負けられない
「瑠!初戦で開始5分の初ゴール!」
かあちゃんから連絡が来た。
「イワシさんとの1対1ドリブル突破からのカットインでシュート!」
実況アナウンサーかw
なぜかドイツ語の横断幕と瑠のユニ着てるかあちゃん、笑顔で指さす瑠。
母ちゃん、誰よりもサポーターだし、僕の時は着なかったユニ着てるし・・・
まぁ、かあちゃんに向けてるんだろうけど、こちらを指さして笑う瑠は
「私は一歩、近づいたよ」って言ってるみたいだ。
おめでとう。とか、言ってる場合じゃないな。
僕も・・・やらなきゃ。
2026年、この年のW杯はキーパーが主役だった。
スーパーセーブ。
ビルドアップ。
一本のロングフィードで試合をひっくり返す。
日本代表の若い大型キーパーも世界を驚かせた。
……すごい。
でも、あそこに立ちたい。
僕が日本代表に招集されるには、ブンデスリーガであれ以上の結果を出さなきゃならない。
それもあるけど、
何より自分のやりたいプレイができなきゃ、ここに来た意味がない。
そして、瑠に負けられない。
ドイツは、正キーパー固定のクラブが多いんだ。
日本ほどカップ戦でのメンバー入れ替えもない。
つまり、練習して、練習して、出番をひたすら待つ!
僕は、練習では評価されてる…と思う。
第2キーパーはベンチに入るが、ベンチで90分を終える試合が続く。ベテランの正キーパーはサポーターの信頼も監督の信頼も抜群に得てる。
そりゃ、出番は待つしかない。
機会さえあれば。
出してくれたら、やる。
ひたすらポジティブにベンチをあっためていたら、出番は突然来た。
「明日、お前がゴールを守れ。」
監督が笑顔で言った。
僕?マジか!
チャンスだ!
でも、なんで?
「奥さんが、産気づいた。今から休みをもらうよ」ベテランキーパーは笑顔で言った。
よかった。怪我じゃなかったんだ。監督は
「代わりはいる。安心して休むといい」そう言って僕の肩をポンポンと叩いた。
そんな理由で回ってきた出番を、喜んでいいのか分からなかったけど、彼にとっても僕にとってもハッピーな理由だから
「任しといて!Viel Glück, Papa!」
「Danke.楽しめ。
いつも通りでいい。ゴールは、お前が守れ」
そう言って彼はロッカールームを出て行った。
これは、絶対勝利で、いや、無失点でゆりかごパフォーマンスしなきゃ!
彼が教えてくれたことを勝利で返したい。
自分を変える。
彼を見習う。
自分の強みを磨く。
サポーターに認められるために。
監督に認められるために。
世界と戦うために。
このために、僕はここへ来た。
翌日。
ブンデスリーガのピッチに立つ。
初めて、自分の名前がスタジアムに響いた。
練習試合の何百倍の地鳴りのような声量。
Zuki!Zuki!Zuki!
Laser!
ゴール前に立つ。
目の前には、何万人ものサポーター。
全身を包まれるような、ピッチから這い上がってくるようなサポーターの声、チームカラーが波打つ。
僕はゴールキックを打ち放つ。
まるでレーザービームのように。
ここが、僕のスタートラインだ。
「Zuki」って、ドラゴンマスクの由来「都築」と1字違いと気がついた。ドラゴンマスクは、僕にも勇気をくれるんだ。




