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蒼の樹海の魔素使い——魔法が使えない少年は、世界の秘密を視ていた  作者: 蒼月よる


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第34話 地下の都

第七話 地下の都


 核獣は、通路の先に立っていた。


 立っていた、という表現が正しいのか分からない。それは人型だった。だが、人間ではなかった。

 全身が魔石のように光っていた。透視で見ると、体の内部に膨大な回路が走っている。皮膚も筋肉もない。骨格のような構造の上に回路が幾重にも巻きついて、人の形を模している。腕が四本あった。上の二本は太く、下の二本は細い。頭部に当たる部分には顔がない。ただ、回路の集積が光を放っていた。白く、強く、脈動する光。

 高さはカイさんの二倍ほど。通路の天井に頭部がぶつかりそうなほど大きい。体の隙間から光が漏れていて、通路全体が白く照らされていた。

「危険度A……実物を見るのは初めてだ」

 ルークさんの声が緊張で硬くなっていた。

「体全体が魔石構造。遺跡の魔素を吸収して成長し続ける存在。討伐記録はほとんどない。なぜなら——遭遇した者が帰ってこないからだ」

「帰ってくるさ」

 カイさんが剣を構えた。声は平静だが、足の位置が変わっていた。いつでも動けるように、重心を低く落としている。

「ルーク。弱点は」

「核回路だ。体のどこかに、全身の回路を制御する中枢がある。それを破壊すれば——理論上は倒せる」

「理論上かよ」

「場所を特定できれば確実だ。——ユーリ」

「分かってる」

 僕は透視を最大限に集中させた。核獣の体内を透かし見る。膨大な回路の海の中から、中枢を探す。

 回路が密集しすぎていて、すぐには見つからなかった。全身が回路なのだ。どこが中枢で、どこが末端なのか——

 核獣が動いた。


 速かった。

 あの巨体が、一瞬で間合いを詰めてきた。上の二本の腕が振り下ろされる。カイさんが横に転がって回避した。腕が石の床を打つと、衝撃波が通路に広がった。床に亀裂が走る。

「重い——! 近接は危険だ!」

 カイさんが叫んだ。

「セラス! 援護を!」

「——裂けよ」

 セラスさんの短詠唱。二文字だ。

 白い光の刃が空を切り、核獣の右腕に当たった。光の刃は腕の表面に食い込み——弾かれた。

「硬い。外殻の回路が防壁になっている」

 セラスさんが歯を食いしばった。

「通常の魔法攻撃では表面を削るのが精一杯です」

「物理はどうだ!」

 カイさんが踏み込んだ。蒼牙の剣が弧を描いて、核獣の下半身に叩きつけられた。金属を打つような甲高い音が響いた。剣は——数寸だけ食い込んで、止まった。

「くそ、硬えな! だが——完全には弾かない! 物理は通る!」

「回路の隙間を狙え。回路が薄い部分があるはずだ」

 ルークさんが叫んだ。

「ユーリ、見えるか!」

「見てる——待って、まだ——」

 核獣が四本の腕を広げた。

 体の中の回路が、一斉に輝いた。

「伏せろ!」

 カイさんが叫ぶのと同時に、核獣の胸部から——光の奔流が放たれた。

 魔素ビームだ。

 高密度の魔素を凝縮して射出する。通路の壁が、光に触れた部分から蒸発した。石が焼けて、煙が上がる。

 僕たちは通路の曲がり角に飛び込んで、ビームを回避した。心臓が破裂しそうなほど打っていた。

「再生するぞ」

 ルークさんが言った。覗き込むと——カイさんが斬った傷が、もう塞がりかけていた。回路が傷口に集まって、表面を修復している。

「遺跡の魔素を吸収して再生する。周囲の魔素が枯渇しない限り、傷は回復し続ける」

「つまり、小さな傷をいくら重ねても無駄ってことか」

 カイさんが剣についた破片を払った。

「一撃で核回路を潰すしかない」


「ユーリくん、大丈夫?」

 ミラさんが僕の腕を掴んだ。回避のときに壁に肩をぶつけていた。痛みはあるが、折れてはいない。

「大丈夫。——ミラさん、後方に下がって。治療の準備を」

「分かった。気をつけてね」

 ミラさんが後方に移動した。薬箱を開いて、止血薬と包帯を手元に並べている。


 僕は透視をもう一度集中させた。

 核獣の体内。回路の密度が特に高い場所を探す。全身が回路だが——流れの向きがある。回路を流れる魔素には方向がある。デルガの遺跡で学んだことだ。回路には中心がある。全ての流れが集まる場所がある。

