代償魔法
「……ァ……ァガッ!!ァ……ハァッ!!ハァッ!ハァッ!ハァッハァッ!!ハァ……ハァ……」
眼の前に四つん這いで苦しそうに呼吸する戴始爵の姿が見える。
「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」
自身も息を荒くしながらも徐々に整えていく。
「……ハァ……成功……したようですね……ハァ…………フゥ…………」
周りを見渡すと見慣れた調度品や床の大きな魔法陣、ここはアトワイズ王宮の転送陣の間だ。
「ハァ……ガハ!ゴホッ!ゴホッ!……ハァ……ハァ……グ……グレン卿……すまぬ、助かった……」
「……ご無事で何よりです戴始爵様……」
疲弊しつつも会話をした直後、転送陣の間に慌ただしく人がなだれ込んできた。
「ーーっ師匠!!」
「師匠!」
「ザビティ先生!」
「戴始爵様!」
「すぐ医務室へ連れて行くぞ、丁重にな」
「はい!」
メリーを先頭に弟子たち3人が転送陣の間に入ってきた後に続き、医官達数人が入ってきて戴始爵に駆け寄り指示を出しあって医務室に連れて行った。
「師匠!無事で良かった!」
一番弟子のメリーは人目も構わずローブを掴んで私の腹部に顔をうずめる。
「おいおいメリー、師匠がそんな簡単にやられるわけねーだろ!?心配し過ぎなんだよ、なぁイーデン……」
「いやお前もさっきまで結構心配してだだろセザン……」
弟子たちの他愛もないやり取りに安堵した一方でメリーの顔色がみるみる青ざめていく。
「…………し……師匠?……どうゆうこと……?」
察しの良い子だ……メリーは私同様、魔力を読み取ることに長けた魔術師であるが故に無意識で私の魔力を読み取って心身の状態を知ろうとしたのだろう。
そして気づいてしまった。
【私に内在しているはずの魔力が根こそぎ無くっていることを】
「……ハハハ……メリーに隠し事は出来ませんね、どうやら私は【ここまでのようです】」
「……な……なに言って……」
「メリー……私は代償魔法を使いました……そして、その代償に【魔力の器】を失ったようです」
「ーーっっ!!……」
言葉を遮るように告げた内容にメリーは音を立てて息を吸い込み、手で口を覆い言葉を失った。
メリーの後ろにいるセザンとイーデンは状況を飲み込めていない様子を見せる。魔術師ではない2人には無理もないことだがメリーの様子を見て理由もわからず動揺し始める。
「な、なぁメリー……説明してくれよ?師匠は……なんともないんだろ?……なぁ!?」
思わず問い詰めるセザン。
「………………」
もはやショック過ぎて聞こえていないのか……メリーは返答しない。更に動揺するセザンとイーデンは助けを求めるように視線を私に移す。
「…………【魔力の器】とは人体で魔力を作り、留め、行使する上で魔術師にとって無くてはならない器官でね……」
私はゆっくりと話始めた。
「……【魔力の器】の容量、質はその術師の器量そのもの……才能や素質と言っても過言ではない……私はそれを【森のレイス】との戦闘で失いました……魔術師としてのザビティ・グレンはもうここまで……終いということです」
「師匠……」
「ザビティ先生……」
ガクッと肩を落とすように視線を落とす2人は力なく私を指す言葉をこぼす。
「……いや……いやいや、命があっただけ良いじゃねぇか!なぁイーデン!」
「そ、そうですよね!……そうですよ!ねぇザビティ先生!」
「……ええ……そうですね、2人の言う通りです」
「………………」
暗い雰囲気を変えるためにわざと大きい声で会話する2人とは対象的にメリーは黙ったまま下を向いている。
「魔法使えなくても師匠は俺達の師匠だしよ!それに魔法のことも戦術のこともこの国の誰よりも知識があるじゃんよ!魔法が使えないくらいどってことーーーー」
『ーーーー師匠はっっ!!』
メリーはセザンの声を遮って大声を張り上げ沈黙を破った。
「……し……師匠は……心臓が……悪いんだよ…………仮面してるから分かりにくいけど、歳も結構いってるんだよ……たぶん他にも悪いとこがいっぱいある……」
「な……なんだよ!そんなん医者に見せりゃいいだろ!?」
「もう……そうゆうレベルじゃ……ないんだよ、でも師匠は……緻密っていうのも生ぬるいほどの難しい魔力操作で生命を維持していたんだよ……ずっと……ずっ……と」
ーーこれは驚いたなっ……この子はそんなことまで解るのかっーー。魔力への見識が……感じ方の次元が違う……とんでもない才能だ。
目に大粒の涙を浮かべながらも私の内情を正しく理解していたことを話すメリーに驚きを隠せずに私は硬直していた。
そんな私の胸にメリーは手をそっと添えた。
『ごめ……ん師匠……こんな難しい魔力操作……私には……私には……出来ないよ…………私じゃ……師匠を救えない……」
ボロボロと大粒の涙を流すメリーの手から温かいものを感じる。おそらく魔力を送ってくれているのだろうが、今の私ではそれを魔力だと認識することすら出来ない……。
私はメリーの手をギュっと握った。
「【メリー・ザルクレア】……あなたはきっと私を超える魔術師になります……私が保証します。あなたが私に胸を張れる功績を上げる術師になったと思う、その時がきたら
他の誰でもない……
あなたが【魔導卿】を名乗りなさい……」
涙でぐちゃぐちゃの顔のまま、無理をしてキリっとこっちを見つめるメリーは静かに目で返事をしてくれた。
あと何日、何時間……何秒生きられるかもわからないが、弟子に託して逝けることはこんなにも嬉しいものなのだな……。
非常に……
満足だ……
…………。




