Zuki!
2部のカールスルーエの試合はDAZNで放映されない。
つまり、僕の活躍は日本には伝わらない。
なんでそこに頭が働かなかったかなー
見てもらえなかったら代表に入れない。
日本の2部の方が代表監督の目についたよなー。
まぁ、もともと目立つのは好きじゃないから、そこを重視して決めたわけじゃない。
頑張ってれば、誰か見ててくれるよね。
活躍って自分で書いちゃったけど、出産休暇をとったベテランゴールキーパーの代わりにスタメンを張った試合で、僕はセーブとロングフィードで暴れまくった。
僕としては珍しいことで、多分、サポーターとスタジアムの雰囲気に高揚していたんだと思う。
「Links! Schieb!」
ドイツ語が拙い僕でも怒鳴ればなんとなくそう聞こえて動いてくれる。
ベテランキーパーに習ったコーチングだ。
「Rechts!とlinks!これさえ間違えなきゃ大丈夫」
簡潔でありがたい。それに日本語より「命令してる」感がなくて怒鳴りやすい。
ゴールキックがアシストになった時には、柄にもなくパフォーマンスしてしまった。放映がないなら言いたい放題、やりたい放題と思っていたら、SNSでバズってしまった。
今の時代、誰か一人がスマホで撮れば終わりだった。
それも丁寧に僕のレーザービームなロングフィードからのゴールからのパフォーマンスを編集してくれていた。なんかそれだけで、カッコよくなっちゃってる。
てか、恥ずかしいくらい派手な男がモニターに映ってて「自分じゃない!」と身内には言いたい。
世界中に発信されてたら、見つかるのは仕方ない。
……律には…律だけには、見つからないでくれー
でも、瑠には見せたくないな。
・・・・かあちゃんからLINEだ・・・嫌な予感しかしない。
「ねぇ、これ、君?」
あの動画が付いていた…情報、早いな〜
「違う」と言ってみる。
「そうだよね〜!かっこいいもん」
・・・失礼だな!・・・
確かにあの動画はかっこいい。名前も「Zuki」しか出てこないからわかんないよな。
「カッコ良すぎて、都築かと思ちゃったよ。Zukiだし」
「瑠ともさー『これ、違うよね?』って話してたのよ」
瑠も見たんだ。
終わったー
え?「違うよね?」って話したの?
「私もこんなにカッコよくないって言ったんだけどね。
瑠はフィルターかかっちゃってるからさ。『そうだ』って言い張るのよ」
瑠の方がわかってる。フィルターってなんだよ。
「サポーターの声『Zuki!』ってかっこいい響きだよね」
そうなんだよね。ドイツの「Z」の発音は、力強くてグッと腹に響くんだ。
「そうそう、あれ、日本のスポーツ番組にも流れてたよ。謎の日本人選手って」
謎の日本人?
密輸じゃないんだから。ちゃんと正規ルートで移籍してるよ。
「うん。君を知ってる人はみんな『君のプレイスタイルじゃないから違う』って」
複雑だ・・・
「ドラゴンマスクかな」とかあちゃんは言った。
そうだね。きっとドラゴンマスクだ。と、僕は返した。
「頑張れよ」と変なスタンプが返ってきたので、
僕も「お前もな」と変なスタンプを返した。
まさか、この一本の動画が
僕の人生を動かすなんて、この時は思ってもいなかった。