 流れを辿った。

 腕の回路から胴体へ。胴体の回路が——胸の中央に向かって収束している。そこだ。胸の中央、やや左寄り。回路が渦のように巻いている場所。密度が極端に高い。

「見つけた。胸の中央、やや左。回路の渦がある。そこが核だ」

「左胸か。位置的には心臓と同じだな」

 カイさんが目を細めた。

「だが、問題がある。あの腕四本が邪魔だ。胸に近づけない」

「加えて、魔素ビーム。チャージに数秒かかるが、撃たれたら終わりだ」

 ルークさんが分析した。

「攻撃パターンを整理しよう。上の二本の腕による打撃。下の二本の腕の変形攻撃——さっき見た限り、下の腕は形を変えられる。刃になったり、鞭になったりする可能性がある。そして魔素ビーム。チャージ中は動きが止まる。ビームの射線は直線だ」

「ビームのチャージ中が狙い目か」

「ああ。だが、チャージ中でも腕は動く。腕を抑えないと胸に届かない」

 カイさんとルークさんが視線を交わした。そして——二人同時にセラスさんを見た。


「セラス」

 カイさんが言った。名前を呼び捨てにしたのは、たぶん無意識だった。

「お前の魔法で、腕を止められるか」

「……拘束魔法なら。ただし、四本全てを同時に止めるのは難しい。二本が限界です」

「二本で十分だ。上の二本を止めてくれ。下の二本は俺が捌く。その間に——」

「その間に、胸の核を攻撃する手段が要りますね」

 セラスさんが言った。目が冷静だった。聖騎士の目。戦い慣れた者の目。

「私の攻撃魔法は表面で弾かれました。しかし——あなたの剣は食い込んだ。物理攻撃のほうが有効です」

「俺が下の腕を捌きながら胸まで行く。最後の一撃は物理で——」

「いえ。逆です」

 セラスさんが一歩前に出た。

「あなたが上の腕を引きつけてください。私が——胸に魔法を撃ち込みます」

「お前の魔法は弾かれただろう」

「表面からは。ですが——核回路の位置が分かったなら、話は変わります」

 セラスさんが僕を見た。

「ユーリ。核回路の位置を、もっと正確に教えてくれますか。回路の隙間——外殻が薄い部分がどこにあるか」

 もう一度、透視で核獣を見た。胸の中央の核を中心に、外殻の回路構造を精密に観察する。

「……ある。核の直上、指三本分だけ右にずれた位置に——回路が薄くなってる箇所がある。外殻の裂け目みたいなもの。そこなら、魔法が——」

「通る」

 セラスさんが断言した。

「狭い隙間に魔力を集中させて撃ち込む。短詠唱なら精度を出せます。——ただし、一撃で決めなければなりません。二度目のチャンスはない」


 作戦が決まった。

 カイさんが前衛で核獣の注意を引く。上の腕を引きつけ、下の腕を捌く。僕が透視でリアルタイムに核獣の動きと核の位置を伝える。ルークさんが通路の構造を利用して、魔素ビームの射線を予測し回避指示を出す。セラスさんが最大火力の短詠唱を、核の隙間に撃ち込む。ミラさんが後方で負傷者の治療に備える。

