おじさんの手品スレと、王宮の会議と、大学の先生からのDM
【手品?】タネを全部説明するおじさんを語るスレ 2【研修】
1:名無しさん 前スレが埋まったので立てた ひよりのひより見(登録者47人だった)の10月2日21時の配信に出てた「手だけのおじさん」を語るスレ
2:名無しさん 乙
3:名無しさん 前スレの121の続きだけど、俺も真似してみた 指を4本折るところまではできた そこからが無理 息を止めた瞬間に、なんか肺が痛くなる 「止める」が無理なんだよな
4:名無しさん
3 おれも同じ 止めたあとに指先に集中しようとすると、手が震える おじさんの手は動いてなかったよな?
5:名無しさん いや普通にCGだろ 傷が消えるとこなんて編集余裕
6:名無しさん 編集した跡ゼロだけど? フレーム数まで数えたやついるぞ
7:名無しさん おじさんの手、ずっと同じ位置にあったよな 説明しながら1ミリも動かない
8:名無しさん 定時退社おじさん ・説明:全部 ・退場:「時間なので失礼します」 → 21:30ピッタリでフェードアウト
9:名無しさん
8 定時退社おじさんwwwwwwww
10:名無しさん 定時退社おじさん、会社員だったんかな
11:名無しさん 前の会社の説明動画っぽいよな 「ここまでが初級、次は中級です」って感じ
12:名無しさん おじさん、多分元社畜
13:名無しさん 特定班だけど、あの部屋の壁紙、メーカーが潰れてる 製造年数から逆算すると築40年くらい ひよりの家っぽい
14:名無しさん 特定班仕事早すぎ問題
15:名無しさん
13 壁紙からそこまでわかるのやばい
16:名無しさん まとめ ・顔出しなし、映ってるのは手だけ ・《着火》《明かり》《治癒》を工程から全部説明(吸気4拍、詠唱は一息) ・ひよりの指の切り傷が消えた(本人「加工ではありません」) ・21:30ちょうどに「時間なので失礼します」で退席 ・本人「手品師ではありません。元品質管理です。今は無職です」
17:名無しさん 手品師じゃないって言うのが一番怪しいんだよな
18:名無しさん あのテンションで「これは魔法です」って言われたら信じるわ
19:名無しさん 誰か他にも真似してみて結果まとめろ 俺は肺が死んだ
20:名無しさん 4拍吸って、止めて、詠唱を一息で最後まで通した 指先から火が出るどころか、肺が焼けた
21:名無しさん
20 俺も同じ
22:名無しさん 吸気4拍はわかる 詠唱は一息で通すのもわかる 止めるのが無理
23:名無しさん
22 それな 息を止めた瞬間に肺が痛くなる
24:名無しさん 肺が痛くなるのは吸いすぎだろ
25:名無しさん
24 いや、吸いすぎじゃなくて、止めた瞬間に肺が痛くなるんだよ
26:名無しさん 傷はメイクだろ 消える傷とかありえん
27:名無しさん 定時退社おじさん、説明だけして帰るスタイル
28:名無しさん まとめサイト見たけど、タイトルが「元品質管理の手品師」になってた
29:名無しさん
28 職業がぐちゃぐちゃwwwwwwww
30:名無しさん
5だけど、CG説は取り下げる 手品師ならタネは隠す。この人、全部説明してる。しかも再現しようとした奴が全員失敗してる 説明が嘘か、説明が本当で俺たちにできないか、どっちかだ
31:名無しさん
30 急に静かになるのやめろ
32:名無しさん 考察班だけど、これ見つけた ひよりの個人アカの10月1日の投稿 台所のテーブルに白い角が1本置いてある写真で、本文は「おじさんが拾ってきた謎の角」
33:名無しさん おい待て
34:名無しさん え、角?
