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元おっさん、TS転生して美少女Vtuberになったら百合営業のはずがガチ恋されました〜バレたら炎上確定なのに今日も配信がやめられない〜  作者: カルラ


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第2章:おっさんトークが武器になる

 配信が終わった瞬間、俺は椅子にもたれかかった。


「……疲れた」


 思わず本音が漏れる。


 全身の力が一気に抜けたような感覚。

 だが不思議と、嫌な疲れではない。


 むしろ妙に高揚している。


「お疲れ様でした」


 横から声がかかる。


 あのスーツの女性だ。


「どうでしたか」


「どうって……」


 俺は少し考える。


「意味が分からない」


 正直な感想だった。


「なんであれでウケるんですか」


 女性はくすりと笑う。


「“素”が出ているからです」


「素?」


「普通のVtuberは、キャラを作ります。

 でもあなたは違う」


「作る余裕がなかっただけなんだが」


「それがいいんです」


 断言された。


「嘘くさい可愛さより、違和感のあるリアルの方が人は惹かれます」


「違和感って言ったな今」


「褒め言葉です」


 なんとも釈然としない。


 だが、画面をちらりと見ると納得せざるを得なかった。


 同時接続数のログ。


 開始時より明らかに増えている。


 そして、SNSのトレンド欄。


「……は?」


 俺は思わず声を上げる。


「“中身おっさんVtuber”って何だこれ」


「あなたです」


「やめろ」


 即否定した。


「違います」


「ですが今、かなり拡散されています」


「やめろって言ってるだろ」


 だが止まらない。


 タイムラインには切り抜き動画が流れている。


 俺が「社畜」だの「死後」だの言った場面。


 しかも字幕付きで。


「仕事が早すぎるだろ」


「優秀な切り抜き師が多いんですよ」


「ありがた迷惑だな」


 いや、ありがたいのか。


 分からない。


「とりあえず、次の配信の準備をしましょう」


「もうやるのか」


「もちろんです」


「鬼か」


 女性は平然としている。


「今が伸びるタイミングです」


「ブラック企業だな本当に」


「人気商売ですので」


 ぐうの音も出ない。


 俺はため息をつきながら立ち上がる。


「で、次は何やるんだ」


「雑談です」


「またか」


「あなたの場合、それが一番強い」


 即答だった。


 否定できないのが悔しい。


 数時間後。


 再び配信画面の前に座る。


 今度はさっきより少しだけ余裕がある。


 ……気がする。


 画面を見る。


 待機コメントがすでに流れている。


『また来た』

『2回行動助かる』

『おっさん待機』


「やめろその呼び方」


 配信前なのに思わずツッコんだ。


 マイクはまだオンじゃない。


 ……はずだ。


「聞こえてないよな」


「まだです」


 スタッフが頷く。


 よし。


 深呼吸。


 今度は少しだけ、自分から話してみるか。


「では、始めます」


 カウントは短かった。


 すぐに配信が始まる。


『きたあああ』

『待ってた』


「はいどうも」


 俺は軽く手を振る。


「白雪ミコです」


『かわいい』

『声好き』


 この流れにも、少し慣れてきた。


「いやー」


 俺は椅子に寄りかかる。


「さっきの配信、なんかえらいことになってるみたいで」


『トレンド1位おめ』

『バズってるぞ』


「マジかよ」


 素で驚いた。


「俺、そんな大したこと言ってないぞ」


『そこがいい』

『自然体すぎる』


「自然体っていうか、何も考えてないだけなんだが」


『それが強い』


「そういうもんかね」


 首をかしげる。


 だが、コメントの勢いは止まらない。


 むしろ増えている。


「まあでも」


 俺は少しだけ笑う。


「会社の飲み会で愚痴ってた時よりは、反応いいな」


『草』

『比較対象それなの?』


「だってあの時は誰も聞いてなかったぞ」


 しみじみと言う。


「上司は自分の話しかしないし、後輩はスマホ見てるし」


『リアルすぎる』

『やめてくれ刺さる』


「いやほんと」


 思い出してちょっとイラッとする。


「なんでああいう場って、こっちが金払ってるのにストレス溜まるんだろうな」


『それな』

『名言出た』


「いや名言じゃないだろ」


 笑いながら否定する。


 でも、コメント欄の温度が上がっているのは分かる。


 共感。


 それがこんなに気持ちいいものだとは思わなかった。


「でもまあ」


 少しだけ声を落とす。


「今こうやって、誰かが聞いてくれてるっていうのは」


 言葉を選ぶ。


「……悪くないな」


 一瞬の間。


 そして――。


『好き』

『泣いた』

『急にエモいのやめろ』


「やめろ泣くな」


 慌ててツッコむ。


 空気が少し柔らかくなる。


 いい流れだ。


 その時だった。


『コラボ予定ある?』


 コメントが流れる。


 俺は一瞬固まる。


「コラボ?」


 思わず復唱する。


「いやー、どうだろうな」


 正直、想像もしていなかった。


 だが――。


 スタッフが、画面の外で何かジェスチャーをしている。


 OKサイン。


 そして、口の動き。


 “言え”。


「……あー」


 嫌な予感しかしない。


「実はですね」


 俺は乾いた笑いを浮かべる。


「近いうちに、コラボ予定があります」


 コメント欄が爆発した。


『誰!?』

『はやすぎww』

『新人で!?』


「いや俺もびっくりしてる」


 本音だ。


「相手は……まあ、そのうち発表されると思う」


 逃げた。


 完全に逃げた。


 だが、それでいいらしい。


 コメントはさらに加速する。


『期待』

『絶対見る』


 その熱量に、少しだけ圧倒される。


 同時に――。


 妙な予感がした。


 これは、多分。


 かなり面倒なことになる。


「まあでも」


 俺は苦笑しながら言う。


「相手が誰でも、やることは一つだな」


 マイクに近づく。


「普通に話すだけだ」


『それができるのが強い』

『無敵か?』


「無敵じゃない」


 即答する。


「むしろめちゃくちゃ不安だ」


 それも本音だ。


 だが、その不安すらも――。


 今は少しだけ、楽しい。


 画面の向こうに、誰かがいる。


 それだけで、こんなにも世界は変わるのか。


「というわけで」


 俺は軽く手を振る。


「次の配信も、よろしくお願いします」


 コメントが流れ続ける。


 終わりの挨拶をしても、なお。


 止まらない。


 その光景を見ながら、俺は思う。


 ――これはもう、引き返せないな。














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