「行くぞ」

 カイさんが剣を構えた。

「カイさん。ビームのチャージが始まったら、合図する。三秒間だけ動きが止まる。そのときに——」

「分かった」

「セラスさん。合図してから、三秒後に胸の左上——指三本分右の位置に」

「了解しました」

 セラスさんの目が据わっていた。迷いがなかった。


 通路の角から飛び出した。

 核獣は、同じ場所に立っていた。傷は完全に修復されている。四本の腕をだらりと下げて、頭部の光がゆっくりと脈動していた。

 カイさんが走った。

 全速力。蒼牙の剣を低く構えて、核獣に突っ込む。核獣が反応した。上の二本の腕が振り上げられる。

「右から来る!」

 僕が叫んだ。カイさんが体を左に逸らした。右腕が空を切って、床を砕いた。石の破片が飛び散る。

 カイさんが剣を振り上げた。核獣の右腕の関節部分——回路が薄い部分を狙って斬りつけた。甲高い音。火花が散った。浅い傷だが、核獣の動きが一瞬止まった。

 左腕が振り下ろされる。

「カイさん左!」

 カイさんが後退した。腕が床を打つ。衝撃で体が浮きかけたが、カイさんは踏みとどまった。

 下の二本の腕が動いた。細い腕が——変形した。先端が刃のように鋭くなり、横薙ぎに振るわれた。

「下も来る! 刃に変わった!」

 カイさんが剣で受けた。金属がぶつかる音。カイさんの腕が震えた。

「重い——が、受けられる!」

 カイさんが押し返した。刃を弾いて、さらに一歩踏み込む。核獣の懐に入った。

 核獣の胸が光り始めた。

「チャージだ! カイさん、離れて!」

 カイさんが飛び退いた。核獣の動きが止まる。全身の回路が胸に集中していく。三秒後に、魔素ビームが来る。

「セラスさん、今!」

「——穿て」

 セラスさんの短詠唱。

 白い光の槍が、セラスさんの手から放たれた。通常の魔法攻撃とは桁が違う。光が凝縮されて、針のように細く、鋭い。

 光の槍が核獣の胸に吸い込まれた。指三本分右の位置——外殻が薄い隙間に、寸分の狂いなく。

 核獣が——悲鳴のようなものを上げた。声ではない。回路が共振して、空気が震えた。通路全体がびりびりと振動した。

 だが、倒れなかった。

 光の槍は核に届いた。だが——核が硬い。回路の渦が、槍を押し返そうとしている。

「足りない——! 核の回路が槍を弾こうとしてる!」

「くそ——追撃する!」

 カイさんが反転した。核獣の動きがビームのチャージで止まっている今しかない。蒼牙の剣を握り直して、全身の力を込めて走った。

 核獣のビームが発射された。光の奔流が通路を焼く——が、カイさんは核獣の真下にいた。射線の死角だ。

 カイさんが跳んだ。

 剣を両手で握り、渾身の力で——セラスさんの光の槍が刺さった場所に、蒼牙の刃を叩き込んだ。


 物理と魔法が、同時に核に到達した。


 光の槍が核の防壁を削り、蒼牙の剣がその隙間を抉った。回路の渦が——割れた。


 核獣の全身の光が、一斉に明滅した。四本の腕がだらりと垂れた。頭部の光が——消えた。

 そして、巨体がゆっくりと、膝から崩れ落ちた。

 回路が一本ずつ消灯していく。全身を覆っていた光が消え、灰色の——魔石の塊が、通路に横たわった。


 静寂が戻った。

 僕の心臓が耳の中で暴れていた。


「……倒した、のか」

 カイさんが剣を引き抜いた。刃が欠けていた。蒼牙の剣が——欠けていた。それほど硬い相手だった。

「核回路の崩壊を確認した。——死んでいる」

 ルークさんが核獣の残骸に近づいた。手が震えていたが、目は冷静だった。

「セラス。あの一撃——見事だった」

 カイさんがセラスさんを見た。カイさんの顔に、汗が流れていた。息が荒い。でも——笑っていた。

「お前の魔法がなかったら、核に届かなかった」

「あなたの剣がなければ、私の魔法だけでは砕けませんでした」

 セラスさんも息が上がっていた。白い装束に汗が滲んでいる。でも——その顔に、かすかな笑みがあった。

「互いの弱点を、互いが補った。——良い連携でした」

「ああ。悪くない」

 カイさんが剣を鞘に戻した。欠けた刃が鞘の中でかちりと鳴った。

