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高価な薬草










 ……目を開けると懐かしい天井が映り、部屋を漂う独特な薬草の匂いが少し鼻を突く。



 ベッドから上体を起こそうと身体に力に入れる。



「ーーっっい!!!!…………っっっっ痛ぅぅ……」



 胸の上辺りに激痛が走る。

 身体中の筋肉も動くことを拒む様に痛み出す。



 上体の起こすのを諦めた。





「…………生き……てる……」



 

 意識がぼんやりする中ボソッと独り言を漏らした。



「…………ふぅ…………」

(ええっと……)



 深呼吸して状況を整理する。





 私はネイナと森に向かった……。


 そう……村で特級モンスター討伐の噂を聞いたネイナが【森のレイス】を助けたいと私にせがんで来て断わりきれなかったんだ。



 おぞましい程の殺気を垂れ流す得体の知れない化け物【森のレイス】を助けることに疑問を抱いていた……ところが向かった先で目の当たりにしたのは上級騎士に蹂躙される化け物だった。



 彼らから背を向け、地を這って力なく助け求めるように見えたレイスを……ただの人の様に感じた。




 死を待つだけの私を病から救ってくれた【恩人】の窮地に……身体は自然と動いた。



 とはいえ……レイスと上級騎士の間に入り、振り下ろされる刃を止めながらも不用心にレイスに近づくネイナにハラハラさせられたのを覚えている。



 そしてその後は確か…………。




 ーーガチャッッ!!!!ーー



「ーーーー起きたぁ!!?おねーちゃん起きたぁっっ!?まだ!?まだなの?もぅーー……」




 力任せに扉を開け、耳に響く声で話すネイナが部屋に入ってきた。(しかも自己完結……あと、うるさい)




 少し冷ややかな目線をネイナに送る。



 程なくして目が合う。




「お姉ちゃん!!」

「………………っっ」(声が……身体に響く……)



 「声を抑えて」とは言わずに無言で目を細めた。




「何よーその顔ーーっ!!お姉ちゃん運んだの誰だと思ってるのーー!?大変だったんだよーー!?」




 この子…………そもそも誰のせいで王国騎士に喧嘩売る羽目になったと思って……、いやそれはレイスを助けに行く決めた時点で想定できた……想定外だったのが、たかが特級一体に【王国最強の魔術師】と【国家戦力に相当する1人】が出向いてきたこと。ネイナを責めるのはちょっと違う気がする……。



 ネイナに言い返す言葉が喉まで出かかったが、大きなため息と共に飲み込んだ。



「……はぁ……」

(とりあえず元気そうでよかったわ……)





「何よー……」



 ブスッとした顔でネイナが不服を漏らす。



「ネイナ……あの後どうなったの?え……っと……レーコさんは……?それに他の……」

「詳しくは分かりませんけどもっ!!」



 ネイナはベッドの横に椅子を持ってきてドカっと座りハキハキと不明瞭であると宣言した。



「起きたらアタシ達以外誰もいなくなってたんだよ……あ、なんかね……地面がめっちゃ割れてた」





 なんじゃそりゃ……。 



 今ひとつ要領を得ない妹の回答はもはや謎解きのようだ……。



「あ、あとね!周りにとんでもなく高価で希少な薬草が何種も山盛り咲いてたんだよ?凄くない?これ調合したら超高級回復薬ポーションが作れちゃうんだよ!」

「…………なんだか楽しそうね」

「完成したらお姉ちゃんの怪我なんかすぐ治しちゃうから!ちょっと待っててねー」

「あ……ちょ待っ!!……もう……」


 思いもよらず手に入ったらしい高価な薬草に上機嫌なネイナは足取りを軽くして部屋を出ていった。





 結局、森のレイスや戴始爵、魔導卿の事は何もネイナから情報を得ることは出来なかった……。


 




 



 



 

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