に否定した。
『アウトwww』
『刺さってる』
「いやそういう意味じゃない」
慌ててフォローする。
「単純に、落ち着くっていうか」
「ふうん」
ルナがじっとこちらを見る。
その視線が、妙に鋭い。
「じゃあ、私は落ち着かない?」
「落ち着かない」
反射的に答えてしまった。
一瞬の静寂。
そして――。
『言ったwwww』
『正直すぎる』
爆笑のコメントが流れる。
しまった。
完全に失言だ。
「いや待て」
俺は慌てて言い直す。
「違う、そういう意味じゃなくて」
「いいのよ」
ルナが小さく笑う。
「正直で」
その表情は、怒っている様子ではない。
むしろ――。
どこか嬉しそうだ。
「あなた、本当に面白いわね」
「さっきからそればっかりだな」
「だって本当だもの」
さらりと言う。
その言葉に、少しだけ照れる。
いや待て。
なんで照れてるんだ俺。
『距離縮まってるな』
『いいぞ』
コメント欄も同じことを言っている。
……否定できない。
「ねえ」
ルナがまた少し近づく。
さっきより自然な動きだ。
俺も、さっきほどは動揺しない。
……慣れてきてる?
「今度は私が質問してもいい?」
「もうしてるだろ」
「ちゃんとしたやつ」
「今のがちゃんとしてないのか」
『草』
ツッコミを入れつつ、頷く。
「いいけど」
「ありがとう」
ルナは少しだけ考える。
そして――。
「どうして、そんなに自然体でいられるの?」
「は?」
予想外の質問だった。
「いや自然体っていうか」
言葉に詰まる。
「何も考えてないだけだぞ」
『それが強い』
「違うわ」
ルナが首を振る。
「普通は、もっと取り繕うものよ」
「取り繕ってどうする」
「嫌われないようにするの」
「それで疲れるなら意味ないだろ」
即答だった。
一瞬、コメント欄が止まる。
そして――。
『それな』
『正論すぎる』
静かに流れ始める。
さっきまでの騒がしさとは違う、落ち着いた反応。
ルナも、少しだけ目を細めていた。
「……そうね」
小さく呟く。
「あなたの言う通りかもしれない」
その声音は、どこか柔らかい。
さっきまでとは違う。
演技じゃない。
そんな気がした。
「まあ」
俺は肩をすくめる。
「どうせ一回死んでるしな」
『またそれ言うww』
「だから細かいこと気にしても仕方ない」
軽く笑う。
だがその瞬間。
ルナの視線が、ほんの少しだけ変わった。
「……本当に」
静かに言う。
「変わってるわね」
「よく言われる」
適当に返す。
だが、なぜか。
その言葉は――。
さっきまでとは違う意味を持っている気がした。
ただの“面白い”じゃない。
もっと、深い何か。
それを感じ取ってしまう。
『これガチで相性いいやつでは?』
『化学反応起きてる』
コメント欄がざわつく。
俺も、同じことを思っていた。
正直、やりづらい相手だと思っていた。
だが実際は――。
会話が噛み合う。
むしろ、妙にしっくりくる。
「……なんだこれ」
思わず呟いた。
「どうかした?」
ルナが聞く。
「いや」
少しだけ笑う。
「思ったより普通に話せてるなって」
「そうね」
ルナも微笑む。
「私もそう思ってたところ」
その瞬間。
コメント欄が一斉に流れる。
『相性良すぎ』
『これは来る』
俺は画面を見ながら、苦笑する。
認めたくはない。
だが――。
これはもう。
ただのコラボじゃない。
何かが、始まっている。
そんな予感がした。