「カイさん! 左腕怪我してる!」

 ミラさんが走り寄った。カイさんの左腕に、浅い切り傷があった。下の腕の刃を受けたときのものだろう。

「大したことねえよ」

「大したことあるよ! 核獣の攻撃を受けた傷だよ? 魔石由来の毒素が入ってるかもしれないでしょ」

 ミラさんが問答無用でカイさんの腕を掴み、傷口を確認した。薬箱から解毒の軟膏を取り出して、手際よく塗り込んでいく。

「あ——治癒魔法も使える。魔素が戻ってるから」

 ミラさんの手が淡い緑色の光を帯びた。治癒魔法だ。傷口の周囲に光が浸透して、皮膚がゆっくりと塞がっていく。

「あと、ユーリくんも。肩ぶつけたでしょ。見せて」

「えっと、僕は大丈夫——」

「見せて」

 有無を言わさぬ声だった。僕は素直に革鎧をずらした。肩に青あざができていた。ミラさんが軟膏を塗ってくれた。冷たくて、少しだけ沁みた。


 治療が終わった後、ルークさんが核獣の残骸を調べていた。


「これを見てくれ」

 ルークさんが核獣の胸の中央——核があった場所から、何かを取り出した。

 魔石だった。

 だが、今まで見たどの魔石とも違った。

 拳よりも二回りほど大きい。形は楕円。色は——透明に近い白。表面が滑らかで、内部に精密な回路が走っている。透視で見ると、その回路の密度は——信じられないほど高い。苔巨人の核石とは、まるで比較にならなかった。

「核魔石だ」

 ルークさんが手の上で慎重に転がした。

「超高純度。回路の密度が桁違いだ。これ一つの中に、デルガの遺跡のノード級の情報処理能力がある」

「つまり、すごく高いってことだろ」

 カイさんが覗き込んだ。

「高い、なんてものじゃない。値段がつかない。——いや、値段のつけようがない」

 ルークさんが首を振った。

「これ一つで家が建つぞ」

 カイさんが目を丸くした。

「いや、これは売るものじゃない」

 ルークさんが核魔石を布で包んだ。丁寧に、壊れ物を扱うように。

「研究素材だ。この核魔石の回路構造を解析すれば、遺跡のネットワークについて膨大な情報が得られる。売って金にするには——もったいなさすぎる」

「罠師が金の話を渋るとはな」

「俺は元々、金より知識のほうが好きなんだ」

 ルークさんが真顔で言った。

 カイさんが肩をすくめた。

「まあいい。持ち帰ってから考えよう」

「セラスさん。核魔石を持ち出すことは——大丈夫ですか」

 僕がセラスさんに聞いた。禁忌に触れるかもしれない。

「……核獣は遺跡の魔素から自然発生した存在です。遺物とは異なります。持ち出しについて——明確な規定はありません」

 セラスさんの答えは慎重だったが、禁止とは言わなかった。


 核獣の残骸から、他にも素材を回収した。

 魔石構造の外殻片。指先大の破片だが、硬度は蒼牙を超える。武器や防具の素材として最上級だ。ルークさんが十数個の破片を丁寧に布に包んで収納した。

「外殻片だけでも、銀牌の冒険者が一年働いた以上の価値がある」

「本当に?」

「本当だ。核獣の素材は市場にほとんど出回らない。出回ったとしても、買い手は国家か大手の遺物商に限られる」

 ガゼルさんの顔が浮かんだ。あの遺物商なら、目の色を変えるだろう。


 素材を回収し終えた後、さらに奥へ進んだ。


 核獣がいた場所を越えると、通路の雰囲気が変わった。壁の回路がさらに密になり、光の色が青白から——わずかに金色を帯び始めた。空気が重い。魔素の濃度が、遺跡の入口とは比較にならないほど高くなっている。

 透視で見ると、通路の先に——巨大な空間が広がっていた。

「この先に、大きな部屋がある。通路の幅の十倍くらいの空間。天井も高い。そして——壁一面に回路がある。密度が……今までで一番高い」

「ノードか」

「たぶん。でも——デルガのノードより、ずっと大きい」

 僕たちは通路の出口に立った。

 大空間が広がっていた。

 かつての地下広場か、集会場か。天井が高く、壁は半円形にカーブしている。壁一面に回路が走っていて、金色の光が脈動していた。床にも回路がある。天井にもある。部屋全体が一つの巨大な回路盤だった。

