ドイツ
雪。
日本でも関東平野育ちの僕にとって、この雪景色は1年に1回見るか見ないかの風景だ。フランクフルト空港。周囲で話している言葉は全くわからない。代理人と二人。これからICEで1時間ほど移動して契約のため、クラブに向かう。
・・・・
予定だった。
「ねぇねぇ、ソーセージ食べてから行こうよーフランクフルトだよ?」
「律、遊びに来たんじゃないんだから」
「えードイツに来たら、ビールにソーセージだろ!」
・・・・
フランクフルト空港に降り立ったのは、僕と代理人と律の3人。
なんでこんなことになったかというと、
「契約にドイツに行く」と言ったら
「わかった。俺も行く。契約の勉強させてくれ」と、どこかで聞いたことあるような理由でついてきた。
まぁ、自腹で来てるから文句はないけど、どう考えても遊びに来てるでしょ?
「律、僕は契約できてるんだから飲むわけいかないんだよ!」
「じゃ、俺が飲む!」
「じゃ、置いていく!」
なんでドイツまで来て、律の面倒見なきゃなんないんだよ。
代理人は大笑いして僕らのやりとりを見ている。
「わーった!契約終わったらでいいや。楽しみ〜」
まったく・・・。
瑠の契約の時もこんなんだったのかな。
カールスルーエはもうクリスマスマーケットが始まっていた。ライトアップされた街は、僕にとって「The 外国」だった。かあちゃんと海外なんて行ったこともないし、僕にとってサッカー場以外に初めて海外の景色を見るのだから、何もかもが「わー外国だー」と珍しく映る。でも、仕事だから言葉にはしない。律は違う。「見ろよー!キレー!すげー!」の連発だ。
でも、クラブハウスに入り、僕も見つけてしまった。
オリバー・カーンだ。
壁に世界1のゴールキーパーと称されたオリバー・カーンの写真が壁に飾られていた。ここはオリバー・カーンを育てたクラブなのだ。
さすがの律も黙って見つめていた。
身が引き締まる。
かつて憧れた選手。もちろん、今でも尊敬している。
ゴールキーパーに指名された時、律が買ってくれたキーパーグローブはオリバー・カーンモデルだった。穴があくまで、相棒として使い切った。サインが刺繍されていて、押し込まれる試合には勇気をもらった。
その選手と同じクラブでプレイをするんだ。
改めて体が熱くなるのを感じた。
契約は、事前に代理人と念入りに話し合っていたので、律の出る幕はない。日本人選手はもう一人いて、通訳やドイツ語レッスン、生活についても話し合い、僕に丁寧に説明をしてくれた。納得した上でサインをした。律はただただ頷いていた。何しに来たんだか。
「俺さー思ったんだけど」
契約も終わり念願のビールとソーセージにありついた律が言った。
「ドイツは2部でも契約が丁寧だよな。日本の女子プロ選手と全然違う。カールスルーエは女子チームもあるよな?」
「あるよ」
「日本も経営から、もっと世界レベルにならないとな」
「そこに目を向けてください。来た甲斐がありましたね」代理人が律に笑顔でビールジョッキを合わせた。
そっか、律は瑠と僕の契約を比較してみてたのか。女子サッカーがその国にとってどんな存在なのか。選手との契約条件を見ればわかる。
まだまだってことがわかったんだな。
律は、ソーセージを頬張りながら、もう次のことを考えていた。
女子サッカー。
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契約。
せっかくドイツまで来たのに、あいつの頭の中はずっと日本だった。
律はバカだけど熱がある。
でも、そういうバカがいるから、安心して日本を離れられる。
安心してドイツでサッカーができる。
かあちゃんのため、瑠のため、いや、日本の女子サッカーのために頑張れ、律。
よし。
僕は、僕のサッカーをやろう。
美しい街並みを見ながら、
「僕のサッカーでこの街を歓喜で溢れさせる」
そう、誓った。