35:名無しさん 拾ってきたってどこから
36:名無しさん 物性の研究者だけど、この角の写真、樹脂にも骨にも見えないんだが
◇
王宮の会議室は、昼でも薄暗かった。
3か月目の5日の昼だった。東の城壁で夜が明けてから、半日しか経っていない。
長い卓の上座に国王が座り、左右に紺と黒のローブが並んでいる。宮廷魔導師だ。末席には白い法衣の男が1人、教会の代理として座っていた。
セレスティアは国王の右手の席で、両手を膝の上に揃えていた。長い銀髪の三つ編みが、肘の辺りで床に向かって垂れている。
「昨夜はたまたま、魔物が弱かったのでしょう」
城壁で「冒険者風情の素人は下がっていろ」と言った、古参の宮廷魔導師だ。古参は羊皮紙の報告書を指で叩いた。
「見習いが張った幕は、我々のものより薄かった。あれでよく持ったものです」
若手の宮廷魔導師が、顔を上げた。
「たまたまで、見習いの結界が我々より長く持ちますか」
「北は我々12人で、1時間。南は見習い20人で、夜明けまでです」
古参の、羊皮紙を叩く指が止まった。
国王は黙っていた。髭が一度だけ動いた。
末席の教会の代理が、白い法衣の襟を正した。
「王よ。昨夜の手順書ですが」
声は淡々としていた。
「あれは、教会の教えとは異なります。感覚で教えるべきものを、工程だの段取りだのと、細かく分けてしまう。あれは異端の書です」
卓の上の目が、全員、教会の代理に向いた。
国王は教会の代理を見なかった。
「異端かどうかを決めるのは教会か」
「はい。神の御業に、人の勝手な理屈を挟むべきではありません」
「では、昨夜の勝手な理屈で、城壁が守られたことはどう説明する」
教会の代理の眉がわずかに動いた。
「……それは」
「見習いが張った幕は、お前の言う神の御業よりも長く持った。神の御業は、人の理屈に負けたのか」
「いえ、そういう意味では」
「ではどういう意味だ」
「異端の審問は、王の裁可を経て行います。それが手続きです」
「では、裁可はしない」
国王は手を卓の上に置いた。
「昨夜の者を、客員の宮廷魔導師に迎える」
卓の下で、椅子の脚が床を擦る音がいくつかした。
「名を」
セレスティアが顔を上げた。
「シマ・コウイチ。わたくしの弟子です」
「弟子、か」
「はい」
「弟子が、城壁を守ったか」
「はい」
国王は卓の上に置いた手を握った。
「……その者が、望めば」
「望みません」
セレスティアの声は低かった。
「本人が嫌がります。定時があるので」
卓の上の空気が、一瞬だけ止まった。
古参の宮廷魔導師が、鼻で笑った。
「定時などという言い訳で、王命を断るのか」
若手の宮廷魔導師が、声を低くした。
「昨夜、城壁で言っていた。『定時なので失礼します』と」
古参が重ねた。
「王命が下れば、定時も何もあるまい」
セレスティアは膝の上の手を見たまま答えた。
「王命が嫌なのではありません。定時を超えるのが嫌なのです」
「彼は、自分の時間だけを守っています」
古参が羊皮紙を押しやった。
「素性も知れぬ冒険者を宮廷に迎えるなら、せめて試験を」
国王は古参を見て、うなずいた。
「では、試験を受けさせよ」
◇
10月4日、日曜の朝7時。
俺は台所で卵焼きを焼いていた。
火はガスだ。魔石は使っていない。卵焼きは、魔法より火加減の再現性が問題になる。
階段を駆け下りる足音がして、ひよりが台所に飛び込んできた。
「おじさん!」
声が大きい。卵焼きのフライパンが跳ねた。
「待って待って、おじさんスレ立ってるよ!」
ひよりはスマホを俺の目の前に突きつけた。
画面には文字が並んでいる。
【手品?】タネを全部説明するおじさんを語るスレ 2【研修】
俺は菜箸を置いた。
「スレ?」
「2スレ目! うちの壁紙の話まで出てる! 特定班仕事早すぎ!」
ひよりはスマホを振った。
画面の文字が揺れる。
「特定班って何だ」
「うちの壁紙のメーカーが潰れてるって言ってる人! あと角の写真見て『樹脂にも骨にも見えない』って研究者もいた!」
俺はフライパンをコンロの上に置いた。
卵焼きは少し焦げた。
居間の座卓に、家族が揃い始めた。
母が湯呑を持ってきて、座卓の上に並べる。
「また何かやったの、恒ちゃん」
「兄貴、ネットに顔出してなくてよかったな」
「手品師じゃないのに、手品師って呼ばれてるんですね」
父が新聞を畳んだ。
「本物だろ」
低い声だった。
父は俺を見なかった。
俺は卵焼きを皿に移した。
少し焦げたところを、自分の皿に寄せる。
「壁紙、張り替えるか」
「今それかよ」
「お義兄さん、ずれてます」
ひよりが、スマホの画面をタップした。
「登録者、昨日の昼は3,874だったよね?」
「ああ」
「今、9,800。1日で増えたの、5,926人」
「表示は丸めてある。5,926とは限らない」
「そこ?」
「そこだ」
「おじさんさあ……。あと、これ」
ひよりが画面をこちらに向けた。
DMの通知だ。
『突然失礼します。東央大学 物性物理学研究室の稲葉と申します。10月1日に投稿されていた白い角の写真について、お話を伺えませんか』
ひよりが声に出して読んだ。
俺は卵焼きを一口食べた。
「……ホームセンターの裏で拾ったことになっています」
「それで通ると思ってんの」