「これは——」

 ルークさんが言葉を失った。

「デルガの十倍どころじゃない。回路の層が——五層、六層、七層……何層あるんだ。入れ子構造になっている」

「都市の地下全体のネットワーク中枢だ。全ての回路がここに集まっている」

 僕の透視が、空間全体の回路の流れを捉えていた。壁から天井から床から、全ての回路が——部屋の中央に向かって収束している。

 中央に、台座があった。デルガのノードと似た形。だが、大きさが違う。人の背丈ほどの高さがある石の台座で、表面に回路が集中している。光が台座の上で渦を巻いていた。

「これがこの遺跡の核心だ」

 ルークさんが台座に近づいた。だが、触れなかった。デルガでの経験がある。防護回路のチェックが先だ。

「ユーリ。防護回路は」

「ある。デルガと同じ構造だけど——層が厚い。隙間は……」

 透視を集中させた。目の奥が痛み始めた。長時間の透視使用で、体力の消耗が蓄積している。

「ある。でも、デルガのときより小さい。指先一本分くらいの隙間が——台座の右側面に」

「今日はここまでにしよう」

 カイさんが言った。

「ユーリの目が限界に近い。核獣との戦闘もあった。全員疲れている。ノードの調査は明日だ」

 ルークさんが何か言いかけたが——僕の顔を見て、口を閉じた。たぶん、僕はひどい顔をしていたのだろう。目の奥が熱くて、視界の端がぼやけ始めていた。透視の代償だ。

「……賛成です。無理をして失敗するより、万全の状態で臨むべきです」

 セラスさんが静かに言った。


 大空間の隅で野営をした。


 核獣の素材で焚き火はできないので、セラスさんの光球を灯り代わりにした。白い光が、壁の回路の光と混ざって、不思議な色合いの空間になった。

 貯蔵庫で見つけた粉を水で溶いて粥を作り、干し肉を刻んで混ぜた。ミラさんが薬草の乾燥粉を少しだけ加えた。

「これで少しは味が出るよ。胃にもやさしいし」

 粥は温かくはなかったが、腹に溜まった。干し肉の塩気と薬草の苦味が混ざって、素朴な味になった。五人で器を回して食べた。器は一つしかなかったから。

「遺跡の中で食事を取るなんて、初めてだな」

 カイさんが器をミラさんに渡した。

「ルーク、お前は?」

「デルガの遺跡で一度だけある。だが、あのときは携行食だけだった。こうして調理した食事は初めてだ」

「調理って言うほどのものじゃないけどね」

 ミラさんが笑った。それから、セラスさんに器を差し出した。

「セラスさんも。もう一杯どう?」

「……いただきます」

 セラスさんが器を受け取った。一口食べて——

「美味しいです。薬草が……温かい味がしますね」

「でしょ? この薬草、胃を温める効果があるの。地下は冷えるから、ちょうどいいかなって」

 ミラさんとセラスさんが、食事を介して言葉を交わしている。小さなやり取りだった。でも、隠れ里で初めて会ったときより——距離が近くなっている。戦闘を共に経験したことで、何かが変わったのだろう。


 食後、当番を決めて見張りについた。遺跡の中に核獣以外の脅威がないとは限らない。

 一番手がカイさん、二番手が僕、三番手がセラスさん、四番手がルークさん。ミラさんは見張りから外した。明日、僕が透視を使いすぎて倒れた場合に備えて、ミラさんには十分に休んでもらう必要があった。

「無理しないでね、ユーリくん。目が痛くなったらすぐに言って」

「うん。ありがとう、ミラさん」


 石の床の上に外套を敷いて横になった。硬いが、疲労のおかげですぐに眠れそうだった。

 目を閉じる前に、台座を見た。金色の光が脈動している。あの中に何があるのか。明日、触れたら——何が分かるのか。

 デルガのノードに触れたとき、ネットワークの地図が流れ込んできた。透視が覚醒した。今度は——何が起きるのだろう。

 期待と不安が入り混じった気持ちのまま、僕は目を閉じた。


 隣から、カイさんの声が聞こえた。剣の手入れをしながら、独り言のように。

「聖騎士との共闘か。——悪くない。悪くなかった」

 その声を最後に聞きながら、僕は眠りに落ちた。


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